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事例

データベース、システム、人、組織、業務を結ぶ「統合型GIS」

宇治市役所GIS利用促進検討委員会

 

職員による業務分析と課を超えた協議から生み出された、業務を支えるGIS基盤。

GIS利用促進検討委員会が構築してきたGISの「利用基盤」が業務へのGIS適用を支える。

業務に根ざしたGIS

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宇治市は京都府南部に位置師、古来より京都と奈良を結ぶ交通の要所として栄えてきた都市で、19万人の人口と世界遺産である平等院や宇治上神社を有している。また、お茶も名産であり『お茶と観光のまち』として、年間410万人が訪れる日本有数の観光都市である。

この宇治市では、平成16年末より、本格的にGIS利用が開始され、先進的な取組みが行われつつある。宇治市のGIS利用の特徴は2つある。1つは、各所属の代表者が参加し、GISによる業務の高度化や効率化を全体で議論する「GIS利用促進検討委員会」が設置・運営されていること。もう1つは、当委員会で「業務」中心のGIS利用検討が推進されているこ
とである。

当委員会は当初、「GIS検討委員会」という名称で立ち上げられた。平成16年12月より、毎月定例で開催され、市役所全体のGIS利用を段階的に拡大してきた。当委員会を主導するIT推進課中村主幹は、「当初はまさに、GISって何?という状態からのスタートでしたが、勉強を続け基盤整備まで実現できました」と語る。

第1期:平成16年12月~17年3月「調査・検討」段階
第2期:平成17年5月~18年3月「基盤整備」段階
第3期:平成18年4月~19年3月「利用拡大」段階

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業務分析を行っている様子

基盤整備には2つの意味がある。1つが「統合型GIS」の構築・運用であり、もう1つが「人・組織づくり」である。統合型GISは、各課の業務で共通利用可能なGIS利用基盤である。地図データをArcSDEで管理し、地図閲覧用のWebアプリケーションをArcIMSで提供するしくみである。また、人・組織づくりは、GIS機能と業務を関連させて発想できる人材や組織づくりである。GISを業務に活用するには、人のアイデア、知恵、工夫などが欠かせない。このような認識の下、当市では、職員の業務分析能力や、GISスキルの向上を目的とした勉強会などを実施してきた。

新業務「水路占用調査」

平成17年4月、地方分権の流れを受け、法定外公共物(旧固有水路)の管理業務が国(京都府)から宇治市に移管された。当市では建設総務課がこの新しい業務の担当になった。水路は公共用物であり、水路内を占用しようとする場合、水路管理者の許可が必要となる。市は移管された水路ですでに許可を受けている内容(約200件)と実際の占用物を、現地で照合・確認しなければならなくなった。建設総務課ではこの新しい業務を限られた人数と時間の中で効率よく遂行する必要に迫られた。

POS(屋外調査支援システム)の紹介

この状況を見て、GIS検討委員会のアドバイザの京都大学防災研究所、浦川研究員(当時)から「POSというシステムを利用してみては」という提案が行われた。POSはPDA(Personal Digital Assistants)とGPS(Global Positioning System)を利用する屋外調査支援ツールであり、新潟県中越地震における家屋被災度判定用に開発された調査支援ツールを、各種調査に利用できるように汎用化したArcPadベースのシステムであった。「検討委員会に参加されている宇治市の職員の方には、新技術も積極的に導入するセンスを感じていました。POSも当時開発中でしたが思い切って紹介できました。また統合型GISの地図データをそのまま切出して使えるというメリットもありました」と浦川氏は振り返る。

POSの試験的導入

平成17年8月、新ツールの試験的導入が開始された。ツールの操作方法は、ツールの開発者から直接指導を受けた。

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また、調査を含む許可判断等の業務の進め方については、建設総務課平野係長(当時)を中心に協議され、試行錯誤しながら固めていくことになった。

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現地調査の様子

一般的に、PDAでの文字入力は手聞がかかるが、本調査ではPOSの入力フォーム作成機能を利用し、水路占用調査用の入力フォームを調査前に事務所で作成した。また、現地の地図をPDAに表示できるように、統合型GISから地図データを切出し、PDAに転送した。

 

その後、現地調査に出て、数箇所のポイントを決めて、実際に調査してみた。現地では様々な要求が発生した。調査項目や入力項目、PDAの操作、地図表示方法など、現場で感じる不便さを1つ1つ改善した。

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PDAの画面

例えば、現場の経験から次のような効率化のためのノウハウが生まれた。『申請書の住所をアドレスマッチングでポイント化し、PDAで表示する。その際、申請番号も表示し、現地で属性と位置を更新する』は、調査時間の短縮のためのアイデアである。現地での対象物発見と申請書との照合の時間を劇的に短縮した。『調査前、調査後でポイントの表示色を変更する』は、調査前後のポイン卜の表示色を区別することで調査の取りこぼしを無くす工夫である。

このようにして屋外の調査業務は次第に改善されていった。ツールに慣れると別業務の合間に、調査に出ることが可能になった。アドレスマッチングで配置した申請箇所を地図上で確認し、空き時聞に回れそうな地域を選んで調査するという柔軟さである。こうしてすべての調査が平成18年1月までに完了した。

IT推進課との連携

宇治市役所での円滑なGIS運用を支えるのはIT推進課との連携である。
業務へのGISの適用からGISソフトウェアの操作までIT推進課の今荘氏に支援要請が入る。水路占用調査においても役割分担し、業務系の検討、適用は建設総務課、GIS系の背景図の準備、調査箇所のアドレスマッチングなどはIT推進課が担当。こうした業務担当者とIT担当者間の連携がスムーズな新規ツール導入の秘訣でもあった。

IT推進課と各課との連携における重要なポイントは、業務体系を理解した上での技術支援である。GISは比較的複雑なシステムであり、データベース、ハードウェア、ソフトウェア等の複数の要素技術を組み合わせたシステムである。業務への適用の最適化は、業務の理解なしには不可能である。

現在、当委員会では「業務の見える化」プロジェクトを推進中である。業務分析を各所属の担当者が行い、業務における情報の流れを可視化する。業務体系の理解にかかるIT推進課の負荷軽減と理解促進を同時に実現するのがねらいだ。「宇治市のGISはよい方向に進んできた。基盤ができた今が業務活用への正念場だ」と中村主幹。

GISの有用性と今後の展開

建設総務課のPOSの導入効果を実感した資産税課田中氏は、固定資産家屋の現状把握のために一定地区に対するサンプル調査を行う際にPOSを導入した。POSを導入したことにより、現地調査からその集計、分析、結果の資料作成までの業務工程を効率的に行うことができた。この結果資料をもとに企画部門に提出する計画をまとめた。

平成18年度から「GIS検討委員会」は、「GIS利用促進検討委員会」と名称変更され、16課22名の委員は各課業務へのGIS利用を促進中。宇治市の「統合型GIS」は、消火栓・防火水槽の管理、集会所管理、農業振興地域・地番の管理、用途地域図の編集など、各種業務に幅広く活用されている。

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掲載日

  • 2007年1月1日