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事例

油流出事故による環境への影響を最小限に 「北海道海岸環境情報図」

北海道立地質研究所

 

タンカー事故などによる大規模油流出事故。環境に深刻なダメージを与える油汚染の影響を最小限に抑えるためにGISを活用。

北海道立地質研究所によって整備される北海道海岸環境情報図。GISを活用して、汚染された海岸で効率的な油除去作業を行うための取組みが行われている。

背景

地震・火山等による災害危険度を想定したハザードマップ(災害予測図)は国や自治体により整備が進められている。一方、タンカー事故などの大規模油汚染事故に対する海岸のハザードマップの整備と普及は、十分に進められているとは言えない。

1997年に発生したナホトカ号重油流出事故による油汚染は、島根県から秋田県の広範囲に及んだ。このような大規模な油汚染事故では、全ての海岸を完全に防除する事は困難であり、どの海岸を優先的に対処すべきか、客観的な情報図を用いて対処する必要がある。

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米国では油汚染に対する沿岸の環境特性を示すため、油汚染の影響が大きい地形や生物資源、社会施設の情報を環境脆弱性指標地図(Environmental Sensitivity Index map :ESIマップ)に分かりやすく整理している。

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海岸線の分類

ESIマップで分類される海岸地形は、油の自然残留特性や適切な回収作業方法、油回収作業の難易度に関係する。たとえば、波が強くあたる断崖海岸に付着した油は人が防除しなくても比較的短時間で洗い流される一方、波の弱い湾奥の湿地に入り込んだ油は長期的に残留する可能性が高く、防除作業も困難である。地形の違いにより重機のアクセス条件も変化する。これらの特性からESIマップは海岸を大局的に10段階に分類し、影響の大きい海岸を10としている。

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北海道立地質研究所では、このNOAAのガイドラインを基本にしてナホトカ号重油流出事故後の油残留特性の検証結果も参考に加え、分類基準を新たに作成した。

GISによる北海道海岸環境情報図の作成

海岸における現地調査データはArcViewのホットリンク機能やテーブル結合機能を活用し、ポイントデータとしてGISデータ化した。海岸構造物や干潟の判読にはImage Analysisを使用し、北海道庁で所有する空中写真などを幾何補正して使用した。判読には北海道庁および海上保安庁の協力による空撮資料も活用した。これらの作業により、総延長約3000kmの北海道の海岸を、3万数千個のポリラインデータとポリゴンデータで表示した。

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GISは地図として迅速に視覚化できるだけではなく、空中写真や衛星画像の活用が容易であることや、地形改変に合わせて容易かつ安価にデータベースを更新・公開できることが大きなメリットとなっている。また集計機能により、任意の範囲の海岸性状の構成比率などを迅速に計算することができる。

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オホーツク海沿岸の海岸には車両アクセスの容易な砂浜が全体の4分の1を占める。ナホトカ号重油流出事故では砂浜における過剰な重機の使用により、砂と油の混合物が大量に発生し、その後処理が問題となった教訓があるため、北海道においても注意が必要である。

北海道立地質研究所で整備された北海道海岸環境情報図は、研究所のウェブサイトから一般に公開されており、PDF形式の情報図が自由にダウンロード可能である。公開された情報図は、油汚染対策のみならず、津波ハザードマップに活用されたり、海岸に生息する底生生物の調査や海岸のアウトドア活動などにも利用されている。

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今後について

「大規模な油汚染事故で海岸が汚染された場合、全ての漂着油を完全に回収することは非常に困難です。そのためどこの海岸を優先的に処置しなければいけないかを客観的に判断する情報図が必要と考えられます。実際の自然環境には複合的な要素があり、それらを考慮して対策を練る必要があります。このような情報の整理と解析にはGISがとても有効なツールと感じています。」と語る濱田氏。

北海道立地質研究所は、北海道の地学情報センターとして、調査研究成果等を迅速に情報配信し、詳細な情報提供を行うためにWebGISを利用している。現在は、活火山防災に関するデータマップがArcIMSにより配信されており、今後は、北海道海岸環境情報図もWebGIS形式により広く一般公開することが予定されている。

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プロフィール


北海道立地質研究所(札幌市)にて
右から高見科長、濱田氏、鈴木氏、小澤氏



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資料

掲載日

  • 2007年1月1日