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固定資産税家屋全棟調査を事業化するためのGISによる調査分析

宇治市総務部税務室資産税

 

固定資産税家屋全棟調査事業の企画・立案のための現地サンプル調査と分析を職員自らGISで実施し、予算獲得と事業化を実現。

現地サンプル調査の効率化の解決策としてPDAを有効活用し、調査後のPCへのデータ入力を不要とした。
また調査結果をArcViewで可視化するとともに、Excelで事業の費用対効果分析を実施。

庁内でのGIS活用のタイプ

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本事例は宇治市庁内の3つの活用タイプのうち、「2.企画・立案」の事例である。本事例はこれまで多く見られた業務効率化のためのGIS利用とは異なるタイプの利用事例である。事業予算獲得の基礎資料作成のための調査や分析にGISがいかに有効な手段となり得るかを示唆する事例である。固定資産課税業務における家屋全棟調査の事業予算獲得までのプロセスを紹介する。

不一致家屋

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不一致家屋とは現況と課税状況が違う家屋のことである。台帳作成時点以降に発生する新築・増築家屋の情報が適切に台帳に反映されないと不一致家屋が発生する。不一致家屋は公平課税や税収確保の観点から可能な限り極小化する必要がある。

そこで宇治市資産税課ではまず「不一致の程度の把握」を行うためサンプル調査を実施することにした。この調査結果から全体家屋72,000棟の15%(約10,000棟)が不一致家屋であると推定し、全棟調査の費用と税収増加による効果の客観的な評価を経て、全棟調査の事業実施まで至る。

サンプル調査

平成18年5月よりサンプル調査が実施された。この調査は翌、平成19年度より実施を計画する「家屋全棟調査」の仕様決定のための調査、分析を目的として、宇治市の一定地区を対象に実施された。調査地区は以下の基準で3地区設定された。

ア.街区と山間地域の不一致の状況を把握するために、市街化区域内から2地区、市街化区域外から1地区選択すること。

イ.市街化区域内で選択する地区においては、昭和に建築された家屋と平成に建築された家屋が混在している地区であること。

ウ.地区内にある家屋が調査可能な数であること。

この基準で選択された地区の概要は下表の通り。

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調査チームは、資産税課家屋係6人で3チームが形成された。調査には資料とツールを携行した。資料は家屋調査表と呼ばれ、家屋形状などの課税内容が記されている紙媒体の資料。ツールはPDA(Personal Digital Assistants) 3台。

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調査は平常業務と並行実施するので、手間と時間のコストを最小化する必要があり、データ入力を現地で完結できるPDAを選択した。これにより調査後のPCへのデータ入力作業が不要となった。PDAにはGISソフトウェアArcPadをインストールし、調査地区の地番図デー夕、家屋ポリゴンなどをベースマップとして投入。調査箇所のポイン卜入力と属性データを入力するための入力フォームがセットされた。これにより調査は効率良く進められた。携行資料、機材の準備、現地調査、結果の取りまとめを含め、調査対象986棟を74人時で完了した。調査期間は平成18年5月11日~6月21日。

調査結果の分析

調査結果をExcelで集計し、把握漏れの数を把握した。

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さらに航空写真の判読結果との比較を行い、どこまで航空写真で確認できるのかを確認した。その結果、軒下の増築など航空写真で把握できないケースが一定割合以上あることがわかった。結論として公平課税の観点から、航空写真で把握できた物件のみを対象に現地調査するのではなく、全棟現地調査を行う業務仕様とすることにした。

全棟調査企画書作成

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「全棟調査の費用と効果はどれほどか?」これが事業実施の判断材料となる。サンプル調査の結果に一定の条件(経年減点補正率を最低の0.2と仮定)を仮定して増収額を算出した。その額は年間で約3,000万円となった。一方、全棟調査の外部委託業者の費用見積は1億3000万円。約4年で回収できることを確認した。

この結果を企画部門に提出する企画書として整理した。また直観的な理解を促すための地図をArcViewで作成した。これにより地区ごとの把握漏れの特徴が理解しやすくなった。

これにより、平成20年度から3カ年の全棟調査の事業化が決定され実施に移ることになった。「サンプル調査を実施したことで、事業の仕様をこちらで作成することができ、その仕様を委託業者に示すことにより、業務見積もより具体的に行え、契約額が適正なものになる効果もあったのではないか」と小山氏は語った。

宇治市のGIS利用環境

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宇治市では部署を横断する形でのGIS利用環境が整備されている(※1)。業務、組織、人材面では、「宇治市GIS利活用促進検討委員会」が組織されており、月例で業務に根ざしたGIS活用のための業務的、技術的意見交換、調整が行われている。また、システム面においては、WebべースのエンタープライズGIS、汎用GIS(ArcView)、モバイルGIS
(ArcPad)、業務特化GIS(Pascal等)などが導入済みである。さらに、データについては、共用空間データとして住宅地図、都市計画図、航空写真等が利用できる環境が整備されている。

プロフィール


小山 氏



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掲載日

  • 2009年1月1日