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事例

災害初動体制の早期確立を支援する地震被災度予測GISシステム

清水建設株式会社

 

早く確実に震源情報と震度分布地図を各組織に提供

緊急地震速報の震源情報を基に即時に震度分布を予測し、GISを用いて端末画面上に震度と建物被災度の予測結果を重ねて表示する。早く確実に地震情報を送信することにより初動対応の確立を支援し、被害を最小限に抑える。

清水建設技術研究所

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清水建設株式会社 技術研究所の建物

清水建設技術研究所は地震防災研究のパイオニアとして長年日本トップクラスの地震動解析や耐震・免制震の技術開発に携っている。また、政府の地震調査委員会の地震動予測地図作成を担当している(独)防災科学技術研究所の業務も支援している。地震被災度予測GISシステムは「総合地震防災システム」の一部として南部氏を中心に開発された。

南部氏は長年にわたるArcInfoユーザで、GISを利用した防災(特に地震)や都市計画の研究に携っている。本システムでは長年培われた南部氏の知識と技術を大いに活用したものとなった。また、南部氏は地域安全学会GIS推進特別委員会などの学会活動も活発に参加しており、GIS地震防災分野では先駆者的な存在である。

地震被災度予測GISシステム

日本では、体に感じる地震が年間およそ千数百回発生している。地震などの災害時には、的確な情報把握とそれに基づいた適切な初動対応が被害を最小限に抑えるのに必須となる。気象庁では、全国の地震活動を24時間監視しており、日本およびその周辺で地震が発生すると、緊急地震速報や地震情報を配信している。清水建設技術研究所で開発された本システムはGISを活用することによって、緊急地震速報の受信者に対して早く確実に震源情報と被害予測を提供し、災害時の初動対応の確立を支援している。一部の自治体の災害本部にあるような大規模で高機能な被害予測・情報システムとは異なり、広域にわたって店舗を所有している企業や工場内の実働レベルの組織に配備されているクライアントに対して、地震の場所や被害程度の予測地図を早急に提供する。例えば、地震被害予測情報を各担当部署に提供することにより、工場のライン停止などの、必要な地震後の初動対応の準備支援を行う。

緊急地震速報とは?

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総合地震防災システム概要図

気象庁の地震情報の中でも、最も早く(地震発生約2分後)一般に発表される「震度速報」は震度3以上の大まかなエリアを表しているが、震源に関する情報は含まれていない。「緊急地震速報」とは、地震発生後、数秒から数十秒後に気象庁より専用回線等を経由して発信される震源位置、規模、予測震度等に関する情報である。全国的に整備された地震観測網によって、地震発生の際に、震源地に最も近い専用地震計により検知されたP波(初期微動)の初動データをもとにした分析結果として気象庁から提供されている。S波(主要動)が到着する前に各地の予想震度や到達時刻を知ることが出来るため、防災への活用が期待されている。ただし震源が極めて近い場合には、P波を感知してからS波が到着するまでの時聞が非常に短いため、上記のような対応策に使用するのは困難である。緊急地震速報は、地震発生直前の緊急動作への誘導、設備機器等の制御に加えて、地震概要の把握と早期対応に大きな意義があると考えられる。

システムの概要

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地震被災度予測システムによって
作成された地震被害予想図

本システムは「総合地震防災システム』の重要な役割を担っている。「総合地震防災システム」は、本システムに加えて機械・設備制御システム、即時情報伝達・警報システムで構成されており、地震時対応の支援を包括的に提供している。

LinuxPC上で穂動している受信システムが気象庁より配信される緊急地震速報を受信すると、「総合地震防災システム」の処理が自動的に始される。この受信情報が地震被災度予測GISシステムに送られることによって震度分布・被災度予測の処理が開始される。

地震被災度予測GISシステムでは受信した震源情報をもとに震度予測が行われる。国土数値情報を使用するため地域区分は3次メッシュ、範囲は震源地を中心とする約500キロメートル四方のメッシュとし、予測結果は1メッシュを1ピクセルとする画像ファイルに書き出される。併せて、他のGISレイヤと重ねて表示するため、ワールドファイル(空間座標上の位置情報が記述してあるファイル)も作成される。また、データベースから震度5弱以上の地域にある施設を検索レ、建物の被災度を予測し、ポイントのシェープファイルとして属性情報(構造種別、階高、建築年など)とともに保存される。この他、クライアント側でのデータ閲覧用のアプリケーションとして使用されているArcExplorerの雛形も作成される。

クライアントプログラムが地震被災度予測GISシステムから必要なファイルの配信を受けると、自動的にArcExplorerを起動レてプロジェクトファイルを聞き、震度分布・被災度予測図を表示する。閲覧者はArcExplorerが持つGIS機能により、地図の拡大・縮小、レイヤの表示・非表示などを行うことができる。

ArcGISの有用性

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作業中の南部氏

本システムでは、データ処理・作成ではカスタマイズされたArclnfoが導入されている。気象庁より迅速にかつ正確にデータを配信するため、緊急地震速報が入り次第自動的にデータ処理が開始されるようになっている。

本システムのクライアント側のアプリケーションは以下の理由でArcExplorerが導入された。①基本的なGIS機能を備えている閲覧アプリケーションである。②多数配布できる、無料のアプリケーションである。③Windowsだけではなく、UNIX上でも稼動する。また、データの作成制御を自動で行うため、データフォーマットが公開されているシェープファイルを用いている。

今後の展開

今後は、震度予測手法の改良等を予定している。併せて利用者の拡大を図り、意見を聞きながらシステムの改良の検討を進めていきたい。「災害時の初動対策だけではなく、災害発生後の対応、例えば避難時の安全確保などに活用してほしい。早く分かりやすく提供されるGIS情報大変有用なものになるだろう。」と、南部氏は語った。

プロフィール


清水建設株式会社 技術研究所
南部 世紀夫 主任研究員



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資料

掲載日

  • 2007年1月1日