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事例

「奈良町」の災害危険度予測。歴史的景観保存と災害危険度を可視化

奈良大学

 

現地調査によって取得したデータからシミュレーションによって歴史的地域の景観保存と地域防災を解明する

奈良大学碓井研究室では、奈良町における道路の安全性に関する研究を行っている。授業の一環として現地調査を行い、防災・歴史的景観保存などの地域問題におけるGISの活用法について学んでいる。

景観保全と災害対策の弊害

『奈良町』とは、学問的には江戸時代の町並み、つまり奈良旧市街地の町並みの総称であるが、現在では、一般的に奈良市都市景観形成条例によって指定されている地域を中心にその周辺一帯を指す場合が多い。奈良町は奈良市中心市街地に位置しており多くの文化財・観光地を有している。また、江戸・昭和初期の木造町家が存在し、当時の景観が保たれている。

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奈良町の景観を形成している狭い路地と古い木造町家の密集状況は、同時に地震災害時の危険性が高いという側面も持つ。たとえば、阪神・淡路大震災で大きな被害を生んだ道路閉塞の危険性があげられる。道路閉塞とは建物の倒壊によって道路が通行不能となる状態のことで、被災地での移動障害となり、災害直後の避難・消防・救助といった緊急性を伴う活動や、復興時にはライフラインの復旧の遅延を引き起こす。奈良町は条例による景観配慮の観点から狭瞳道路の維持もやむ得ないため、防災面の危険性が拭いきれない。

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研究方法

本研究は授業の一環として、碓井教授とティーチングアシスタントによる指導の元で行っている。学部生は地域調査によって歴史的町並みの防災上の問題点を捉え、データ入力やGISによる空間分析作業を通じて操作手法を学んでいく。

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1.現地調査

調査用データとレては主に建物(ポリゴン)と道路(ポリライン)を使用している。建物データは町家の家屋現況、道路データは幅員の調査用である。市販のデータでは建物データの形状や属性が現況と一致しない箇所があり、特に袋小路のような非常に細い街路はデータに含まれていない。そのため、現況と異なる箇所についてはGPS計測による現地調査でデータを補った。また、本研究では道路幅員の属性情報が特に重要である。そのため、各道路の幅員も袋小路に至るまで詳細に調査した。

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2.データ構築

データ構築過程では、まず道路閉塞の要因となる瓦礫占拠領域の算出を行った。これは建物が倒壊した際、隣接道路に対してどれだけ影響を及ぼすかというもので、建物の階数、構造によって影響度が異なる。そして、一定の幅員を有して五棟占拠領域が道路形状に重ならない道路を安全道路と定義し、それぞれGISの空間分析機能を使用して道路の危険度を算出した。

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3.分析

本研究では道路網の突差点をノード、ノード聞をチェインと呼ぷ。各チェインに対し、道路幅員の属性からバッファポリゴンを発生させ、瓦礫占有領域とのオーバレイ量によって道路危険度を算出した。この道路危険度から、各ノードに対し最短経路移動時の危険度を加算することによって移動危険度を求めた。

4.可視化

分析結果から道路の閉塞度を求めることができ、各建物から安全道路へ避難するまでの経路にどれだけ障害があるかを計算できる。この計算結果をもとに建物1棟当たりの危険度を指標化し、TINで補間することによって地域の危険度を3次元で視覚的に表現した。

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分析によって見えてくる地域防災の問題点

奈良町では、避難が困難で危険度の高い地域が局所的に存在していることが判明した。木造家屋と袋小路が多い地域は、建物密集度が高い地域と一致する。また、建物密集度が他地域と比べて平均的であっても、安全道路にたどり着くまでの距離が長くなるとともわかり、奈良町の危険度が高いことが明らかになった。

今後の課題

本調査によって、道路閉塞の危険性が高い地域を明らかにすることができた。この結果を元に、今後は住民へ災害リスクの認識を促したい。特に危険度の高い歴史的保存地域における避難・救助・消火活動・ライフラインの復旧や復興への有効な方策を提示することが今後の研究課題といえる。住民自身の取り組みによる地域防災対策により、災害時の被害を抑えることができると考えている。

また、奈良市の町家、袋小路は奈良市都市景観形成地区に限らず市街地に広くに分布している。そのため、年度ごとに調査範囲を拡大しており、2006年度では約2km四方を対象地域としている。今後はより広い範囲で災害予測をシミュレーションする予定である。

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プロフィール


碓井研究室メンバー
写真中央:碓井 照子教授 他:大学院専攻生



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資料

掲載日

  • 2007年1月1日