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事例

EMC (Emergency Mapping Center)

新潟県中越沖地震 災害対応支援GISチーム

 

災害時における意思決定支援機能としてGISを活用するための仕組み作り

2007年7月に発生した新潟県中越沖地震において、産官学民の連携ボランティアチームは地図作成班(EMC)を立ち上げ、災害の応急・復旧対応にGISを活用した。

概要

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2007年7月16日10時13分ごろ、新潟県上中越沖を震源とする大規模な地震が発生した。地震の規模を示すマグニチュードは6.8で、新潟県及び長野県では最大で震度6強の強い揺れが観測された。震源となった新潟県は死傷者が約2,300人、半壊以上の住家は約6,700棟という被害を受け、新潟県中越地方では2004年の新潟県中越地震に続く大規模な地震災害となった。

7月17日朝の災害対策本部会議において、新潟県知事から「災害対応の状況をわかりやすく地図化できないか」という要請があり、この要請に応じる形で産官学のメンバーからなる「新潟県中越沖地震災害対応支援GISチーム」が立ちあがり、翌18日には新潟県災害対策本部支援のための地図作成班(EMC)が結成された。

EMCのミッションは「災害対策本部等に入る様々な内容・形式の情報を、災害対応業務の展開速度に対応し、迅速に電子地図化し、被災地の効果的な災害対応の実現と早期復興に貢献すること」と定められ、京都大学・新潟大学を中心とする4大学と、新潟を拠点とする地元のGIS企業6社を中心とした「にいがたGIS協議会」のボランティアによる協力体制で、7月19日から8月10日まで地図作成業務を実行した。

EMCの運用体制

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EMCにおける業務の流れ

EMCは大きく分けて、受付と工場の二つの機能から構成された。受付の担当は災害対応業務に関する地図化のニーズに対して、用意すべきデータや地図表現といったニーズの具体化を行い、工場の担当は受け付けられた地図作成業務に対して、GISを使用した具体的な地図化作業を行うという一連の流れになった。

受付・工場それぞれのスタッフや機材は、大学の研究チームとにいがたGIS協議会の双方よりボランティアで派遣・提供された。その他、スタッフに関してはGIS防災情報ボランティアから、機材に関してはESRIジャパンをはじめとする、いくつかの民間企業より協力を得ることができた。ボランティアによって参加するスタッフに関しては、それぞれの日常業務があるためローテーションを組み、数名がEMCに常駐するような体制をとった。

限られた資源の中でより効果的な活動を行うため、EMCは次のような活動方針を持っていた。

  1. 災害対策本部会議のための地図
  2. 本部班の災害対応業務を支援するための地図
  3. 各課の業務を支援するための地図
  4. 関係機関の災害対応業務を支援するための地図

このような活動方針の元で作成された地図は地図化を依頼した職員の手に渡り、各種の災害対応業務や県庁内外で使用するための資料として活用された。
様々な組織や立場から参加するスタッフを取りまとめ、いかにして受付から地図作成までの流れを構築していくのかといった運用体制の確立は、EMCの大きな活動成果の一つとなった。

GISシステム

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地図作成の様子

工場では、様々なレベルのスキルを持った複数のボランティア スタッフが入れ替わりでGIS作業を行っていくため、ITシステム全体のデザインを極力シンプルにする必要があった。そ こで、クライアントソフトウェアにはArcGIS Desktop (ArcView) を、べクトルGISデータ形式にはシェープファイルを利用することとなった。

EMCで実際に地図作成作業を実行する工場は、普段は県庁職員の研修室として利用されていた部屋であった。応急的に用意された空間であり、元々IT設備を配置し作業するようなデザインではなかったため、工場の設置は作業机や電源ケーブル、そしてLAN設備の配置から始まった。そしてPCやプリンタなど、EMCのIT機材は独立したLAN内で運用され、それぞれのマップ編集クライアントは地図共有サーバでデータの共有を行い、プリンタやプロッタへ直接出力の処理を投げることができるような仕組みを構築した。

  

地図共有サーバマシンには、地図作成の作業に必要となるデータやプロジェクトファイルから、プリンタドライバやアプリケーションといった作業環境構築に必要なコンテンツまで、EMCの運用に必要な様々なファイルを役割や仕事ごとにフォルダで分割し格納された。全ての地図プロジェク卜は受付時に割り振られたID番号を持つフォルダ単位にデータ等が格納・管理され、入れ替わりでやってくるボランティア スタッフへの業務の引継ぎや、以前に受け付けられた地図作成業務の再依頼への対応などに効果を発揮した。

まとめ

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通水復旧図

EMCは災害対策本部機能の一部として活動するマッピングセンターという、日本で初めての試みであった。7月19日より本格的な運営を開始したEMCは、8月10日までの活動期間中に延べ250人以上のスタッフが関わり、200以上の地図作成業務を実施した。EMCで作成された地図は、災害対策に関わる職員の業務を支援するものから、災害対策本部会議で情報説明・共有のツールとして利用されるもの、また県のホームページでも公開されるものなど幅広く多岐に渡り活用された。

災害発生直後からGISはどのように活用できるのか、EMCはGISを活用する組織の運用体制の確立と、成果図の活用という点で成果を挙げ、有効性を示すことができた。

EMCは県庁での活動終了後の8月中旬に拠点を新潟県柏崎市ヘ移し、国土交通省の「GIS防災情報ボランティア」の仕組みの確立に向けての基礎調査プロジェクトとして活動を続けている(2007年12月現在)。そこでは復興フェーズにおける自治体業務の把握と支援、地図化作業のモデル化などの成果が期待されている。

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掲載日

  • 2008年1月1日