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農業農村整備事業の推進ツールとしてGISを活用

滋賀県

 

滋賀県ではGISを農業農村整備事業の推進に資するツールと位置付け、様々な活用を行っている。

自治体においてGISを活用する際の参考として、滋賀県の導入目的から具体的な導入に向けての検討並びに実際の活用事例等を紹介する。

導入の目的と方針

滋賀県では、農業農村整備事業に関する情報を地域資源として捉え、効率的な施策実施の支援を目的にHl4から「滋賀県農村地域空間情報基盤戦略システム整備事業」(以降、本事業とする。)に着手し、下記の3つの目的を基本構想で定め、それにより地図をベースとしたGIS(以降、農村地域GISとする。)及び空間情報データの整備を行った。

1.農村地域の空間情報の公開

本事業で整備するデータを庁内外へ提供できるシステムとなるようなハード・ソフトの整備を目指す。

2.GISを活用した計画策定の支援

県庁や市町、関係機関が連携を図りつつ、視覚的にデータを捉えることによる迅速な農業農村整備計画の策定や、集約された各地域の農業情報、生活環境情報、防災情報等の分析により、各地域における効率的な農業農村整備事業の推進に活用できるシステムの構築を目指す。

3.データの体系化と活用

市町村合併が推進される中、県庁各部局、市町、土地改良区等に散在しているデータの一元化によって、一体的なまとまりを持ちながらも地域特性に応じた重点的な事業の実施に向けた活用が図れるシステムの構築を目指す。

具体的な導入に向けての検討

上記の目的を具体化するため、3つの項目について検討を行った。

1.具体的な利活用を想定した整備

利活用のイメージを明確にするため、県庁各部局・市町・土地改良区に対し、アンケー卜及びヒアリング調査を実施した。そして、この調査結果を参考にしながら、本事業の運用イメージの把握を行ったところ、「国営・県営・団体営事業で実施した土地改良施設の管理」、「ほ場整備区域内の整備状況と営農管理」、「県内の農用地における土壌区分図のデジタル管理」及び「過年度に調査されたボーリングデータ等の管理」等への利活用が見込まれることが分かった。
このことを踏まえ、基本的な情報として市町界、大字界、ほ区、用水路、排水路、道路、土地改良区区域、農振農用地区域、ため池、基幹水利施設(点・線)、土壌区分図、コミュニティ施設等の40種類のデータを整備した。

2.デジタルオルソ画像の整備

航空写真画像を切れ目なく再現するデジタルオルソ画像は、わかりやすい写真を背景にした図面の作成や、地図では判別できない現地状況の把握を容易にするため、デジタルオルソ画像を整備した。

3.ネットワークの活用

本事業においては、データの一元管理や即時性を重視して、サーバ&クライアン卜型のシステムとした。県内の8箇所の出先機関に各1台設置されたArcViewのクライアン卜が、本庁で管理する1台のGISサーバに接続して空間データを利用している。
また、本県情報政策課が運用している滋賀県統合型地理情報システム(以降、統合型GISとする。)にデータをアップすることで、農業に関する情報をすべての県庁職員が閲覧できるようにしている。

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農村地域GISと統合型GISとの連携イメージ

GISソフトの選定

統合型GISや、県庁各部局が保有しているGISとの連携を視野に入れる必要があったため、次の条件を満たすGISソフトとしてArcGISを選定した。

  1. 空間情報データをGISソフトの標準的なフォーマットであるシェープファイル形式とすること。
  2. GIS関連技術の標準化を推進する国際的な業界団体であるOGC (Open Geospatial Consortium) に適合するGISソフトであること。
  3. 「文字情報を地図上に表示するためのツール機能」を有するGISエンジンがどのようなデータ形式でも動作すること。
  4. 汎用的なプログラミング言語であるBASICやC言語などを用いて、システムに拡張機能を追加するなどのカスタマイズができること。
  5. 国内外で数多くの運用実績を有すること。

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獣害対策情報管理データベースのイメージ

農業農村整備事業に活用されるGIS

こうして整備したGISを利用し、農業農村整備事業の推進に資するための機能拡張を行っている。

1.しがの土地改良データベース

戦前から県内で実施されてきた土地改良事業の地区概要をGISデータ化した。これにより、これまで事業・地区ごとで把握していた整備状況が、GIS上で複数の事業を同時に表示することで、地域全体を把握できるようになった。

2.獣害対策情報管理データベース

滋賀県では有害獣による甚大な農林業被害に対し、環境・林業・農業の県庁各部局が連携して対応している。この連携において、県庁各部局が保有する各種データをGIS化することで、獣害対策の効率化を目指した、獣害対策情報管理データベースを開発し獣害対策のツールとして活用している。

GIS利用者へのサポートについて

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平成19年度実施の講習会の様子

GISを効果的かつ継続的に運用するためには、GISの利用者に対して各種業務に広く活用できるよう普及していく必要がある。
そこで平成15年度からGIS利用者である関係機関の県職員ヘ操作講習を毎年実施している。延べ参加人数は100人を越えているが、今後もさらに受講者の拡大を図っていく。
また、利用者からのGISに関する質問については、専門業者のサポートも活用しつつ、担当職員が電話や端末の遠隔操作により回答を行う体制を組んでいる。

  

おわりに

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世代をつなぐ農村まるごと保全向上対策GISイメージ

「GISは測量技術の発達や、ハードの高性能化と低価格化により急速に活躍の場を拡げています。一方、国レベルでの農業農村整備事業へのGIS利用を推進する動きや、地理空間情報活用推進基本法が成立したことから、今後、自治体でもGISの様々な活用が見込まれます。こうした追い風に乗りながら、農業農村整備事業を推進していく上で、GISを重要なツールとして位置付け、広く活用していきたいと考えています。具体的には、本年度から”世代をつなぐ農村まるごと保全向上対策(農地・水・環境保全向上対策)”や今後農業水利施設のアセットマネジメントについて、GISを活用しながら、施策を展開していく考えです。」と前田氏と森川氏は語った。

  

【参考】
森川学・前田博樹: 滋賀県の農業農村整備事業におけるGISの取り組みについて、農業農村工学会誌75(10)、P23~26(2007)

プロフィール


農政水産部耕地課 前田 博樹 副主幹、森川 学 主任技師 (左より)



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掲載日

  • 2008年1月1日