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京都の文化財フィールド調査

立命館大学

 

GISを駆使し、京都の町並みに残る身近な文化財-京町家・近代建築・路傍祠-の膨大なデータベースを構築。

京都の街角にある路傍祠などの文化財データベースを、フィールド調査支援システム(POS)を用いた高精度で効率的な現地調査に基づいて作成。

立命館大学歴史都市防災研究センター

文化遺産を多く残す歴史都市を災害から守り、後世に継承していくには、文化財の防災に関する新しい文理融合型の取り組みが必要である。そのための学理と技術の確立を目的に、2003年8月に立命館大学歴史都市防災研究センターが設立され、2006年3月には、現所在地である衣笠キャンパス隣接地にセンター棟が竣工した。この研究センターでの研究活動の一環として、災害空間情報グループが組織され、現在の京都の歴史的な景観や災害の地理学に関するGIS研究が実施されている。その基盤施設として、センター地下には最先端の設備を有するGIS室が設けられている。

京都の文化財フィールド調査

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京町家の分布と消滅した町家(赤が消滅した町家)

京都市内には、寺社仏閣を中心に文化財指定を受けた文化財が数多く遺されている。その一方で、京町家や近代建築など、日常生活と大きく関わる文化財指定を受けていない歴史的文化遺産も数多く存在している。立命館大学では、これらの町並みの中に残る文化財についてフィールド調査を行い、それらが現在どこにどのような状態で存在しているかを示す基礎的なデータベースを、GISを用いて整備している(矢野ほか編,2007)。中でもとりわけ大規模なデータベースを作成した京町家は、京都特有の景観として近年その価値が再認識され、広くその価値が議論されるようになってきた。過去に京都市やトヨタ財団によって行われた京町家調査のデータをもとに、現地調査を重ね、京町家GISデータベースを完成させた。さらに、その後の京町家の変化に関する追跡調査も行い、このGISデータベースに反映させている。これらの調査の結果、約8年間で、少なくとも全体の約16%にあたる京町家が姿を消していったことが明らかになった。

同様に、近代建築のGISデータベース化を実施した。近代建築とは、江戸時代末期から第二次世界対戦終了までの間に建設された、西洋風の様式やデザインなどを取り入れた建築物である。京都市内は、震災や戦災の目立った被害がなかったことから、現在でも近代建築が数多く遺されているとされていた。しかし、現地調査の結果を反映したデータベースを集計すると、この10年間で約2割もの近代建築が失われたことが分かった。

歴史都市における路傍祠調査

このような建築物以外の文化財の1つとして、路傍祠が京都市内に点在している。路傍祠とは、地蔵や小祠など道路傍に存在するもので、形態や規模、装飾などによっていくつかの種類に分類される。京都市内では、毎年8月に、地蔵を囲んで地蔵盆という地域の子どもたちのための祭りが催されるなど、路傍祠は地域住民にとっても身近な文化財である。

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路傍祠

歴史都市防災研究センターでは、2006年度に、京都市の中心部である上京区・中京区・下京区を対象にして、路傍祠の分布とその特徴を調査した。第1次調査では、京都市発行の京都市市街図(1/2500、平成16年修正版)をもとに、728ヶ所の路傍祠の位置をArcMapで特定し記録した。現地調査では、紙地図と調査用紙を使って、路傍祠の有無や形状などの調査と、写真撮影を行った。そして、現地調査後には、新規路傍祠ポイン卜の入力と、各地点の写真の割り振り、Excelのワークシートへの結果の入力を手作業で行った。このような悉皆調査によるデータベース作成では、調査対象の数の多さとともに、現地調査での記入すべき項目の多さが問題となる。とくに、位置を正確に特定して、情報を正しく記録すること、調査用紙からExcelのワークシートへの転記のように情報の統合の際に発生する間違いを減らすこと、が大きな課題となる。そこで、第2次調査では、紙地図と調査用紙に代わって、一連の作業にフィールド調査支援システム(以下、POS)を導入し、これらの問題の解決を試みた。現在、第1次調査、第2次調査の結果をもとに路傍祠の分布をGISデータベースとして整備し分析を行っている。

フィールド調査支援システム(POS)の概要

POSは、調査前の準備、フィールド調査、調査後の整理を一貫してサポー卜する、いわゆるモバイルGISシステムであり、京都大学防災研究所の浦川豪博士らによって開発された。フィールドでの調査に際して、GPS付きのPDAとデジタルカメラを利用して、フィールド調査の高度化を実現する。文字入力がしにくいPDAの特性を考慮して、事前に入力用のフォームを作成することで、調査時の入力の負担軽減を図り、作業効率を向上させる。また、調査時の写真の整理も、データの入力時間と写真の撮影日時をマッチングさせることで、調査ポイントに対応するフォルダを自動的に作成して、写真を各フォルダに自動分類して格納する。さらに、これらの写真と、入力したデータの内容を含むHTMLやExcelのワークシート形式のレポートを自動的に作成することもできる。

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POS利用のフロー

POS導入によるメリット

路傍祠の現地調査にPOSを導入したことで、いくつかの点で明らかな改善点が見られた。第1に、GPSつきのPDAを用いたナビゲーションにより路傍祠の位置特定がより容易となり、またPDA上のArcPadでは、デスクトップGISと同じように、容易に地図を拡大縮尺できることから、路傍祠の位置をより高精度で記録できるようになった。第2に、従来の調査方法に比べて、入力フォームの利用や写真撮影データと調査項目の自動的な同期が実現されるなど、入力作業・事後的なデータ統合作業が大幅に簡略化された。それにより、調査員の負担が軽減され、入力ミス、データの転記・統合ミスもほぼゼロにまで減らすことができた。

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今後の展開

これまで紙地図と調査用紙で実施されてきたフィールド調査において、POSは、調査の効率性とデータ管理の正確性を大幅に向上させることが明らかとなった。今後も、京町家や路傍祠の追加調査を中心にPOSを活用していく計画である。その成果であるGISデータベースを用いて京都の町並みの中に遺された身近な文化財を、今後の京都のまちづくりの中でいかに活用していくべきか考えていきたい。

【文献】
矢野桂司・中谷友樹・磯田弦 編(2007): 『バーチャル京都過去・現在・未来への旅』, ナ力ニシヤ出版

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掲載日

  • 2008年1月1日