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事例

ジオインフォマチックスが創る空間情報社会 ー荒川流域を例にしてー

立正大学

 

ステークホルダーが地域情報を共有し、共同性の可視化ツールとしてジオインフォマチックスを利用する

荒川をフィールドに、人・動植物の点情報と、地域のポリゴンを結び、地域の共同性の可視化ツールとしてジオインフォマチックスを利用する。やがてそれらの情報は結びつきコミュニティを形成し、空間情報社会として機能する。

概要

里山や流域の管理、安心安全なまちづくりなどはソーシャルキャピタルの課題でもある。しかも人の問題だけに留まらない。人と動植物・地形・土壌・気象などの自然環境がお互い合意の下で共生していくためには互いのコミュニケーションが必要である。そこで利用されるのが共通の要素である空間の情報である。人と人、人と動植物、人と自然情報は、互いが空間をどのような場として捉えていたかを明らかにし、互いの価値観の共存について合意形成が行われる。こういった合意形成は現地で実験することはできず、環境に関する様々なデータの客観化を行い、コンピュータの中で社会実験を行う。その結果できあがるのが空間情報社会であり、そのツールがGISをはじめとするジオインフォマチックスなのである。本研究室では、前述の視点に立ち、荒Jll周辺地域をフィールドとし、土地利用の変遷とそれに伴う植生や水辺環境の変動を、生物と環境の相互作用の観点から調査解析し、居住者や来訪者にとって望ましい環境の修復と維持のための研究を志向している。

オオムラサキの調査と環境教育

荒川支流域の埼玉県滑川町。この地をフィールドにして、2005年から毎年11月に地域の中学生以上を対象として、オオムラサキの生育環境マップを作る実習を通し、環境地図を解析する技術を体験することを目的として開催している。

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オオムラサキの幼虫が育つエノキの位置を現地調査により確認し、エノキの確認地点を地図上に表示する実習を行った後、ワークショップでオオムラサキ保護についてそれぞれの視点で考え、グループで議論し取りまとめて発表するといった方法を採用し、環境問題を自らの問題として認識できる工夫をしている。ワークショップでは常に予定時間を超える議論が行われ、参加者の地域環境への関心の高さが確認されている。参加者は、空間情報社会の中でオオムラサキの生育する場所をオオムラサキになったつもりで何敵でき、自らがオオムラサキになったつもりで生育空間の保存について考え事ができる。

荒川流域に存在した新川村の環境マップ

熊谷市内の久下橋下流にあった旧新川村。新川村は、堤防工事のため40年前に撤去させられた河岸で栄えた300年間続いた村である。現在もなお、当時の神社の鳥居や、家が残っており、講が3年前まで続いていた場所である。地元環境団体のみならず、スポーツ団体など様々の組織が、共同菜園場、ビオトープ、ツリーハウス等、それぞれの思いで人が集まり,コミュニティが形成されている。これらの活動においてGISを使ってまるごと保全し、次世代に情報を残すべく新川エコミュージアムとして市民の手で温存することになった。箱物のない博物館である。
旧新川村の空間の履歴をマップにし、この地域の「お宝」として市民と議論しながら http://shinkawa-muse.net/ として情報発信している。「お宝」には手作りの高札にQRコードを貼付け、携帯から情報が入手でkりうようにした。人は実空間に居てコンピュータとQRコードを介して空間情報をアクセスし、今は空間情報社会の中だけにしか存在しない空間の履歴を堪能するのである。

荒川流域水質一斉調査と市民活動

2003年3月、埼玉県坂戸市の鶴舞川下流に浅羽ビオトープが造成され市民団体「高麗川ふるさとの会」のメンバーによって、市民のための環境教育のフィールドとして活用されている。ビオ卜ープ造成前は、鶴舞川は高麗川ヘ合流していなかったことから水質の悪化が懸念されている。

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水質汚濁の原因としては、生活排水・工場廃水・農業排水などの人為的なものが挙げられるが特定はできておらず、日高市・鶴ヶ島市・坂戸市を通る河川のことから行政の枠内では解決できない問題を多く抱えており、複数の行政をつなぐ役割として市民団体が関与する必要性があると考えられる。
調査の結果、鶴舞川では、上流部と中流部の一部のポイントにおいて、アンモニア態窒素の値が非常に高い値を示している。GIS化された公共下水道地域とオーバーレイさせると、公共下水道の未処理地域からの汚染源が存在することが確認された。
これらの観測を通し、複数の自治体にまたがる河川では、行政の目の届かない部分が多く、市民団体と大学との観測は、これまでのような各々の組織の単独の観測にない順応性がある。すなわち、行政や市民にとっては、お互いのコンセンサスを得ながら、大学で行なわれている専門性を得る事ができ、大学は行政や市民と協力することで、既存データの所在やデータ入手が迅速化できるというWin-Win構造の成立によってもたらされた結果である。

埼玉県と東京都を流れる荒川。1995年より毎年1回同じ日程・同時刻にNPO法人「荒川流域ネットワーク」が多くの市民団体に呼びかけ、本流、支流、水路を含む59河川の約400ポイントの調査を行なっている。また、全国では10,000点近くの観測結果を得られている。

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ここでは、行政、市民、大学が協働し、水質調査用のパックテストを用い測定用の河川水試料を採水し、気温、水温、におい、濁り、COD、pH、NH4-N、N02-N、ECを計測し水質分析を行なった。また、2006年から調査データのGIS化に着手し、Web-GISから観測データの入力・閲覧可能である。観測された値をG応化することにより、自ら観測結果が他の観測点に比べきれいかどうか比較できるメリットがある。現地にいながらWeb-GISにアクセスして地図を表示することで、他の観測点での結果と比較できる。実空間に居ながら空間情報を用いて他地点との比較ができるのである。また、水質調査時に調査結果をGPSやWeb上から登録してもらうことで,管理者に作業を発生させることなく情報入手しGISに取り込むことができる。
できるだけ多くの市民団体が使用できるよう、電子国土で作ったWeb-GISから入力した地図データは、ArcGISで、陰影つきの地形図を背景にしてマップ化され、株)中央ジオチックスの協力を得て、Illustratorで整形した後、紙地図として印刷し、地図はNPO法人荒Jll流域ネットワークから配布している。

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今後の展開

職場と住まいが分かれ、意識が地域から離れた結果、安心安全が欠如したまちが出来上がってしまった。人の意識を地域に戻す手法として、mixiのようなSNSとそのコミュニティーを場所と連携させるGISに注目している。今回の事例では環境問題への適用事例を中心に紹介したが、子育て応援 http://kosodate-ooen.net/、祭り・史跡マップ http://naozanemuse.net/ 等、実際に稼動させているものもある。
これらのジオインフォマチックスで創られる空間情報社会がまちを活性化する動機付けになることを望みたい。

荒川流域ネットワーク http://www.arariver.org/

プロフィール


後藤 真太郎 教授



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掲載日

  • 2008年1月1日