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事例

地域の豊かな水環境を目指して

和歌山大学

 

GISを利用した流域水環境情報解析システムの構築と活用

農業活動が盛んな流域における健全な水と物質の循環を明らかにする解析システムを構築し、地域の豊かな水環境の維持に役立てたい。

全体説明

水は石油などと異なり持続可能な資源ですが、決して無限に使い続けられるものではありません。近年、河川水や地下水が様々な有害物質によって汚染されています。

また、都市化の進展や近代的な農業活動などにともない、自然の水循環システムがそこなわれ、渇水・洪水の頻発や、それにともなう生態系の劣化・自然環境の破壊も生じています。

このような背景から、安定した水資源の確保が質的にも量的にも困難になってきており、今後も私たちが快適な生活を送るためには水を守り、有効利用していく必要があります。

そこで,現在は和歌山大学が位置し,農業活動が盛んな紀の川流域を対象に,河川および地下水の水質・水量・周辺の土地利用特性などを調査、解析して、地域の水・物質循環システムの解明を進めています。

流域水環境情報解析システム

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流域水環境情報解析システムの概要

水資源や水環境に関する解析を行うためには、流域の人間活動や社会活動を広く把握する必要があります。

ここでは、ERDAS IMAGINEを使用して、衛星データと航空写真から流域の土地被覆分類図を作成し、流域の土地利用に関するデータベースを構築しました。

さらに、ArcGISを使用して、人口・産業活動・農業活動などの統計情報と、標高などの数値デジタルデー夕、野外調査結果をもとに、データベース化を図りました。

現在は,構築したGISデータベースと分布型水流出解析モデルや汚濁負荷量解析モデルを連携させた流域水環境情報解析システムの構築を行っています。この研究は、平成17年度から和歌山大学大学院システム工学研究科プ口ジェク卜研究として、文部科学省科学研究費補助金(若手研究B)や(財)日本生命財団環境問題研究助成金(個別研究)などの助成を受けて実施しています。

解析

【流域水循環解析】

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紀の川流域のメッシュモデル化

  

流域で起こりうる水文流出現象(洪水や渇水)を再現する動態モデルを構築し、流域内の水収支を定量的に把握すると同時に、土地利用や気象条件の変化に伴う流出変化を理解することを目指しています。このために、森林遮断蒸発・浸透・蒸散・斜面・河道流出などの流出現象を表現する水文素過程モデルと流域の標高、土地利用、河道ネットワークなどの国土数値情報を組み合わせて、長期計算可能な解析モデルの構築を進めています。

【汚濁負荷量解析】

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河川水質調査風景

流域の水環境管理の適切な実施には、流域で発生・排出する汚濁物質の負荷量(汚濁負荷量)を算定することが求められます。紀の川流域のような農業活動が盛んな流域では、農業活動が水循環や水環境に与える影響を評価することが重要になってきます.このために、農地から出る汚濁負荷を定量し、河川水質の変化を予測するための動態モデルの構築を進めています。

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貴志川流域の土地利用と汚濁負荷量解析結果

  

【水辺生態系動態解析】

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工サキアメンボ調査風景

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生息地の地理情報解析結果

紀の川流域内のため池では、希少種であるエサキアメンボが観測されています。
エサキアメンボの生態はよくわかっていませんが、これまでの調査では、年により個体の出現するため池が異なることが明らかになっています。そこで、流域内のため池情報と生息情報を利用したメタ個体群動態解析モデルを構築し、エサキアメンボの生態の解明を進めています。

今後の展開

現在ArcGISは、構築したデータベースを動態モデル用のデータに加工するためのツールとして主に利用しています。
今後は、各種動態モデルとArcGISとの連動性を強化し、より完成度の高い流域水環境情報解析システムの構築を進めていきたいと考えています。

プロフィール


システム工学部 江種 伸之 准教授



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資料

掲載日

  • 2008年1月1日