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病院経営、医療分野の課題解決ツールとしてGISを活用

特定医療法人 雪ノ聖母会 聖マリア病院

 

聖マリア病院におけるGISの利用

国内外の交通事故対策、病院経営の観点からGISがいかに利用されているのだろうか?

聖マリア病院

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聖マリア病院

昭和28年設立の聖マリア病院は、27診療科、 1,354床を有する医療機関である。所在地の福岡県久留米市のみならず、周辺の佐賀県や熊本県など広域から患者が訪れる。特に救急医療においては、初期~三次医療、交通外傷、産科、小児科などあらゆる分野の急患に対応しており、地域医療の要として機能している。また、発展途上国における医療水準の向上のため現地のスタッフと共に数々のプロジェク卜を実施している。

交通外傷とGIS

警察庁の報告によると、全国における交通事故死者数は54年ぶりに5000人台となり減少傾向にある。しかしながら、なお多くの尊い命が交通事故により失われている。永田高志医師は救急救命の最前線で臨床医として奮闘しながら、GISを用いて研究を遂行している。

永田医師は、平成9年九州大学医学部卒業後に同付属病院麻酔科蘇生科にて初期研修を受け、聖マリア病院にて内科、小児科、整形外科、救急外傷医療を幅広く学んだ後に救急専門医を取得した。数多くの交通事故患者の診察にあたり、後遺症に苦しむ姿を見て、医療によるアプローチの限界を痛感し、外傷予防に関して興味を持った。

そのような中、日本医師会の推薦にて2004~2006年に武見フェローシップで、米国ハーバード大学公衆衛生大学院に留学し、公衆衛生学や外傷予防学、健康危機管理学の基礎を学んだ。さらに、2006年よりスウェーデン・カロリンスカ研究所外傷疫学研究班にて博士課程の研究を開始した。

「交通事故の発生は地理的条件が大きく関わるためGISを用いた研究が必要ですが、実際にはGISを用いた交通外傷の研究は他の分野と比較すると意外と少ないのが現状です。」と、永田医師はGISを研究で用いる理由を語った。

国内におけるプロジェクト

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久留米市における交通外傷分析

カロリンスカ研究所の博土課程の研究テーマは高齢者の交通事故であり、その一環として、GISを用いて福岡県久留米市において、高齢者の交通事故の発生地点をマッピングしている。この研究は聖マリア病院と久留米市消防本部の全面的な協力のもと行っている。

救急車で搬送された交通事故患者を対象とし、救急隊の搬送記録の情報をもとに、ArcMapで、発生地点を久留米市の地図上にプロットした。また、病院における診療情報と合わせて分析を遂行している。

「現在データ分析を進めている状況ですが、高齢者の交通事故の発生地点は若年者と比べて、非常に特徴のあるパターンを示しています。この分析結果をもとに、今後は高齢者の交通事故予防のための対策を提言していきたいと考えています。」と、永田医師は抱負を語った。

海外におけるプロジェクト

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ハノイ市内の交通状況

永田医師は国際保健医療の観点からもGISを用いた研究に取り組んでいる。急速な経済発展を遂げるベトナムでは、交通事故は感染症や低栄養を超えて死因の1番目となっている。特にバイク事故による頭部外傷が問題となっている。
このような現状をふまえて、厚生労働省国際医療協力研究委託事業の一環として、永田医師はベトナムの交通事故分析の研究に取り組んでいる。

この研究は、国立国際医療センター緊急部の木村昭夫医師が主任研究員を務めている「開発途上国における外傷の予防と診療教育の向上に関する研究」というプロジェクトの一環であり、永田医師は分担研究者として参加している。

日本政府は国際協力事業団(JICA)を通じて日本人専門家を派遣し、「ハノイ交通安全人材育成プロジェクト」を推進している。今回は、ハノイ市における2006年度1年間の突通事故死傷者の事故発生地点等の全情報がハノイ市交通局から提供されており、永田医師はこのデータをもとに分析している。

「2009年ベトナム訪問の際に、ハノイ市交通局の専門家とワークショプを行い、この分析結果を検討する予定で、す。研究のための分析だけでなく、この結果を現地に還元し、交通安全に少しでも貢献出来ることを願っています。将来は、ベトナムにおける交通事故対策のみならず、災害医療や国際人道援助活動においてGISを利用し、これらの分野に貢献出来ればと考えています。」と、永田医師はコメントした。

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ハノイ市における交通外傷発生マップ

病院経営におけるGISの利用

聖マリア病院では、永田医師以外にも、病院経営学的な視点からGISを利用されている。経営企画室の河合範尚氏は、より良い病院サービスに向けてGISを用いた分析をしている。

「聖マリア病院は開設以来、『24時間、365日、いつでも応じる救急医療』を運営方針の一つに掲げ、年間約60,000人の患者さんが来院し、約9,000台の救急車搬入があります。当院ではこうした患者さんの来院動向の把握と将来予測(どこから来ているか、今後どこから来るか)といった調査を行うため、平成13年からGISを用いた患者動向を調査しております。」

「GISの分析で分った患者動向の一つを紹介しますと、当院の実診療圏は半径25Kmで、対象人口は約150万人となっており、更に遠方から来院される患者さんについては、比較的高速道路から近い場所からの来院が多いことがわかりました。これは当院の所在地である久留米市の地域的な特性として、九州自動車道と大分・長崎自動車道のクロスポイントに近く、交通の利便性が高いことが影響している可能性が高いことがわかりました。こうした地理的な特徴の把握の他、DPC(Diagnosis Procdure Combination)と呼ばれる診断群分類を利用した疾患ごとの増減を地域別に分析する等、地域における当院の役割の把握や、他医療機関との連携強化等に活用しております。」

「今後医療機関においては、地域での役割がますます強く求められてきますので、GISを活用した分析手法は今後更に確立されてくると考えております。」と、河合氏は語った。

プロフィール


(左)永田高志 医師 (右)河合範尚 氏



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掲載日

  • 2009年1月1日