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事例

災害復興調査を通じてGISの理論と応用を身に付けた人材を育成

奈良大学

 

阪神・淡路大震災の復興調査を通したGIS教育

奈良大学は国内で最も早くにGIS教育を導入した大学のひとつである。大学で学んだ知識を生かし、GISプロフェッショナルとして社会で活躍できる人材の育成に努めている。

阪神・淡路大震災復興調査

奈良大学文学部地理学科では、1995年1月17日の阪神淡路大震災以来、継続的に復興調査を行っている。この調査は、震災によって生じた各々の更地にいつ、どのような建物が建てられているのかを調査するというものである。

初期のデータベース作成は、地理情報システム学会の学術ボランティア活動の一環として京都大学防災研究所と共同で開始した。建物の崩壊によってできた瓦礫の撤去状況を記録し、またそこにプレハブやテント、そして恒久建築物が建てられる過程を追いながら、同年内には調査を6回実施した。

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復興調査対象地点
神戸市・芦屋市・西宮市の被災地域と広範囲にわたる。

1996年から1999年までは年に4回、2000年以降は年2回の調査を続け、2005年前期の調査で計33回の調査を行っている。調査は主に学生ボランティアが担当し、これまでに延べ約2800人が参加している。1回の調査箇所は約76,000箇所にも及ぶ。これまで学生ボランティアがGISへ入力した膨大な調査結果は貴重なデータベースとして蓄積されている。

GIS発展の契機となった阪神・淡路大震災

震災直後から、奈良大学は神戸市長田区において、京都大学防災研究所と共同で倒壊した家屋の撤去業務にGISを導入した。その結果効率の良い撤去業務を行うことができ、災害復旧に大きく役立てることができた。これはGISを導入せずに撤去業務を行った地域と比較すると顕著な差が見られ、災害時におけるGISの有効性を示すこととなった。
しかし、震災直後は情報集約と指示系統の統一が行えず、初期の救援活動にGISが活用できなかった。この反省をうけて、GIS関連省庁連絡会議が発足し、国土空間データ基盤整備事業など、日本のGISが発展するきっかけとなった。

復興調査を通じたGIS教育

現在の復興調査は授業の一環として実施している。まずフィールドワークとして現地に赴き、阪神・淡路大震災の被災状況や復興過程などを学ぶ。このとき調査方法の説明も受け、現地でどのような点に着目して調査すればよいのかを学ぶ。奈良大学のGIS教育は、画面上の操作だけでなく必ず現地に赴き、自ら調査した結果を基にした分析が重要だということを指導している。
GISの技術指導や調査結果の入力に関しては英国式のチューター制度を取り入れ、先輩と後輩がグループを組んで行っていく。これは先輩が後輩を直接指導していくというもので,単に技術力を高めるだけでなく、先輩の指導力も養うことができ、また学生間の交流も深められるという点で大変効率的な方法である。

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復興過程の視覚化

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これまでの調査結果を視覚化したものが図である。復興過程で東西の地域差が顕著に現れ、大都市の社会構造が震災復興に影響していることがわかる。

この成果は1箇所ずつ現地を調査した学生たちによる努力の結晶であり、調査データは先輩から後輩へと受け継がれている。これだけ長期にわたる復興調査データベースは世界的にも他に類を見ない。

GIS教育の先駆者として多くの学生を輩出

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1989年当時のPC-ARC/INFO

奈良大学におけるGIS教育は20年ほど前からはじまり、わが国でも最も早くに実施した大学のひとつである。1988年にPC-ARC/INFOを導入し、1989年度から本格的な汎用GISソフトウェアを用いたGIS技術教育を行っており、その歴史は非常に古い。

1997年度にはArcView GISを追加導入、さらに2001年度からはArcGISフローティングライセンスに移行した。
学生が授業や自習で自由にArcInfo,ArcViewやERDAS IMAGINEなどのGISソフトウェアを操作できる環境を整備している。

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奈良町調査

現在のカリキュラムでは、1回生から必修科目としてGISの基本操作法を学ぶ。2回生以上では地理情報システム技法、画像処理リモートセンシング、地域分析法などの専門科目やGIS演習科目があり、2005年度からはネットワークプログラミング、データベース論などの情報処理実習科目も充実させている。地理学科では測量士補取得科目も履修することができ、GISと組み合わせた高度な測量士補育成も行っている。

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レバノン ティール遺跡発掘調査

また、授業や震災復興調査のほかに、奈良町調査、レバノンティール遺跡発掘調査などさまざまな研究プロジェクトを行っており、学生はこれらの研究プロジェクトに参加することによってより実践的なGISの応用力を身に付けている。

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掲載日

  • 2006年1月1日