事例 > 広島原爆デジタルアトラス

事例

広島原爆デジタルアトラス

中国書店

 

広島原爆、事実の記録

散在する情報をGISデータベースで統合化。広島市における原爆被害を、データから客観的に解明する。

広島原爆デジタルアトラス

hiroshima_atlas-1

広島原爆デジタルアトラスは、2001年8月に発刊された研究叢書である。GISデータベースの形式で整理された原爆被害に関連する各種既存情報とそれを閲覧するためのGISソフトウェアなどが1枚のCD-ROMに記録されている。

本アトラスには竹崎嘉彦氏(中国書店)の広島大学大学院在学中の修士研究の成果が収録されている。1945年8月6日の原爆投下被害に焦点をあてて収集した公文書、既往研究、その他の関連情報に位置情報を付加して作成されたGISデータベースや地図などが含まれる。

被爆ニ世によるデジタルアトラス

hiroshima_atlas-2

竹崎氏は戦後生まれであるが、竹崎氏の父は、広島原爆の被爆者である。この時中国書店の店舗は焼失し、一年後に爆心地に近い平田屋町に店舗を移転。その後1957年に竹崎氏がこの地で誕生する。生家の書店、母校の袋町小学校、育った町は爆心地から徒歩圏内にある。「生家が地図専門販売店であったことがきっかけでGISを手掛けることになりました。ある先生の助言から、出身地の広島原爆をテーマとする研究を始めることになりました」と竹崎氏。広島原爆デジタルアトラスは、このような背景から被爆二世により産み出されたのである。

研究の目的

広島原爆に関する研究はすでに膨大な蓄積があった。地図や空中写真に、被害地域や状況区分を示したものなども存在した。ただ、境界や区分の根拠、内容が明記されておらず、確認できない。そこで当研究では、被災当時の「町丁」単位で被害データをデジタル化し、客観的データに基づく被害の視覚化を主目的として、GISを手段としたデータベース作成が進められたのである。

資料収集とGISデータ化

GISの空間データの作成にあたっては、紙地図および3種類の空中写真を資料として利用。それらは新旧町丁図、昭和14(1939)年広島空中写真、ワシントン国立公文書館所蔵広島原爆被災写真空中写真、AFIP(米陸軍病理学研究所)からの返還資料空中写真である。これらをスキャニング、幾何補正し、デジタイズ作業によりデータを作成した。この作業過程には、ArcView3.2a、Image Analysis1.1を利用した。

属性データについては、「広島原爆戦災誌」広島市編(1971)、「原爆被害者動態調査事業報告書」広島市社会局原爆被害対策部(1999)の各資料から、人的被害(即死者,負傷者など) 、家屋被害(全壊、半壊など)をデジタル化した。

町丁界データ以外にも、地域区分、水部、爆心地、原爆の炸裂点、鉄道路線、被爆建造物、主要軍事施設の空間データおよび属性データを資料からデジタル化して作成した。

データによる検証

hiroshima_atlas-3

作成されたGISデータベースからは、様々な情報を抽出できる。GISソフトでデータを重ね合せ、視覚化し、分析すると、当時の状況をGIS上で再現でき、様々な視点から検証することが可能である。例えば、二次元空間での建物や人的被害。右上図は人的被害を表現した地図であり、即死者、負傷者、無傷の者の割合がわかる。また、非常に基本的な情報にも関わらず、GISのデータ作成の際に判明したこともあった。それは爆心地の座標である。従来言われてきた経度の表記について、2秒異なる誤記の可能性を指摘した。

hiroshima_atlas-4

また、段原地区は、「比治山の陰」になって原爆の被害を免れたという言説がある。ArcViewのSpatial Analystの可視領域解析や3DAnalystの三次元可視化を行うと、当地区は炸裂点からの可視領域に入る。これも何の陰であるのか再度検証が必要となる事実である。

空間データの高精度化

2001年秋、かねてから調査中であった米軍撮影の単写真が、米国国立公文書館に存在する、という情報が入った。ここから空間データの高精度化、三次元表現による被爆前後の広島再現のスタートが切られる。

hiroshima_atlas-5

ついに2002年夏、米国から被爆前後の写真を入手。ERDAS IMAGINE8.5を利用した広島市のオルソモザイク画像を作成。戦時下で地図整備が不十分であった被爆直前の広島市における高精度の地図情報として活用される。右上の図は、広島大学原爆放射線医科学研究所の被爆者データベースに蓄積される被爆者のうち、爆心地から1km以内を対象にして被爆地点を再確認したのを示したものである。ArcGIS8.1による空間データの充実、さらに、被爆線量推定に重要な要素となる被爆距離測定など、空間データの高精度化が進められた。

hiroshima_atlas-6

ERDAS IMAGINE Stereo Analyst、VirtualGISでステレオ実体視、三次元表示、フライスルームービー作成が行われた。これらはニ次元の地図以外の伝達手段で一般の人にも受け入れられる表現である。2004年8月6日に放映されたNHKスペシャル「復興~ヒロシマ・原子野から立ち上がった人々~」でも、原爆投下5日後と2年後の町がこの方法で表現され、驚異の広島の復興が示された。

「風化させてはならない」竹崎氏の言葉どおり、広島の事実は、GISデータベースとして記録されている。今後も事実の理解、伝承のひとつの手段としてGISが利用されていくだろう。

プロフィール


広島原爆アトラスを作成した
竹崎 嘉彦 氏



関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2006年1月1日