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事例

GISを活用した地域社会マネジメント

兵庫県立大学

 

揖保郡新宮町で住民意識アンケート調査を実施。GIS 地域状況と意識格差を映し出す!

地方自治体を取り巻く環境が激変していくこれから、GISにより地域課題と事業の優先度を明確化し、より良い地方行政を創造する。

人間サイズのまちづくり研究会

兵庫県立大学は、兵庫県立の三大学(神戸商科大学、姫路工業大学、兵庫県立看護大学)を母体とし、2004年(平成16年)4月に発足した総合大学である。

人間サイズのまちづくり研究会は、大学発足に合わせて新設された大学院応用情報科学研究科(神戸キャンパス)内に2004年5月に発足した。本研究会は、元兵庫県知事の貝原俊民氏が提唱した「人間サイズのまちづくり」をどのように情報技術を活用しながら実現するかを考える研究会である。

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神戸キャンパス

ドイツの哲学者であるユルゲン・ハーバマス氏は、「公共圏(public sphere)」という概念を提唱した。「公共圏」とは、人々が共に関心を抱く事柄について意見を交換し、政治的意思を形成する言論の空間である。

人はそれぞれ異なった環境で生活しており、住んでいる地域への理解・問題意識・関与が異なっている。これらを調整するためのシステムとして「公共圏(public sphere)」は必要不可欠である。

本研究会では住民主体のもと、まち全体が住民一人ひとりにとって「一つの生活空間」となり、人間の生活の視点に立った「安全な、安心な、魅力ある」まちづくりという「人間サイズのまちづくり」の基本理念を、GIS技術で実現することを目指している。

新しい住民参加のまちづくり

1995年に発生した阪神・淡路大震災を契機に、関西では住民参加のまちづくりの動きが加速していった。しかし、地震から10年が経過したが、まだまだ試行錯誤の状態が続いており、住民参加のまちづくりは体系化されていない。

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従来のまちづくりは、住民参加とは言え、依然として行政主導で担われてきた面が強い。実際にまちづくりに参加する人は、各地区の代表に限られていることが多く、住民の意見が十分に反映されたまちづくりには程遠かった。

人間サイズのまちづくり研究会が提唱するこれからの住民参加のまちづくりは、情報技術で支援された公共圏において、住民間での情報と視点が共有された上で計画・立案されるまちづくりである。

「情報技術で支援される公共圏において、最適な情報技術がGISだと思うのです。GISは、住民一人ひとりの思いを可視化し、肌で感じさせることができます。GISは、情報と視点を共有し、地域のことをみんなで考え、合意形成するためのツールだと思います。」と川向助教授は語る。

新宮町住民アンケート

GIS技術で支援された「新しい住民参加のまちづくり」を実証するために2004年11月末から12月にかけて、そうめんの「揖保乃糸」で有名な揖保郡新宮町をフィールドとしてアンケート調査を実施した。

新宮町の人口は16,948人、世帯数は5,224世帯である。そのうち、新宮町連合自治会加盟の4,810世帯を対象にアンケート用紙を配布した。

アンケートは、大きく「社会基盤」「生活環境」「健康・福祉」「教育・文化」「産業振興」「住民生活」の6分野、全8ページで構成されている。

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アンケートは郵送回収法にて1,105票を回収することができた。通常のアンケートの回収率が数%であることを考えると非常に高い回収率である。新宮町は、5地区47自治会からなっており、それを連合自治会が取りまとめている。事前に連合自治会役員に対し説明会を実施し、連合会経由で配布したことが高回収率に繋がった。

回収したアンケートは、人間サイズのまちづくり研究会のメンバーで集計され、統計パッケージソフトであるSAS社のJMPでデータベース化し、ArcViewで結果を表示した。

アンケート結果から見えてきたこと

各項目ごとにアンケート結果をGIS化した。

防災を例に取ると、アンケート結果より

など、地域による意識格差をGISが映し出した。

この結果を元に新宮町の幹部職員及び連合自治会役員に対して説明会を行ったところ、

など、前向きな様々な意見が飛び出した。
アンケートに協力して下さった住民に対しては、「新宮町住民アンケート調査結果のご報告(概要版)」を配布するとともに、Web上でも集計結果を公開した。

まとめ

「GISできちんとした結果を出すために、データ入力やクリーニングなど、多くの大変な作業がありましたが、GISが新しい住民参加のまちづくりにおいて、必要不可欠なツールであることを証明するきっかけになったのではないかと思っています。新宮町は、2005年10月に4市町合併により「たつの市」となりますが、この新市でGISを用いた住民参加のまちづくりのための支援ができればと思います。」と川向助教授は語った。

本研究室では、GISを利用した研究として、「金融機関の再編と支店立地の変遷の計量的計測」や、「兵庫県下の医療設備へのアクセシビリティ指標の構築と評価」という研究も行っている。

プロフィール


兵庫県立大学「人間サイズのまちづくり」研究会メンバー
前段左: 有馬 昌宏 教授
前段右: 川向 肇 助教授



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資料

掲載日

  • 2006年1月1日