植生図は地域の自然環境や生態系を理解するための貴重な地図情報である。
GISで利用し易いディジタル植生図の作成手法を検討する。
植生図は植物群落の地理的な広がり、分布を示した地図であり、我が国では環境省生物多様性センターによる自然環境保全基礎調査のなかで行われる現存植生図(縮尺5万分の1)が一般的で、全国をカバーしている。今日、この情報は自然環境情報GISとしてディジタル化されシェープファイルのフォーマットで入手できるようになり、環境アセスメントや地域環境計画に係わる業務関係者の間でも広く使われるようになった。ところが、植生そのものを直接専門としないユーザーにとっては、植物社会学的な群集・群落で分類された現存植生図はあまりにも複雑で、凡例の解釈にも一苦労である。一方、植生図化(マッピング)は大変な労力と時間を要する作業で、縮尺2万5千分の1の植生図は未だ全国をカバーするに至っていない。
植生情報をGISで利用することを前提に、GISやリモートセンシングの手法を適用することで、より効率的な植生図化そして誰もがより利用し易い植生情報のかたちを考えた。ここで提案するのは、植生図をディジタル化するのではなく、ディジタル植生図を作成する手法である。
フローチャート
植生の相観判読を行うために、まず空中写真のオルソ(正射投影)変換が必要である。LPS(Leica Photogrametric Suite)を用いることで100モデル程度の空中写真であれば数日ほどでオルソ補正処理は完了する。出来上がったオルソ写真をArcGISに読み込んで、モニター上で植生の相観的特徴に基づき判読界線をマウスで描いてゆく。これがいわゆる判読素図と言われるものに相当するが、すでに座標情報を持ったGISデータであるので、従来のように判読結果を地形図に移写するという作業は不要である。
最近、Stereo Analyst for ArcGISを導入し、これまで二次元で行っていた相観判読を三次元で行うようになった。これによって、判読の精度はかなり改善され、結果的に判読作業に要する時間も短縮化することができた。
完成したオルソ写真
Stereo Analystによる判読作業風景
先述のように判読素図はすでにGISデータになっているので、これをモバイルGIS(ArcPad)に転送して現地踏査を実施する。現地踏査による植生観察や必要に応じて行う優占種調査、群集・群落調査などのポイントはGPSを通じて、直接オルソ写真や判読素図の上に表示される。これによって、現地観察の視点と空からの視点が統合され、効率的に植生単位と植生界に修正を行うことができ、植生図化(マッピング)作業が進行する。
GPSによる観測風景
GPSによる観測風景
GISの支援を受けて植生図を作成する実験的な作業を兵庫県氷ノ山地域で行った。従来手法との比較に於いて両者は一長一短であるが、植生情報をGISでデータベース化したり、解析したりする自然環境フィールドのユーザーにとってははるかに扱い易く、図化も容易に行える。
判読手法の比較
氷ノ山地域の植生図
今後、GISをベースとして植生図の情報を生物のポテンシャルマップの作成やビオトープを評価する基礎情報として活用するなど、応用的な利用に適した植生データのあり方について考えていきたい。