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事例

アメリカ同時多発テロ事件の対応活動を支えたGISチーム

ニューヨーク市ほか

 

危機管理センターを貿易センタービルの崩壊とともに失ったニューヨーク市。新しく設置された拠点でまさにゼロから再構築して対応したGIS チームの活躍。

GISの力を十二分に知り尽くし、活用し、そして利用者に伝え、地図を作り続けたGISチーム。現場で必要なものが、現場で作り続けられた。

テロ発生

2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルとワシントンD.C.のアメリカ国防総省・ペンタゴン本庁舎がテロの攻撃を受けた。米国各地からGISスペシャリストが地図作成、分析の支援のために現地に向かい始めたころ、ニューヨーク市のGISスペシャリストやGISマネージャは、緊急対応のための拠点設置場所を急いで探しまわっていた。というのは、世界貿易センター7号棟に位置していたニューヨーク市の危機管理センターは、ビルとともに破壊され、災害対応に利用するハードウェア、ソフトウェア、GISデータをすべて失ってしまったのである。

  

新しく設置された2つの拠点

GISによる支援のための拠点は2ヶ所に設置された。1つはマンハッタン島Pier90に位置するJacob Javits Convention Center に設置されたGround Zero(ビル跡地)の地図作成チーム。もう1つはPier92に新たに設置されたEmergency Operation Centerであり、ここではGround Zero以外のニューヨーク市の地図が作成された。実際には2つの拠点間でデータが相互に交換され作業が進められた。

  

Ground Zeroの対応

連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency;FEMA)とニューヨーク市消防局(New York City Fire Department;NYFD)の指揮下で、Ground ZeroのGIS利用は進められた。まず初めに目前の廃墟の地図化が集中的に行われ、5階建てビルと同じほど高さで、煙がくすぶり続けている瓦礫の山に立ち向かう消防士や復旧チームの案内に利用された。

FEMAとNYFDによるGISの作業では廃墟の状態を把握するために、まず精度の高いベースマップが必要とされた。幸いにも市はNYCMapという数年前に撮影した高解像度のオルソ補正済みの航空写真を保有していた。それとセットで保有していた道路中心線などの標準的なベクタデータを航空写真に合わせて位置補正した。なぜ位置補正作業が必要になったのかは、NYCMapは比較的新しいものであったため、市の多くの部署が所有するデータとNYCMapを重ね合わせる機会がそれほどなく位置合わせさえも行われていなかったためである。ほとんどのベースマップのコピーは、ビルの崩壊で失われるか利用できない状態になってしまったが、ベクトルデータを航空写真に合わせる補正作業を数日で行い、精度の高い地図製品が作られた。これらの制約はあったが、NYCMapがあったことで作業が容易になった。

2つ目の極めて重要なデータは、世界貿易センタービルの広大な地下街の平面図等であった。これらのデータはデジタル形式ではあったが、CADフォーマットであり、GISで利用する前にフォーマット変換等の前処理が必要となった。Ground Zero GISチームは、これらの2つのデータを組み合わせ、燃料タンクなどの危険物の場所、生存空間が確保される可能性が高いエレベータのシャフトの場所などを示すUSAR(UrbanSearch and Rescue)チーム用の地図作成を開始した。

3つ目の極めて重要なデータは、復旧チームの作業検討用のGround Zeroのオルソ補正済み航空写真とリモートセンシングデータであった。EarthData Inc.は、9月14日からの数週間、毎日継続して撮影をおこなった。軽飛行機からは熱とLIDAR(light detection and ranging)データの観測が可能であった。後者は、瓦礫の山の高精度な3次元表示を可能にした。マンハッタンで観測を終えた飛行機は、New York Sate Office for Technologyが設置したAlbanyの処理センターに飛行移動した。技術者が画像、その他データを処理し、市に転送した。

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過去のテロ攻撃でGISを利用した経験が9月11日の取組みに役立った。6年前のオクラホマ市で目標物が完全に破壊されときに利用した方式をGround Zeroでも採用した。それは独自の位置参照系である。オクラホマ同様、ニューヨークでも格子状の参照系を設定した。この格子によりUSARや他のチームは場所の特定が行えるようになった。また、証拠収集、環境観測、瓦礫処理などのGround Zeroにおけるさまざまな活動結果の分類にも利用された。

Pier92での対応

Pier92でのGIS作業は、より広い指揮権をもつニューヨーク市の指揮下で行われた。地図利用者は、影響を受けたニューヨークのすべての機関と同様、同じビルに拠点を設置している連邦や州の機関であった。さらに市長室も利用者であった。自治体、州、連邦の首長への状況説明、メディアへの情報公開、高官の視察対応に地理的な情報や地図を必要としていた。

Emergency Operations Centerが破壊されたため、Pier92のGISチームは、まさにゼロからGISを構築しなければならなかった。GISベンダー、別の町、州、連邦機関、教育・研究機関といった様々なソースからNYCMapなどのデータをかき集めた。Emergency Mapping Centerという横断幕の下に、ArcGISとともにGISチームが設置された。

GISチームが稼動を始めて数時間のうちに2つの出来事がおきた。1つは、GISチームを率いたAlan Leidner氏が、GISはデータ可視化ツールであるという彼の考えに従い横断幕にDataの文字を加え、EmergencyMapping and Data Centerと変更したこと。もう1つは、GISのコンセプトを伝える活動が開始されたことであった。GISチームのメンバーは、当センターを訪れる各種機関の担当者に見えるように、大きな用紙に印刷したサンプルの地図を壁に貼り出した。そしてGISはただ地図を作成するだけでなく、利用者の業務に関連する属性や図形を正確に示すことができること、業務に必要な情報を現す地図を各種データから作成できることを伝えた。

このGISのコンセプトが理解されはじめると、GISチームには地図作成のリクエストが殺到。数日の間に地図は他のものと比較にならないほど評判となった。GISチームは、個別の特定ニーズの地図作成を進めながらも、同時に利用者の要求を満たすテンプレートや標準的な地図を作成した。日々更新される立ち入り規制区域、指揮所やその他の対応部門の配置図、停電、交通規制、建物の状態図を示した地図およびオルソ航空写真に道路名称を重ね合わせた地図が現場ではよく利用され、GISチームによる地図作りは続けられた。

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継続的に更新された各種の地図。
航空写真に道路名称を重ねた地図(右)
立ち入り規制地域などを示す地図(左)

プロフィール


現場の業務ニーズを満たす地図を作り続けた
Emergency Mapping and Data Center


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資料

掲載日

  • 2006年1月1日