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事例

衛星リモートセンシング技術の応用による地下水の起源を探る試み

三菱マテリアルテクノ株式会社

 

多様な手法を駆使した地下水起源の判別と科学的説明

飲料水、酒類、食品の原材料である地下水の起源を明らかにし、
「食の安全・安心」、「地下水のブランド化」につなげていきたい

研究の背景

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地下水起源解析の流れ

キリンホールディングス株式会社は、清涼飲料水・酒類を製造している事業構成会社であるキリンディスティラリー株式会社富士御殿場蒸溜所の地下水が、「約50年前に標高2,000m以上の富士山斜面に降った雨が浸透した地下水である」ことを公表した。

このような研究を行った背景として、食品の原産地表示と同様に、清涼飲料水・酒類の原材料である地下水についてもその起源を明らかにし、消費者へ提示するという企業姿勢がある。

研究を受託した三菱マテリアルテクノ株式会社では、安定同位体分析や水質分析のほか、リモートセンシング、数値解析などの多様な手法により、地下水起源の判別に関するノウハウを積み上げてきた。キリンホールディングス社からの依頼に対し、これら手法を適用することで、確度の高い結論を導き出すことが可能となった。

水の「重さ」から地下水の起源を探る

同じ原子番号を持つ元素同士でも、その原子の質量数がわずかに異なるものがあり、「同位体」と呼ぶ。

水は水素と酸素から構成されるが、水素と酸素にも同位体がある。水素のほとんどは陽子1個からできており(1H、軽水素)、地球上の水全体で99%以上を占める。しかし、重水素(2H)という同位体は陽子と中性子を1個ずつもっており、0.00156%だけ存在する。同じように酸素にも重たい同位体があり、同位体の含まれる割合が変わると、水の「重さ」も異なることが知られている。

山の斜面に降る雨水の重さは、標高が高くなるほど軽くなる傾向があり、「高度効果」として知られている。雨水の重さの違いは、地中に染み込んで地下水になってからも変わらない。一方で、カルシウムイオンや重炭酸イオンなどの溶存イオンは、地下水が岩石と反応することで変化する。このように地下水の同位体や溶存イオンを調べることで、地下水の起源(涵養域:雨水が地中にしみこむ場所)を推定することができる。

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地下水の同位体や溶存イオン

衛星リモートセンシングの応用

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対象地域のLANDSAT画像と土地利用区分図
(富山ほか(2009)、分析化学、58、865-872)

地下水シミュレーションは、コンピュータを用いて地下水の流れを計算する手法であり、地下水の起源や流路の推定のほか、汲み上げ可能な地下水の量を予測できるため有用であり、様々な分野において適用されている。

しかしながら、計算に必要な様々なパラメータのうち、雨水の地下浸透量は設定が難しく、十分な精度が得られていなかった。この問題を解決するために、リモートセンシング技術を応用した。

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シミュレーション・モデル

  

地下浸透量を設定するには、対象地域の水収支を明らかにする必要がある。水収支は降水量、蒸発散量、河川流出量、地下浸透量のバランスであり、降水量から蒸発散量および河川流出量を差し引いた値が地下浸透量となる。
蒸発散量は既存の気象データ(気温、日射量など)より算出が可能であるが、本研究では撮影時期の異なる複数の植生指数画像から土地利用区分図を作成し、それぞれの土地利用区分ごとに詳細な蒸発散量を算出した。また、河川流出量については、数値標高データ(DEM)を用いて地形特徴を統計学的に数値化し、現地で測定された代表的な河川の流量と比較することで、対象地域のいくつかの地形特徴ごとに河川流出量を算出した。

このような水収支解析により地下浸透量を求めたところ、更に精度の高いシミュレーションが可能となった。また、キリンホールディングス社からの受託研究では、トリチウム年代測定を含めた多様な手法により、解析した地下水の起源が一致したため、科学的根拠をもって説明することが可能と判断された。

今後の展開

現在、衛星画像やDEMによる水収支解析のツールとしてArcViewなどを導入している。
今後は、地下水の同位体や溶存イオン、シミュレーション結果を取り込んだ統合的なデータベースを構築し、ArcGISの利便性を発展活用していきたい。

プロフィール


環境事業部  富山 眞吾 氏
資源・エネルギー事業部 景山 宗一郎 氏



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資料

掲載日

  • 2010年1月1日