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事例

学際的研究のための空間データ共有システム

横浜国立大学 大学院環境情報研究院

 

「生物・生態環境リスクマネジメント」の国際的研究・情報発信拠点をめざす

実践的な環境科学研究には、個々の専門分野の研究成果を有機的に結合した総合科学のアプローチが求められる。横浜国立大学は手段としてGIS を選択した。

学際的研究の基盤としてのGIS

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横浜国立大学大学院環境情報研究院の21世紀COEプログラム「生物・生態環境リスクマネジメント」(拠点リーダー:浦野紘平教授・環境安全学)では、日本を含む東アジア地域を対象に、環境リスクに関する情報を収集・解析、データベース化して発信するとともに、生物・生態環境リスクの評価方法を確立し、リスクマネジメントの概念と構想を提示する取り組みが行われている。

本プログラムでは、実践的な環境科学研究の発展に必要な理・農・工・人文社会科学等の広域分野の融合による学際的研究の推進のために、情報共有手段として有用であると広く認識されているGISをベースに研究成果等を空間データとして統合し、研究を推進している。研究者間の研究成果データの共有、利活用に関しては、明確な枠組みや一般化された手法が確立されているわけではない。本プログラムの活動は、これまでに無い取り組み、まさに挑戦である。将来の世界に向けた環境リスク情報発信拠点を見据え、まず第1段階として、学内のネットワーク内を対象にした共有と利活用の仕組み作りが開始された。

データベースシステムの機能

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本プログラムの参画研究者は、植物生態学、土壌動物学、地球科学、海洋生物学、環境安全工学等の環境リスクに関するそれぞれの専門知識に加え、GISに対する高い関心を持っている。しかし、これからGISを利用し始める研究者がほとんどという状況があった。

参画研究者は1つのキャンパス・研究院に集中しており、作業環境を標準化すれば密な連携を取ることができる条件が揃っていた。全研究者が共通のArcGISライセンスを利用可能なサイトライセンスを導入し、効率的なデータベース構築の基盤を構築した。

学内LANにおける一極集中型の空間データ共有システムの構築が開始された。将来的には学内外の協力研究者との情報共有・発信も可能な構成にするため、エンタープライズ型のシステム構成による設計が行われた。

大量のデータを効率的に蓄積・管理・利用・処理しセキュリティを厳重かつ一元的に管理するためにリレーショナルデータベースマネジメントシステム(RDBMS)を採用した。RDBへの空間データの格納および利用にはArcSDEを利用した。

また、参画研究者がデータベース内のデータを効率的に検索できるようにするため、Webブラウザから検索可能な「環境リスク情報検索システム」をArcIMSとMetadata Explorerをベースとして構築した。

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検索システムで見つけたデータは、データ管理ツールであるArcCatalogでアクセスし、データ利用ツールであるArcMapに簡単に追加できる。ArcMapのビジュアライゼーション、検索、解析、出力図作成等の機能を一元管理された様々なデータに対して利用できるため、異種分野のデータをレイヤとして重ね合わせることで情報の統合が可能となり、学際的な研究を推進する基盤として機能している。

研究基盤空間データの整備

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本プログラムでは参画研究者へのアンケート調査等を通して、「環境リスクマネジメント」に役立つと考えられる空間データの一元的データベース化を行った。具体的には、本プログラムの共通研究フィールドである神奈川県全域を中心に、下表の各データを整備した。

空間データのファイル形式に関しては、現在、最も一般的なシェープファイル形式やG-XML形式でなく、以下の理由により、本システムではジオデータベース形式を採用した。

  1. シェープファイルや他の標準的なフォーマットでは難しい高度なデータ管理を可能にする。
  2. 当面の利用者は参画研究者に限定しており、参画研究者は全員、ジオデータベースが利用可能なArcGISライセンスを所有している。
  3. 標準フォーマットへの見込みも含めた将来性・発展性がある。

また、本データベースでは、複数のテーブルに該当するコード表をテーブル形式で格納し、空間データとリレーションシップを組み、ArcMap上でのコード表の容易な引き出しや空間データとの一時的な結合を可能としている。これにより、データの冗長性を排除しつつ、複雑な操作を苦手とする参画研究者の利便性を高めている。

整備された国内データの数は、空間データが58レイヤ、それにリレートしているテーブルデータが356である(2004年4月末現在)。

メタデータに関する検討

本システムは最終的に、空間情報データを基盤とした環境リスク情報の国際的発信を想定しているため、空間情報のメタデータの書式を十分に検討した。世界への情報発信を考慮すると国際的な標準規格を選定する必要があった。

2003年5月に新たな地理情報のメタデータ国際規格としてISO19115が正式に発行された。これは、国際標準機構(ISO)のTC211(地理情報専門委員会)によって検討、規格化されたものである。

国内においてもJapan Metadata Profile(通称JMP)がISOに基づいて作成されており、本プログラムではメタデータ規格として国際標準規格であるISO19115を採用している。

次のステップへ

本プロジェクトの取り組みから、情報科学分野を専門としない研究者でも空間データ等の情報共有システムを構築することは技術的に可能であることが明らかになった。

技術的課題がクリアされた今、システム構築後の管理・運用という次の課題が見えてきている。研究成果データの守秘問題、データ利用に関するデータの精度保証や論文発表等における共著者および謝辞等記載に関する規則作り、またデータベース自体の維持・管理(含むセキュリティ)に関する人的・金銭的問題等、制度と費用の両面からの空間データ共有システムのあり方など課題は尽きない。

そんな中、参画研究者のGIS活用を促進するための教育プログラムも開始された。「GIS Ⅰ(入門)」および「GIS Ⅱ(発展)」という演習中心の特設講義を開講した。国際的研究・情報発信拠点の形成のための次の確かな一歩が踏み出された。

プロフィール


21世紀COEプログラム
生物・生態環境リスクマネジメント



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掲載日

  • 2005年1月1日