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遭難者の人命救助活動にGISとGPSを本格導入

ジョシュアツリー国立公園

 

遭難者の人命救助活動を支えたGISとGPSテクノロジー

砂漠での遭難者の捜索に本格的にGISとGPSが導入された。捜索経路をラインデータとして残すことで、十分な捜索が行われた地域と再度捜索の必要のある地域を区別した計画的な捜索が実施された。空間技術が人命救助活動を変えた。

ジョシュアツリー国立公園

南カリフォルニアにあるジョシュアツリー国立公園には、年間100万人以上のハイカー、マウンテンバイカー、ロッククライマーが訪れる。ロサンゼルスの東360Kmに位置するこの国立公園は、面積が3,237Km2(東京都の面積は、約2,100Km2)で、カリフォルニアの3つのエコシステムに及んでいる。また米国内でも有数の素晴らしい地質層や、考古学サイト、ユニークな動植物生態系を誇っている。公園内には、案内付きの歩道や道路網があるが、毎年6~8人のハイカーが遭難する。過酷な砂漠環境では、遭難者は飲料水不足や不十分装備により、数日のうちに致命的なダメージを受ける。

60歳のハイカーの捜索活動を支えた地図

2003年4月21日、60歳のハイカーが遭難した。周辺機関と公園局職員による大掛かりな捜索が開始された。捜索の重複を避け、時間を節約するために、GISで作成したマップを使い空と地上、馬と徒歩による捜索の連携が図られた。

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本捜索は、遭難事故発生から遭難者の発見まで、
GISとGPSが効率的に使用された
最初の捜索救援活動となった。

公園火災管理官のトム・パターソンは、GISとGPSを使用した緊急対応マッピングの技術開発を推進してきた。今回の捜索では、捜索隊員やボランティアの人々が効率的に捜索を行えるように、パターソンを中心に公園スタッフであるスティーブ・エレンバーグとシャッド・マーフィーが、休むことなく捜索結果を記録したマップを作成した。

本捜索は、遭難事故発生から遭難者の発見まで、GISとGPSが効率的に使用された最初の捜索救援活動となった。
2003年4月21日、マーヴィン・マツモトと16歳の息子マークは、ハイキングから帰る途中別々の方向へ分かれた。計画では、ベーカーダム沿いの1.6Kmのループトレイルを反対方向に進み、ダムの中央で落ち合うことになっていた。ベーカーダムは、公園内でワンダーランド・オブ・ロックスとして知られている岩だらけの一帯に位置している。この2.6Km2に及ぶ巨石群の迷路は、地形に詳しくなければ経験豊かなハイカーでさえ簡単に遭難してしまうほどだ。公園局はこの一帯で無数の捜索救援活動を行っており、遺体発見という残念な結果に終わった捜索も過去にあった。

マツモトが公園を訪れたのは、その日が初めてだった。彼は食料、飲料水、懐中電灯やその他非常時への備えをしておらず、服装もジーパンにTシャツ、つるつるした靴底のデッキシューズに野球帽と軽装だった。この頃、寒冷前線が公園一帯に移動してきたため、風速18mの風とともに一晩で気温が0度以下まで急激に低下した。マツモトの捜索は直ちに急務となった。マツモトの遭難から5日間は、過去20年間にジョシュアツリー国立公園で最も大規模な捜索が行われた。

非常時に生きた平常時の備え

マツモトの遭難の直前、ジョシュアツリー国立公園では「災害現場指揮システムのためのGPS」講習会が開催された。4月7~11日に開催されたこの講習会では、GPSとGISを本格導入し、山火事をマップするという画期的な方法が、35人の受講者に伝達された。*1 このコースの目玉は、ヘリコプターからデジタルマップの複雑さを学習する空中写真図化
だった。課題として受講生は、ミネソタ州天然資源局が開発したDNRGarmin ArcView エクステンションを使用しながら、GPSトラックファイルをシェープファイルに変換する方法を学んだ。また、GPSのナビゲーションスキルだけでなく、国内地図作成基準に合ったデータの収集とGISでデータを表示する方法についても、この講習では取り上げられていた。

捜索期間中、GISは重要な役割を果した。この講習会を受講したジョシュアツリーの消防士であるスティーブ・エレンバーグ隊長とエンジンオペレーターのシャッド・マーフィーは、講習会で学んだ新しいスキルをマツモトの捜索に導入した。2人は毎日何度も上空から捜索を行い、直ちにデータをシェープファイルに変換した。より大きいD-サイズのマップに捜索進展状況をプリントするには、45Km離れた公園本部のGIS研究室にあるプロッタを使用しなければならなかった。公園本部のプロッタは主要捜索地域やその他の地域の地形図の印刷にほぼ休みなしで稼動した。普段はサイズが小さく輪郭が不鮮明な黒白コピーの地図を使用していた現場の捜索隊員からは、UTM座標系を使用したフルサイズのカラーマップが高く評価された。

捜索4日目

捜索4日目、カリフォルニア州政府の緊急事態局は、GISトレイラーとGISスペシャリストを現地に派遣した。その理由は捜索に協力できる資源を倍にするためであった。捜索資源には、ヘリコプター(いくつかは赤外線探知センサーを装備)、捜索犬、捜索隊が含まれていた。難解な地形のため、多くの捜索隊は専門的で急傾斜な場所での救出を行う装備もしていた。捜索隊の半分以上は、GPSレシーバーを所持していた。エレンバーグとマーフィーは、Garmin社のDNR Garmin エクステンションを使用して、データをポリラインまたはポリゴンに変換した。また紙地図に捜索進展状況を記録した地域については、スクリーンデジタイジングが使用された。何回かの調査飛行と地上捜索任務では、緊急時に簡単なシェープファイルを作成できるArcPadが使用された。公園火災管理官のトム・パターソンは、捜索データを毎日ArcViewで入力した。データ入力は、レターサイズのカラーマップが印刷できる森林火災用の小型プリンターを備えたパターソンの指令用四輪駆動車で行われ、毎日夕方には捜索された地域の記録が作成された。この記録から、十分な捜索が行われた地域と再度捜索の必要のある地域を、災害現場管理官は直ちに判断することができた。

捜索5日目、ついに遭難者発見!

捜索5日目、リバーサイドレスキュー隊のカーク・クロイド、ジェリ・サンチェス、ウィル・カールソンが、マツモトを無事発見した。3人は間違ったGPS座標の入力により、本来の捜索地域ではない場所でヘリコプターを降りていた。しかしヘリコプターを呼び戻すのではなく、本来の捜索地域へ歩いて移動することにしていた。捜索地域へ向かう間、隊員たちは非常に難解な地形にでくわした。サンチェスは、60歳男性がこんな場所にいるだろうかと疑いながら、マツモトの名前を叫んだ。マツモトが弱々しくそれに答えたとき、3人は信じられない表情で立ち尽くした。午後2時20分、最後に目撃された地点から北へ約4Kmのところでマツモトは発見された。彼は、巨石の間に落ちていたので、空からは発見できなかった。発見場所に行き着いた経緯についての彼の記憶は限られていたが、ヘリコプターの音が聞こえたのでそのうち発見されると信じていたそうだ。GPSの座標位置は捜索隊員によって伝えられ、リフトを装備したヘリコプターがマツモトを救出した。マツモトはそのまま砂漠地帯医療センターに搬送され、脳震とう、背骨と右足の骨折、低体温症、深刻な脱水症状と多数の打撲と切り傷の手当てを受けた。

マツモトの捜索から、多くの教訓を得た。その1つはおそらく「間違った座標の入力で仮に間違った捜索場所に行ったとしても、遭難者を発見できるかもしれない!」ということだ。この捜索に参加した80人以上の努力をひとつにまとめるのに、GISが役立ったのだ。*2

注釈
*1.「 災害現場指揮システムのためのGPS」講習会へは、以下の州の人々が参加
メイン州、ジョージア州、コロラド州、モンタナ州、オレゴン州、ウィスコンシン州、アリゾナ州、アイダホ州、テキサス州、ニューメキシコ州、カリフォルニア州

*2. 今回の捜索に参加した団体
国立公園局、サンバーナーディノ郡保安局、リバーサイド郡保安局、土地管理局、ジョシュアツリー捜索救助隊、シエラマドレ捜索救助隊、捜索と地元の市民パトロールによる運搬支援に参加したリバーサイドマウンテンレスキュー隊、海兵隊空陸任務部隊トレーニング・コマンド、デスバリー国立公園公園保護官、多くのボランティアの人々

プロフィール


マツモトを無事発見したリバーサイド
レスキュー隊3名
カーク・クロイド、
ジェリ・サンチェス、
ウィル・カールソン


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資料

掲載日

  • 2005年1月1日