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事例

災害派遣医療チーム(DMAT)支援システム。発災時における傷病者の位置とトリアージ結果をリアルタイムに確認

新潟大学工学部 情報工学科

 

災害現場におけるDMATの活動をWebGISが支援する

はじめに

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図1 専用端末からの情報送信

新潟県では、2004年に新潟県中越地震、2007年に中越沖地震が発生した。新潟大学工学部情報工学科の牧野教授は、この2つの地震を経験した経緯から、大規模災害発生時の防災・減災に対する情報技術を使った医療情報システムの研究開発に取り組んでいる。

牧野研究室では、2008年より災害現場におけるDMAT(Disaster MedicalAssistance Team:災害派遣医療チーム)の活動支援を目的に、トリアージ後の負傷者の位置・人数・重症度などを迅速かつ正確に外部機関に送信できるシステムの開発を行ってきた。ちなみにDMATとは、医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成され、大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場に、急性期(おおむね48時間以内)に活動できる機動性を持った、専門的な訓練を受けた医療チームを指す。またトリアージとは、人材・資源の制約の著しい災害医療において、最善の救命効果を得るために、多数の傷病者を重症度と緊急性によって分別し、治療の優先度を決定することである。
発災現場の問題点としては、まず商用電源及び通常の通信網を利用できない状況が発生することがある。また、現場からの情報を包括的に実時間処理し、提示する仕組みも不足している。これらを解消するためにDMAT専用の情報入力端末、情報送信並びに提示のための装置、及び基幹病院等で容易に二次トリアージ情報を送信することができる一連のシステム開発を行った。

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図2 システム構成

  

トリアージ情報リアルタイム把握システム

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図3 携帯画面

今回開発したものは、DMAT支援用トリアージ情報リアルタイム把握システムと呼んでおり、図2の様な構成で構築されている。図2左は、災害エリアにおいて使用するトリアージ情報送信システム、中間は後方の支援基幹において情報の集積と提示を行うためのデータセンター、右は病院エリアより二次トリアージ情報を発信するための携帯電話を用いた送信システムとなっている。
本システムでは、以下の3機能を実現している。

    1. 電源及び通信回線が途絶した被災現場から、トリアージ結果、患者ID、位置、時刻、端末IDをデータセンターに送信する。
    2. トリアージ情報をデータベースに格納し、WebGISを通じて配信する。ここでは、地図の拡大・縮小による傷病者位置の個別表示や、地域ごとの傷病者数を棒グラフにまとめての表示を行っている。また、インターネットを通じて基幹病院や行政機関にてトリアージ結果をリアルタイムに閲覧することも可能である。本システムでは、携帯電話表示用のソフトウェアも含まれているためWeb画面が表示可能な携帯電話やスマートフォンでの閲覧にも対応した。なお、本システムでは、GISエンジンとしてArcGIS Serverを採用した。

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図4 携帯電話からの情報送信

  1. 携帯電話によりトリアージタグに付けられたRFIDから患者IDを読込み二次トリアージを実施する。SCU(Stagingcare unit)や基幹病院などでは、電源や通信手段は確保されているものの、大量の専用端末を常備することは困難である。そこでRFID読込み機能を有する携帯電話を利用してトリアージタグIDの読込み、GPS位置情報取得、トリアージ結果、時刻、携帯電話IDの送信を行うこととし、更に写メール機能ならびにコメント送信機能を追加した。

三魚沼総合防災訓練における実験結果

平成22年10月23日に新潟県十日町市を中心に行われた三魚沼総合防災訓練において、関係機関の協力により本システムの動作確認実験を行った。訓練では、60人の負傷者が発生したと想定し、災害現場、基幹病院、臨時ヘリポートに設定した3地点において実験を行った。
実験方法は、以下の通りである。

  1. 災害現場
    20人の負傷者が発生したという想定でトリアージを行い、トリアージ情報を送信する。その後、判別色「赤」の負傷者から優先的に基幹病院へ搬送する。
  2. 基幹病院
    40人の負傷者が直接来院したと想定しトリアージを行い、トリアージ情報を送信する。また、1.の災害現場から搬送された負傷者を受け入れ、再度トリアージを行い、トリアージ情報を送信する。その後、更に高度な治療が必要な負傷者を1名、臨時ヘリポートへ搬送する。
  3. 臨時ヘリポート
    基幹病院から搬送された1名の負傷者に対するトリアージ情報を送信する。

本システムは、災害発生時のDMAT活動支援を目的に開発したものであるが、今回の実験により、当初目的とした、災害現場からの情報送信、基幹病院からの情報送信及び集計のリアルタイム配信について基本的な項目を実現できることが実証された。

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図5 トリアージ情報表示結果

  

これからの取り組み

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図6 牧野研究室

「今回の実験でDMAT用に開発したシステムが、災害現場におけるリアルタイム配信を実現できることが分かりました。今後の技術的な課題としては、屋外使用にする際の遮光方法を検討することやスマートフォンへのソフトウェア移植により、更にRFID読み取り機能を持つ端末の選択肢を広げることなどがあります。また、RFID型診察券のような形式で、投薬情報や予防接種の履歴を含めることも技術的には可能ですので、今後、より多くの医療関係者のご意見を伺いながら検討していきたいと考えています。本システムは事業化を前提として構築しておりますので、これから事業化に向けて発展させていきたいと思います。また、日本国内に限らず、中国や韓国など海外も視野にも展開していく予定です。新潟大学がArcGISサイトライセンスを導入していることもありますが、海外展開も見据えてGISソフトはArcGISを採用しました。今後、国内、海外に関わらずDMATを支援するシステムとして発展させて行きたいと思います。」とこれからの抱負について牧野教授は語ってくれた。

プロフィール


牧野秀夫 教授 (下段中央)



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掲載日

  • 2012年1月1日