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文理の枠組みを越えた GIS 教育の展開と地域貢献

福岡工業大学

 

1 年次から 4 年次までの体系的な GIS 教育と GIS を活用した地域貢献につながる研究の推進

概要

福岡工業大学社会環境学部では、環境に関わる諸問題に関して主として社会科学の立場からアプローチし、グローバルな視点から持続可能な社会実現に主体的・自律的に貢献することのできる実践型人材の育成を目的としている。特に現代社会の地域活動に関連するスキルを総合的に学ぶ「地域コース」では、地理情報、自然環境、防災、まちづくりなど文理の枠組みを越えた専門分野が展開されている。それらを学ぶ基盤的ツールとして、また地域貢献につながる研究ツールとして GIS を採用することで、教育・研究・地域連携の各面において広く活用できる環境が整えられ、年々、学部内での GIS の裾野は拡大している。

課題

データを視覚的に表現する能力は、目下、当たり前に必要とされている。GIS 導入以前の社会環境学部では、様々な事象を地図上に表現できる簡便な手法がなく教育の妨げになっていた。また、ハザードマップの作成など GIS には社会的ニーズがあるにもかかわらず、これまで必要となるソフトウェアの導入が十分に検討されてきていない状況にあった。

そこで学部では、2013 年度(平成 25 年度)にスタートした第 6 次の中期運営計画において、「教育の質的転換による付加価値向上」における具体的施策として「魅力ある教育拠点としての学部の付加価値の向上」を掲げ、「近隣大学にはない目玉となるような教育内容、ツールあるいはプログラムなどの導入」を検討推進することにした。

また、新たなツールの導入に際しては、研究面においても、特色ある研究によるプレゼンスアップのための分野横断的な研究テーマの創出や、研究成果の社会還元を通した地域社会への貢献をも視野に入れての検討となった。

ArcGIS 活用の経緯

導入した 2013 年当時、社会科学領域の学部において ArcGIS のサイトライセンスを有している大学は非常に限られており、導入により近隣他大学にはない教育を行うことができると考えた。また、ArcGIS は多くの自治体や企業で採用されているソフトウェアであり、ArcGIS の利活用能力の習得は、本学学生の就職先の広がりに貢献できるのではないかと考えた。さらに研究者の中でもユーザーの多い ArcGIS を採用することで、学部内外の教育研究への波及効果も期待した。そして 2017 年度(平成 29 年度)までの 5 年間を、ArcGIS を利活用しての教育研究を推進するための体制作りの準備期間として試行等を重ねた。

課題解決手法

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社会環境学部における GIS カリキュラム

1 年次から 4 年次までの体系的な GIS 教育
社会環境学部では、2018 年度(平成 30 年度)より日本地理学会「GIS 学術士」資格に対応したカリキュラムに改定し、沖縄を除く九州地方では唯一の科目認定校(2021 年時点)としての教育環境を整備した。

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授業風景
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2018 年度より開講されている 1 年次配当科目の「空間情報学 I」、「空間情報学 II」は、地理空間情報やそれを扱う GIS に関する基本的な知識や技術を習得することを目的とした科目である。主に福岡を対象とした人口や経済、自然環境に関する ArcGIS を用いた空間分析の演習を通して、空間的思考力や課題解決力を養うことも目的としている。また 2 年次以降も「自然環境調査法」、「防災情報学」、「フィールドワーク」など複数の分野にまたがる専門科目においても ArcGIS の利用機会を設けている。特に 3 年次の「フィールドワーク」では、大学周辺地区のハザードマップ作成、沿岸域における魚類の採集調査、市内住宅地を対象とした住環境調査の 3 テーマを専門分野が異なる 3 人の教員で分担して実施し、野外調査での GIS 活用を学べるようにしている。例えば、住環境調査では、複数のグループに分かれて現地調査アプリ「ArcGIS Survey123」を活用した空き家調査を行い、その発生要因を地域特性から分析した。

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フィールドワーク(住環境調査)

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フィールドワーク(ハザードマップ作成)

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島原市での防災アプリ体験

GIS を活用した地域貢献につながる研究の推進
社会環境学部では、ArcGIS Online をベースに、身の回りの危険箇所や避難所などを実際に歩いて見てまわり、クイズを解きながら身近な災害リスクや避難経路などに関心を持ってもらうためのスマートフォン向け防災アプリ「防災 Go!®」を株式会社 CTI グランドプラニングと共同で開発した。地域のハザードマップをスマホで提供し、現地に行くとポイントを取得できるゲーム形式のアプリである。

国土交通省熊本河川国道事務所(熊本県)や、本学と地域包括連携協定を結んでいる古賀市(福岡県)や島原市(長崎県)とも連携してアプリの実証実験も進行中である。

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防災アプリ「防災 Go!®」

効果

教育面においては、GIS 科目は選択科目であるものの、毎年受講者数は増え、「空間情報学 I」においては開講 2 年目以降から 100 人を超えるなど想定よりも高い受講実績を上げることができた。1 年次から GIS を学ぶことで学生の GIS 活用の裾野が広がっただけでなく、4 年間を通じて GIS を体系的に学ぶ学生は飛躍的に増加した。その結果、卒業研究やゼミナールでの PBL(課題解決型学習)、授業外での地域連携活動での利用が進み、地理空間情報に関わる就職先を目指す学生も増えた。また、地理情報システム学会学術研究発表大会では、GIS を用いたダンボールジオラマプロジェクションマッピングに関する学生発表が若手分科会奨励賞を受賞するなどの評価も受けた。さらに、2020 年度(令和 2 年度)のコロナ禍では、対面授業から遠隔授業への変更を余儀なくされたが、ArcGIS Online などを併用することで講義内容をほぼ変更することなく GIS 教育を継続することができた。

また防災アプリ「防災 Go!®」は複数の地元メディアにも取り上げられ、地域の防災意識向上などの面で研究成果の地域還元が期待できる。

今後の展望

GIS 学術士資格の取得を見据えた卒業研究等でのニーズも高まっていることを踏まえ、今後は教育・研究で利用可能な空間データの整備など、より一層の GIS 教育環境の充実が求められる。また、これらの成果を関連学会や地域イベント等を通じて対外的にも PR していきたい。

 

プロフィール


社会環境学部
左から
教 授 森山 聡之 氏
教 授 中川 智治 氏
准教授 乾 隆帝 氏
准教授 上杉 昌也 氏



関連業種

関連製品

導入協力企業

株式会社CTIグランドプラニング
組織名 株式会社CTIグランドプラニング
住所〒810-0041
福岡市中央区大名2-4-12
CTI福岡ビル
電話番号 092-737-5333
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資料

掲載日

  • 2022年1月11日