課題
導入効果
志摩市役所外観
志摩市は三重県の東南部に位置し、北部は伊勢市および鳥羽市に、西部は南伊勢町に接し、南部および東部は太平洋に面している。市全域が伊勢志摩国立公園に含まれ、英虞湾(あごわん)や的矢湾といったリアス式の海岸が特徴的で、大小の島々も点在する自然豊かな地域である。同市では 2020 年(令和 2 年)より、職員主導の GIS 利活用を進めるために ArcGIS 自治体サイトライセンスを導入している。
導入のきっかけは災害時の避難所運営や地域の見回り等の庁外業務にて利用可能な GIS が必要になったためであった。導入から 1 年が経過した現在では、避難所マップの作成や住民向け公開システム等さまざまな業務にて、利用され始めている。
志摩市では、台風や豪雨などの災害時に職員が配備・派遣要員として、避難所の運営や各所の見回りの当番を行っている。当番業務の際、他の職員と横の連携が取れておらず、周辺の避難所がどのような課題を抱えているのか、現場での情報共有ができていなかった。また、現場対応の方法が職員個人の裁量に任されている状況であり、現場での情報共有および状況確認できるシステムが必要とされていた。
さらに、各原課より庁内で約 15 年前から運用していた統合型 GIS を庁外から閲覧することができないかという問い合わせが増えていたため、庁外業務に利用できる新システムの導入を検討していた。検討を進めていくなかで、多数の業者から情報収集を行ったが、導入費用が高額であることやパッケージ型の個別業務特化システムでは汎用性が低いこと等を理由に導入を見送っていた。
総合政策課の担当職員である小野氏は、基幹系システム以外の一部の庁内システムや住民向け公開システムについては、職員の手で運用できるものを導入した方が良いと考えていた。庁内 DX を進めていくには、従来の固定業務に特化したパッケージ型のシステムではなく、職員が自由に触れる汎用ツールとしてのシステムが必要だと感じていた。
そのような折、長野県岡谷市の公開型 GIS「くらしマップおかや」の存在を知った。「くらしマップおかや」では、市民投稿型の鳥獣被害アプリや写真と地図が連動する公園マップ、道路情報投稿アプリ等、いろいろな表現方法を利用し、職員の手でわかりやすいマップを住民向けに公開している。この岡谷市を参考に導入検討を進めた。
その後、2019 年(令和元年)に開催された GIS コミュニティフォーラム in 中部の自治体セッションに参加し、岡谷市の事例発表を聴講した。岡谷市の職員から実際に話が聞けたことにより、システム導入後の運用までイメージを固めることができ、ArcGIS の採用を決めた。
導入を進めるにあたり、まずは市長に対して「くらしマップおかや」の事例を紹介し、同様のシステムの導入を検討していることを伝えた。その結果、マップやアプリを職員の手で作成することができ、市民サービスの向上につながることが期待されたため、導入に向けて進めていくこととなった。
GIS の導入には全庁的に ArcGIS が使い放題となる ArcGIS 自治体サイトライセンスを採用し、職員が GIS を利用できる環境の整備を進めた。導入時には公開型 GIS にのみ利用できる限定的なライセンスの利用も検討したが、岡谷市のように全庁的に利用可能で、職員が主導で行う GIS 運用の実現を目指し、自治体サイトライセンスの導入を決定した。職員数や部署に関係なくライセンスが使い放題であれば、アイデアのある職員がいつでも GIS を活用して業務改革を行える環境を整備することができ、庁内 DX を進めていくツールとしても活用できるのではないかと考えていた。
志摩市公開型 GIS では道路網図、景観計画区域図、防災情報マップ、公園マップの計 4 つのアプリが公開されている。必要な時に住民に向けた情報を職員自身の手で公開と運用ができるようになったのは大きな効果である。
それに加え、有事の際に利用できる避難所情報の公開アプリも作成した。このアプリは住民公開用、災害対策本部用、現場対応用の 3 つからなっており、すべて職員自らの手で作成している。「このようなアプリを自分自身の手で簡単に作成できるとは驚きでした」と小野氏は語る。自治体サイトライセンスを導入したことにより、必要な時にマップやアプリを作成できるようになった。その結果、毎回業者に委託していた地図の作成やアプリの設定についても職員の手で行えるようになり、予算化を待たずに実現が可能となった。
「ArcGIS には、全職員がマップを作成し、共有できるポテンシャルがある」と小野氏は語る。今後の利用拡大によってさまざまな効果が期待できる。
ArcGIS の導入により、全職員が GIS を活用して業務改革を行える環境の整備を実現することができた。今後は自治体サイトライセンスをより有効に活用するために、各原課の担当者が ArcGIS を自由に操作し、全庁型 GIS へのデータの搭載やマップの作成を「当たり前」に行っていけるようにしていきたいと考えている。
今後は GIS 利用拡大を目的とした庁内の研修や勉強会を開催し、職員全員が気軽に利用できる DX の 1 ツールになるように普及活動および人材育成を進める。そして全庁型 GIS にさらなるコンテンツの拡充や情報のリアルタイム性を持たせて、より良い「使われる」GIS として運用していきたいと考えている。