課題
導入効果
株式会社シン技術コンサルは、1958 年(昭和 33 年)にシン航空写真株式会社として写真測量・地上測量を中心とした会社として創業した。1992 年(平成 4 年)より現社名となり、現在では地質調査業・建設コンサルタント業・補償コンサルタント業・埋蔵文化財調査等を業務範囲に加え、培った空間情報技術を最大限活用する総合建設コンサルタント企業として多種多様な業務に取り組んでいる。
同社は微細な地形を可視化する「地貌図」を開発し、地域特性の把握や、災害時における地形変化の確認等に活用している。しかし、地貌図の作成には操作が複雑なソフトウェアを使用する点や作成者の育成が進まない等の課題があり、円滑な活用が実現できていなかった。そこで ArcGIS を活用することによって地貌図作成が効率化され、容易に作成するための環境も整備することができた。
図 1 地貌図(北海道)
国土地理院の基盤地図情報
数値標高モデル(10m メッシュ)を使用して作成。
開発した「地貌図」は、地形図や等高線では把握しきれない旧河道等の詳細・微小な地形を表現することができる主題図である(図 1、2)。平時の業務においては、現地の詳細な把握が不可欠であるほか、土砂災害等の地形変化が伴う災害発生時においては、災害発生前後の地形変化を的確に把握することが重要であり、その把握に地貌図は有効である。
これまで地貌図の作成には、高度な操作技術が必要なソフトウェアが使用されていた。しかし、そのソフトウェアは Windows10 に未対応であったほか、地貌図の作成が必要となった場合には、そのソフトウェアの操作に長けたオペレーターが必要であった。そのため、オペレーターが不在、または多忙で対応が難しいといった状況下での地貌図作成は困難であり、平常時、災害時を問わず、必要な時に誰でも簡単に地貌図を作成できる環境の整備が求められていた。
図 2 地貌図(拡大図)
室蘭市のチキウ岬周辺。国土地理院の基盤地図情報
数値標高モデル(5m メッシュ)を使用して作成。
地貌図の作成に必要な機能を検討したところ、以前より活用していた ArcGIS の標準機能及びエクステンション製品である ArcGIS Spatial Analyst の機能で作成可能であることが明らかになったため、ArcGIS を採用した。また、ArcGIS の ModelBuilder によって地貌図作成を自動で行う環境を整備することで、「誰でも簡単に地貌図を作成」することができるようになることも、採用理由の 1 つであった。
従来の地貌図作成方法における課題を解決し、誰でも簡単に地貌図を作成できる環境を整備することを目的に、ModelBuilder を用いた地貌図作成のためのモデルを構築した(図 3)。
このモデルを実行すると、地貌図のベースとなる 2 種類のラスターデータが作成される。この 2 種類のラスターデータをそれぞれ指定のシンボル設定で表示することで、図 1、2 のような地貌図が作成される。必要な地形データの準備からシンボル設定を含むここまでの作業については、手順書(A4、1 ページ程度)を作成しており、その手順に沿って作業を進めることで、地貌図が完成するようになっている。
地貌図の作成に当たっては(1)作成過程が複雑、(2)高度な操作技術が必要といった課題があり、円滑な地貌図の作成と活用がなされていなかった。今回の ModelBuilder を活用した自動作成モデルの構築により(1)については、地形データを用意すれば自動で作成することができるようになり、作成過程の簡素化に成功した。(2)については、手順書に沿って作業を進めることで、誰でも容易に同一品質の地貌図作成が可能となった。
処理時間については、作成する面積や処理を実行するコンピューターの仕様によって異なるが、
図 2 の範囲程度であれば、処理の開始からシンボル設定を終えるまでに要する時間は数分程度であり、短時間かつ円滑な地貌図作成を実現することができているものと考えられる。
作成した地貌図は、先述の詳細な地形把握や、災害発生前後における地形変化の把握に活用している。平成 30 年北海道胆振東部地震発生時においては、作成した地貌図を土砂災害の解析に活用している。ほかには、作成した地形データのエラーチェック等の品質管理にも地貌図が活用されており、円滑な地貌図作成によって成果品の品質向上に貢献することができている。
ArcGIS によって円滑かつ容易に地貌図作成が可能になったが、その利用は地形把握や地形データの品質確保に留まっているのが現状である。その現状を打破するため、現在、北海道内の地貌図を無償で公開しているほか(http://www.shin-eng.info/chibouzu/)、イベントや学会で地貌図を紹介し、社内活用のみならず、外部からの知恵を巻き込むオープン・イノベーションに取り組んでいる。
その一例として、他分野における地貌図の活用について検討している。図 4 は、文化財調査で発掘された遺物を陰影起伏図と地貌図で表現したものである。写図工が長時間をかけて描く実測図の代替図面として、短時間で作成可能な陰影起伏図の作成を提案していたが、光源の位置によって影が生じる部分があり、実測図としては今一つであった。地貌図は、光源にとらわれない表現手法であり、陰影起伏図と比べてより明瞭で、実用的な実測図の作成ができている。
このように、地形表現だけではなく、他分野での応用についても検討しており、幅広い利活用が図られるよう取り組んでいく予定である。