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事例

学際系・文理融合系学部における教育・研究面での GIS 活用

福山市立大学 都市経営学部

 

授業、研究、市の政策立案支援に幅広く GIS を活用

概要

福山市立大学は 2011 年に開学し、「キャンパスは街、学ぶのは未来」をモットーに実践的な教育に取り組んでいる。都市経営学部は、「環境」という課題を共通の基礎とし、今日の都市社会を《空間としての都市》《活動としての都市》《繋がりとしての都市》の 3 つの視点から捉え、工学、経済学、社会学等の多様な学問分野を融合した持続可能な都市社会の発展を担える人材の育成を目指している。
授業カリキュラム改定に伴い、2017 年より ArcGIS サイトライセンスを導入し、2018 年より学部2年生向けに必修科目で GIS 演習Ⅰ を設置した。より深く学びたい学生は、選択科目で GIS 演習Ⅱ を受講し、卒業研究にも生かせる体制とした。学部の特長である分野を横断した学びの基盤として GIS を必修科目として取り入れ、授業・研究で活用している。

課題

カリキュラム改定に伴い、文章作成・表計算・発表資料作成などの基礎的な PC スキルだけでなく、学生の習得スキルを増やし、他大学との差別化を図る必要があった。そのため、分野を横断した学部の特長を生かし、共通の学びの基盤となるツールとして GIS が検討対象に挙げられた。ただし、GIS を必修科目として学部の授業に導入するには、PC 教室すべての端末に GIS をインストールして利用できる環境や、学生が自学習できる体制も必要であった。

ArcGIS 活用の経緯

GIS ソフトを使ったことがある教員が学部内におり、GIS には分野を横断して活用できる可能性を感じていたが、教育で使用するには、信頼性の高いソフトウェアが必要であると考えていた。ArcGIS は日本語のインターフェースであり、システムの安定性やシェア率が高く、就職先の導入組織数も多いこと、また、マニュアルや教科書が充実していることが導入の決め手となった。また、サイトライセンスという包括契約を結ぶことで学部の PC 環境にも対応することができた。

課題解決手法

■授業での活用

授業風景
授業風景

まず授業の支援体制を新しく作り、学部生の先輩が後輩に教える SA(スチューデント・アシスタント)制度を 2017 年からスタートさせた。それにより、必修科目として約 170 人に GIS の授業を行う体制が整った。授業教材は大門准教授が作成した。最初に地図の読み方、GIS の歴史や必要性等の基本の講義を全体で学び、その後、3 クラスに分かれ、情報処理演習室で基礎的な操作、人口データや経緯度データ、標高データなど使用頻度の高いデータを使った地域分析手法を学ぶ。

受講者には文系の学生も多いため、身近な題材で取り組める演習内容にしている。例えば、「今年、自宅以外で自分が行った場所について施設名・住所を挙げ地図にする」という演習を実施し、最後にクラス全体で結果を集計し一つの地図に表すというものだ。

赤い円の大きい箇所に訪問人数が多い
赤い円の大きい箇所に訪問人数が多い

GIS 演習Ⅱ では、自然環境分析、応用地域分析、フィールドワーク結果の整理と問題解決方法を学ぶ。卒業研究において、学生自身が GIS を活用して人口密度、産業分析など、地域の特性を表すことができることを目指している。
実際の演習では、福山市中心市街地の建物階数、1 階の用途、営業の有無等について履修生約 30 名が現地調査を行った。GIS で作成した地図を印刷し、エリアを分担し、中心市街地の土地や建物の現況を調査した。

福山市中心市街地の建物用途3D地図
福山市中心市街地の建物用途 3D 地図

■研究での活用

災害時の状況把握
渡邉教授は、平成 26 年 8 月豪雨による広島の災害で GIS を活用し、雨量と土砂災害発生場所の把握を行った。平成 30 年 7 月豪雨の際にも雨量把握のために GIS を活用し、7 月 5 日から 7 日までの降水量の値が、7 月の月降水量平年値を大幅に上回り、多くの地点で過去の観測記録を更新する大雨であったことを GIS で表現した。

降水量の状況把握
降水量の状況把握

また、大門准教授とともに、鉄道輸送への影響についても可視化を行った。東京~九州といった長距離の物資輸送には鉄道貨物が使われるため、鉄道不通区間や、斜面崩壊・人口集中地区についての情報を重ね合わせ、状況把握ができる地図を作成した。これらの成果については、土木学会・土木計画学/豪雨災害調査団の調査分析報告などで報告するとともに、福山市立大学都市経営学部の紀要にて発表を予定している。

降水量と鉄道被害箇所
降水量と鉄道被害箇所

斜面崩壊箇所と鉄道被害箇所と人口集中地区
斜面崩壊箇所と鉄道被害箇所と人口集中地区

政策立案
さらに、福山市の政策・計画の立案支援も行っており、街中の自転車道整備のために、国勢調査結果を活用して市内の自転車利用率を可視化した。

市内の自転車利用率
市内の自転車利用率

効果

授業を受講した学生からは、データから地図を作成できる驚きや、グラフでは分からないことが見えてくること、また、難しさはあるが自ら主題図を作成できる点が面白いという感想が多く寄せられた。また拡張子の理解など PC スキルの向上にも繋がったことで、GIS を教育で活用する手ごたえを実感した。
研究面では、今後の災害時の鉄道輸送における対策に活用できた。また福山市の自転車道整備においては、利用率の高い地域を視覚化することで、自転車道を整備する必要性を示すことができた。

今後の展望

大学では、高校への GIS 普及にも力を入れようとしている。毎年、中学・高等学校社会科系教諭の教員免許状講習会や高大連携事業において高校生への授業を行い、GIS を使った演習を行っている。渡邉教授は「2022 年の地理総合学習に向けて大学がハブとなり、高校からの GIS に関する相談や、IT 環境に乏しい高校への授業支援などを行い、高校教育においても社会貢献をしていきたい」と熱く語った。

プロフィール


福山市立大学 都市経営学部
教授  渡邉 一成 氏 (右)
准教授 大門 創 氏 (左)

福山市立大学

関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2019年1月8日