課題
導入効果
放送大学は、学びたい人がいつでも学べる「開かれた大学」を目指して設置され、これまでに 130 万人を超える方々が学び、現在 9 万人以上が在籍している通信制大学・大学院である。テレビやラジオの他、対面講義による面接授業(スクーリング)、インターネットによるオンライン授業の講座も開設されており、大学(教養学部)、大学院(修士課程、博士課程)の他、キャリアアップや生涯学習、資格取得のために、好きな 1 科目を選んで履修することができるコースも設置されている。
大学院修士課程(文化科学研究科文化科学専攻)は 7 つのプログラムを開設しており、その中の 1 つである生活健康科学プログラムでは、2018 年 4 月より ArcGIS Online による GIS 演習を含むオンライン授業「生活環境情報学基礎演習(‘18)」(以下、本講座)がスタートした。本講座は、生活環境における時系列データと地理空間情報データの扱い方、および基本的な表現と解析方法の取得を目標としている。
本大学の学生より、「GIS を使ってみたいが、学ぶ機会がない」、「GIS による解析方法を学びたい」などの声が多く寄せられていたため、GIS 演習に対するニーズが高いと感じていた。実際、地理空間情報データが関連する研究を遂行する学生は多いが、学生の多くは社会人であり、データの表現や解析に GIS を導入するための時間や機会を自ら設けるのは難しいと考えられる。面接授業による GIS 演習を検討していたが、開講場所・日時が限定されてしまい、すべての受講生に演習を提供できないため、実施に至っていなかった。
GIS に関する講座は、これまで座学のみであり、実際に地理空間情報に関するデータを扱ったり、それらを使って解析や分析を行う GIS の操作まで踏み込んだ授業はなかった。オンライン授業で GIS が使用できれば、より理解を深められるのではと考えていたところ、受講者はインターネット環境があればいつでもどこでも簡単に参加できるクラウド GIS の ArcGIS Online を活用することが総合的に良いという判断に至った。
ArcGIS Online は、シェープファイルなどの多種の GIS データを読み込むことができ、演習の他、課題作成で扱える地理空間データが多いことも授業で採用する決め手となった。
本講座開講前に、トライアルとして遠隔参加のできる大学ゼミの学生を対象に ArcGIS Online による GIS 演習を数回行った。学生からの評判はとても良く、大学院のオンライン授業としても非常に有用なツールであるとの確信を得ることができた。
2018 年 4 月よりスタートした本講座は全 15 回から構成され、第 11 回から第 15 回にわたりオンラインによる GIS 演習を行う。
本演習は、生活空間におけるさまざまな環境情報(気象、経済活動、町の施設の状態、人の行動など)をどのように扱うことがよいのか、その利用シーンに応じた加工方法について考察ができるようになることを目標としている。時系列データと地理空間情報データの扱い方、および基本的な表現と解析方法について学習することで、GIS を含む解析ツールを必要に応じて各々の研究で導入できるようになってもらうことが狙いである。
ArcGIS Online による GIS 演習例(第 14 回)
ArcGIS Online による GIS 演習例(第 15 回)
2018 年度 1 学期は、30 ~ 40 代の会社員、大学教員や行政職員を中心に約 50 名が受講した。「GIS 演習を通して、地理空間情報の解析手法を具体的に理解することができた」、「これから研究を始める学生にとって非常に適切な内容であった」などのコメントが受講者より寄せられている。
GIS 演習で解説した手法を応用し、受講者が所有するデータ、オープンデータ、ならびに第三者が提供するさまざまな生活環境情報を解析することで、企業や社会の課題解決に繋がる新たな考察を導き出せると考えており、本大学院のすべてのプログラム在籍者を含め、より多くの方に本講座を受講していただきたいと川原氏は語った。