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事例

ArcGIS Online を活用した道空間研究の調査と共有

京都先端科学大学 バイオ環境学部

 

現地調査アプリケーションを用いた街道や古道、鉄道廃線跡の調査を実施

概要

京都先端科学大学バイオ環境学部では自然のしくみを学び、豊かな環境を保全・再生するための実習や研究に取り組んでいる。同学部の原教授は、街道や古道、鉄道廃線跡といった道空間の調査で、クラウド製品である ArcGIS Online やそのアプリケーションを活用することにより、市民や観光客に調査結果を手軽に共有することができた。

課題

原教授はある日、岐阜県中津川駅に降りた際に五街道のひとつである中山道が目に入り、標識の案内に従って歩いてみた。しかし、標識の案内が町外れで終わり、その先がわからなくなった。そこで、中山道の文献を探してみたところ、地元で作成された何枚もの地図や分厚い文献などの資料を見つけたが、調査現場に持ち運んで確認するには膨大な量であった。また、資料が作成された後に発生した災害により通れなくなってしまった道や、変更された道などがあり、道は時代ごとに変遷しているのに、資料や地図ではすぐに情報更新がされない。現場の状況がリアルタイムに反映され、常に最新の道案内の情報が見られるようなシステムの必要性を痛感した。

ArcGIS 活用の経緯

ArcGIS には収集した情報をその場で入力や記録し誰でも閲覧することができるアプリケーションが付属されている。収集した情報を ArcGIS Online 上で容易に管理・公開できるので、道空間の調査や結果の公開には有効なシステムであった。
また、ArcGIS アカデミックパックには ArcGIS Desktop や ArcGIS Online などのライセンスがパッケージで提供されており、学生にもライセンスを付与して共同で調査できる利便性があった。

課題解決手法

■街道・古道・鉄道廃線跡の調査

原教授は古道や鉄道廃線跡を Collectorfor ArcGIS と Explorer for ArcGIS を使用して調査し、一般利用者への公開を行った。Collector for ArcGIS は、現地で撮影した写真や収集した情報を ArcGISOnline 上に保存できるアプリケーションである。現場で現地の情報や写真をオフライン環境上で Collector for ArcGIS へ記録し、オンライン環境に接続された際に記録した最新のデータを ArcGIS Online へアップロードを行い、クラウド上でデータの管理を行った。
無料のマップ閲覧アプリケーションである Explorer for ArcGIS は、ArcGIS Online のアカウント無しで使用できるので、Explorer for ArcGIS のインストール方法から利用方法を記載した手順書を作成し、一般の方にも利用できるような環境を整え、利用者の増加を図った。

Explorer for ArcGIS の利用手順
Explorer for ArcGIS の利用手順

また、「クラウドコモンズ」という専用サイトを開設し、街道や鉄道廃線跡に関するデータを GPX ファイル形式で公開し地図アプリケーションで閲覧できるようにしている。GPX ファイルは、ArcGIS Desktop の無料アドインツールである「FeaturesToGPX」を使用して作成し、随時データ更新をしている。

「クラウドコモンズ」の QR コード
原教授が GPX ファイルを公開している「クラウドコモンズ」の QR コード

■「仁丹住所表示」の調査

原教授は廃道や鉄道廃線跡の研究以外にも、明治以降に森下仁丹株式会社が作成した、「仁丹住所表示」と呼ばれている町名看板の現地調査を学生らと行っている。「仁丹住所表示」は当時、町名が複雑であったため、森下仁丹が町名を看板にして民家に掲示したものである。以降、京都では親しまれてきたが、年々街の変化により看板は姿を消しつつある。今では街角博物館として、その保存活動が展開されている。原教授は簡単に調査票を作成し、リアルタイムで集計・解析可能な Survey123 for ArcGIS を使用して看板が表示されている場所を学生と共同で記録している。

「仁丹住所表示」の看板
「仁丹住所表示」の看板(京都市内)

効果

紙の地図や文献では現地に持ち運ぶ手間や、閲覧・記入時に使いづらいといった課題があったが、Collector for ArcGIS や Explorer for ArcGIS をスマートフォンにインストールすることによって、現地調査を素早く行い、持ち運びの手間や見づらさの問題を解消することができた。また、Explorer for ArcGIS や GPX ファイルを読み込める地図アプリケーションを使用することで誰でも閲覧できる環境を整えることができ、多くの人に原教授の研究成果を広めることができた。
また、「仁丹住所表示」の調査は、Survey123 for ArcGIS を活用して調査票の作成から結果の入力まで手軽に実施することができた。さらに、Survey123 for ArcGIS の管理画面からリアルタイムで集計結果を確認することができた。

「仁丹住所表示」が見つかった地域
「仁丹住所表示」が見つかった地域(JR 京都駅前)

今後の展望

現在は ArcGIS 製品を使用して道空間の研究を進めているが、今後は 2 つの研究テーマを検討している。1 つは、埋もれた歴史の再認識を行い、これを継承するダークツーリズムの研究である。廃墟や戦跡などの地域の歴史において、戦争を経験した世代が高齢化しているので、GIS を使用して記録をつけていくことを目指している。
もう 1 つは個々の暮らしを豊かにすることを目的とした GIS の使用方法の検討である。
これまで GIS は解析や可視化を行って社会問題に貢献してきたが、GIS にはそれ以外にも様々な使い方があり、個人の生活を豊かにし、楽しんでもらう用途で GIS を活用してほしいと考えている。そして最後に、これからは多くの人に「Let’s Enjoy with ArcGIS」を実践してほしいと語った。

プロフィール


京都先端科学大学 バイオ環境学部
教授 原 雄一 氏(前列右中央)
都市自然化研究室(原ゼミ)の皆さん

京都先端科学大学

関連業種

関連製品

資料

掲載日

  • 2019年1月8日