課題
導入効果
太陽光発電は、地球上で最も豊富に存在する地域偏在性の少ない資源である太陽エネルギーを用いており、日射量が十分な土地であればその分の発電量が期待できる。
太陽光発電の発電量が変動する大きな要因は、天候の変動と周辺の建物や樹木による部分影が挙げられる。太陽光発電パネルの一部を覆う部分影は、パネルの接続の仕方によって、影の面積以上に発電量の低下に影響を与えることが分かっている。太陽光パネルは、電気回路の電池と同じように直列つなぎと並列つなぎを組み合わせて接続されている。極端な場合、全てが直列つなぎだと、1 枚のパネルに影がかかれば出力が 0 になってしまう。そこで、影のでき方によってはパネルの接続方法を変えることで出力低下を緩和する必要がある。
三谷研究室では GIS 上で建物、樹木を含む高さ情報を持った数値表層モデル(DSM)を用いることで太陽光発電パネルにかかる部分影を解析した。その結果、パネルにかかる部分影の解析が可能になった。今後はパネルの接続を切り替え、出力低下の緩和を目指す。
これまでの研究では、北九州市が保有する DSM(50cmメッシュ)を利用した日射量解析を行ってきた。しかし、広いエリアから日射量を得やすい土地や屋根の抽出は可能であるが、太陽光発電パネルの一部にかかる部分影の影響を抑えるには、DSM の解像度が不足していた。そこで、費用を抑えながら、部分影の影響を評価するための手法の構築が必要であった。
一方、天候の予測に関しては、衛星情報を利用した予測データ(1km メッシュ)があるが、地上までの間の大気の状況を反映することができない。そのため、地上から大気を観測したデータを利用する必要があった。
地図を利用して土地や屋根の日射量を表現することで、ユーザーは視覚的に十分な日射量を得る土地や屋根を知ることができる。また、日射量を数値として扱うことで、系統電力への影響の解析など、各種数値解析評価も行うことができる。
さらに、多種の解析処理を行うことに加え、クラウドコンピュ―ティングを利用して構築した仕組みを汎用的にサービス展開することを想定し、デスクトップ型 GIS からクラウド型 GIS までプラットフォーム化されている ArcGIS を採用した。
DSM を用いて建物、樹木の部分影を考慮した日射量解析には、ArcGIS Spatial Analyst の日射量解析を用いた。
部分影を考慮した日射量解析精度向上のため、ドローンで撮影した画像から Drone2Map for ArcGIS を利用して高解像度の DSM を作成した。この DSM 解像度は約 1.6cm メッシュである。以下に述べる部分影解析手法では超高精度 DSM を用いた。
次に、部分影を考慮した日射量解析について多くの方に知ってもらうため、「エリアの日射量解析」を行った結果のラスターデータを利用して、日射量マップを作成した。これにより、どの土地が太陽光発電システムの設置に適しているか、すでに設置されている太陽光パネルにどの時間帯にどのような形の部分影ができるかということを視覚的に確認できる。しかしながらこの手法では、精度が向上した超高精度 DSM を利用した解析処理に時間を要してしまう。そこで、「ポイントの日射量」を利用したベクトルデータによる日射量マップを作成した。まず初めに必要範囲にポイントを作成する。このポイントに対して日射量解析を行った。この解析結果は、クラウドコンピューティングを想定して高速処理可能なデータベースマネジメントシステム(DBMS)に搭載できるように CSV ファイルでデータを出力できるようにしている。
三谷研究室では上記の影情報に過去の気象情報の実績や全天日射量計の値を重ね合わせることで、そのエリアが十分な日射量を得ているかを示す手法を構築してきた。追加機能として、数分後など近い未来を予測する手法を開発した。
そのために、全方位カメラを利用した全天画像解析による雲の影響を考慮した日射量解析を構築した。GIS 日射量解析値と実測値には図 1 のように差がある。
これは、現実では雲など空の様子が常に変化するためである。そこで全天画像の RGB 値を解析し、空の状態を把握することで天候情報を加味している。
北九州市が保有している DSM(50cm メッシュ)と超高精度DSMを用いた解析結果および、実際の影の状況をそれぞれ図 2、図 3、図 4 に示す。図 3 で用いたポイントの日射量解析は、各ポイントの日射量値をテーブルで見ることができ数値の取り扱いが簡単である。
また、今回計算に使用したパソコンでは、日射量解析に約 5 日間かかるが、ポイントの日射量で建物の一部の日射量計算を行う場合は 3 分程度で解析が可能である。
全天画像解析と GIS による日射量解析を組み合わせた日射量推定結果を図 5 に示す。太陽の周りに雲が存在する際に、反射により快晴時を超える日射量を観測することがある。この手法では、図 5 のようにその状況を表現できていることが分かる。
太陽光発電パネルにかかる部分影が指定された日時において解析できるようになった。今後は、日照部分のパネルの電気回路接続を切り替え、電力を最大限取り出せる運用法を検証していく。
全方位カメラによる全天画像から得た雲の移動ベクトルを地図上に描き、現在、あるいは雲の動きの予想を鑑み数分後の日射予測量を求める。具体的には、数分後の建物や樹木の影、天候を考慮した日射量予測手法の確立を目指していく。