日本でも EBPM (Evidence Based Policy Making) という言葉が聞かれるようになりました。その意味ですが、内閣府の言葉をお借りすれば「政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること」 になります。
この合理的根拠(エビデンス)を行政が算出する際、統計データはもちろんのこと、地理情報も強力な根拠を提供できます。たとえば、活用法「高齢者の買い物難民を特定」は、対象となる高齢者にたいする支援政策の地域的な根拠算出の一例になるかと思います。
他にはどのような根拠が提供できるのか、自治体が解決を求められている待機児童問題を考えてみます。待機児童を減らすために保育施設を増やして保育児童のキャパシティを上げたい場合、いったいどの地域に新しい保育施設を誘致すれば良いのでしょうか。さまざまな条件が考えられますが、ここでは条件を以下の2つに絞って考えてみます。
以上を実現する最適な場所を GIS で候補抽出する場合(適地選定)、下記のようなフローとなります。
① は緯度経度や住所があれば簡単 です。② を行う理由ですが、候補地はまだデータが存在しない地域が多いかと思われます。その地域を特定するにあたり、分析範囲全域について、影響度を算出する必要があるためです。条件1の「既存の保育施設がない場所、少ない場所が良い」を考えたとき、既存の保育施設からの距離を、候補となる「あらゆる地点」に埋めておく必要があります。
「あらゆる地点」を、ArcGISでは画像データの画素(ピクセル)単位で表現可能で、さらに数値情報を埋め込むことが可能です。条件1の場合は施設からの距離を埋め込むことになります。
下図(左)のように ③ と ➃ では、条件による数値情報をそれぞれ画像に埋め込んでしまい、作成された各条件の結果画像を画素(ピクセル)単位で重ねあわせることで、最適な条件の地点を導くことを可能にしています。
上図(右)では保育施設選定基準の2条件を組み合わせた最高得点地点=最適位置が、結果として2地点出現したことを表しています。この2地点を新しい保育施設の誘致場所とする際の、地理的な合理的根拠(エビデンス)が得られたと言えます。
このような地理的なエビデンスを得るためには、住民やその他の自治体が持つ税や施設等の情報を、一元的に地図上に展開することが第一歩になります。地図上で可視化し分析することによって、数字や表からは見え難かった課題や解決策が見えてきます。
さらに、人口推移の予測データを重ねて解析することで、これからの少子高齢化に対応する政策も、エビデンスを持って推進することが可能になります。さらに、建物(課税家屋)の築年数分布から災害時の倒壊を予期して避難所を多めに設定する、などの活用も可能になります。
また、適地選定ほどの処理をしなくとも GIS では多彩な分析が可能です。ArcGIS にはツール1つで地理統計学にもとづいた分析を行えるような、空間統計分析ツールも多数取り揃えていますし、時系列のデータから時空間解析も可能です。
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