トレーニング・イベント
イベント
開催レポート
第9回GISコミュニティフォーラムは、5月30日(木)~31日(金)に、東京ミッドタウン(東京都港区・六本木)にて開催されました。前日の29日(水)には同会場でプレフォーラム・セミナーも開催されました。期間中は、1,900名を超える皆様にご来場いただきました。ご来場いただいた皆様、ご出展やご発表等で開催にご協力いただいた皆様に心よりお礼申し上げます。 第9回GISコミュニティフォーラムの各プログラムを、写真とともに振り返ります。
基調講演
基調講演は、5月30日及び5月31日に開催されました。 5月30日の基調講演では、冒頭で弊社社長正木及びESRIジャパンユーザ会会長の福井 弘道 教授が挨拶し、続いて、Johan Herrlin、大西 隆 氏が講演されました。5月31日の基調講演では、薬師寺 泰蔵 氏、夏野 剛 氏が講演されました。
『The Power of Maps』 (同時通訳)
米国Esri社 ビジネスGIS戦略担当
Johan Herrlin(ヨハン ハーリン)
冒頭で米国Esri社社長Jack Dangermond(ジャック・デンジャモンド)よりビデオレターによる挨拶がありました。震災からの復旧・復興、より住みやすい社会の構築、また民間分野での活用など、日本のGISユーザが様々な分野でGISを利活用していることに対し賛辞を述べた後、GISはトレンドとして、“プラットフォーム”に移行しつつあると述べました。「クラウド、Web上で利用が可能になり、組織の一部のGISプロフェッショナルが使うものであったGISが、それ以外の全ての人に使えるようになりつつあるということです。Webマッピングや、モバイルデバイスからアクセスが可能になることにより仕事のやり方が変わってきます。そして、皆様にはより多くの人が地理情報を仕事に取り込み、理解を深め、価値を高めていく手助けをしていただきたい」と述べました。
ビデオレターに続き、米国Esri社でビジネスGIS戦略を担当するJohan Herrlin(ヨハン・ハーリン)がEsri社のビジョンや製品戦略を解説しました。まず、直近の利用事例としてバイオマスなど、注目される天然資源のマッピング、大都市における電力データのリアルタイム処理、また企業経営における課題の解決などが紹介された後、デンジャモンド社長のメッセージを受けプラットフォームとしてのGISを解説しました。「このプラットフォームはGISを扱う人、ナレッジ、情報、アプリケーションなどを結び付け、整理してシステムに統合するものです。このシステムは既存のインフラを活用しながら個人、部門、組織間の壁を取り払い全ての人が使えるものです。GISを使うために特別なインフラを整える必要はなく、Microsoft Office、セールスフォース、SAP、IBM CognosなどにGISを取り込む事が出来るのです。また、クラウドでも、オンプレミスでも、ふたつを合わせたハイブリッドな環境でも利用する事が可能です」と述べました。最後に、今年の夏にリリース予定のArcGIS10.2を紹介し、様々な機能追加、改良の中でも、特にジオイベントプロセッサーエクステンションを強調し、連続的にデータを取り込みリアルタイムにデータを分析し結果を表示することができるようになると述べました。
『Future Earth プログラムと持続可能な開発』
日本学術会議 元東京大学教授
大西 隆 氏
国際科学会議や国連組織が準備するFuture Earthプログラムを解説されました。このプログラムは、人口の増加に伴う都市の活動の活発化が地球に与える変化の相互作用を統合的に考察して持続可能な地球社会へと導くために、人間活動の方向付け(軌道修正)を図ることを狙っていると述べました。そのために、地球環境の危険な変化に警鐘を鳴らしてきた大気、海洋、陸地や地殻の観測者に加えて、政治、経済・産業、生活・文化等の研究者と協働していると述べました。戦後、地球観測の取り組みが開始され様々な計画が実行され、1990年代後半までは、地球環境の物理学的、化学的、生物学的変化を観測、分析、予測が研究の中心であったが、人文社会科学者を中心としたプログラムも始まり、人間活動と環境変化の関係も本格的に研究され、これらの研究を結ぶキーワードが、Sustainable Development(持続可能な開発)であり、Future Earthへと進化していった経緯を述べました。
最後に、我が国においてFuture Earthを推進する背景として、少子高齢化の加速による人口変化、温室効果ガス削減に向けた世界的な協調行動による低炭素化の変化、官主導から参加合意形成の仕組みに移行するなどのガバナンスの変化、そして、防災の限界を認識し減災の考え方が進む災害・エネルギー分野の変化を挙げました。
『国際政治から見たリスク問題』
科学技術振興機構 慶應義塾大学 名誉教授
薬師寺 泰蔵 氏
リスク管理にGISを活用する動きはアメリカが先進的ではあるが、日本でも活用が進んでいる。ある結果に対し原因がはっきりしない非構造脅威として、例えば、感染症、金融危機、サイバー・テロなどがあるが、最近は、かつては構造的な脅威であったキューバ危機(冷戦構造)などの国際問題も、竹島の問題のように非構造化してきており、国際政治でも、動的に、複数のデータを表示するGIS的装置が必要であると述べました。
次に、テロ対策、犯罪対策、情報セキュリティ、自然災害、重大事故、新興・再興感染症、食の安全などの非構造的問題に科学技術をもって対処するべきであり、日米間においては科学技術協力のイニシアチブが持たれていると述べました。
最後に、非構造問題の一例として日本人学生による留学の減少を取り上げました。ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授を例に、本来は構造的に東京大学などが注目されるため、山中教授にチャンスはなかったかもしれなかったが、非構造的に人選することにより成功した。また同様に、エコツーリズムの中で非構造的にゴリラの生態観察する京都大学の山極壽一教授が成功しているように、世の中は非構造的な思考を求めるよう変化してきていると結びました。
『ITインパクト、クラウド・ビックデータが社会に与える影響』
慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授
株式会社ドワンゴ 取締役
夏野 剛 氏
IT革命によりビジネスのやり方が根本的に変わった。一例としては航空券の発券がWeb上で可能になった事などが挙げられるが、企業によってはまだ十分にIT技術を活用できていないと述べました。次に、個人における情報の検索効率が飛躍的に向上した事により、組織に属さなくとも大量の情報を取得できるため、教育現場においては情報を伝える事より考え方を示唆する事が重要になり、また、研究開発現場ではプロセスが変わると述べました。更に、ソーシャルメディアの発達により、取得した情報の共有化が爆発的に効率化し、人類全体の思考スピードが何万倍にもなった。この状況下でGIS、通信、社会の構成などがどうあるべきか考える時代になったと述べました。
このIT革命は、リーダーの役割をも変化させている。リーダーは利害を調整することではなく、率先垂範的に物事を決断することを求められる。最も価値を生むやり方、付加価値を最大化するためにはどんな産業があるべきか、どんな規制があるべきかを判断することが求められると述べました。最後に、日本は金、人、技術を持ちながら国際的な競争に勝てていない。語学能力の低さや議論を軽視する文化などが成長を阻害しているが、リーダーが気概と意識を持ってあたればまだまだ成長の余地はあると結びました。
各種発表
事例発表
今年も、様々な分野から、ArcGIS製品を利用した事例の発表が行われました。 環境、教育、そしてビジネスの分野まで、幅広くGISの技術が応用されており、情報量が増える状況下で、可視化する技術の必要性を感じました。また、分野をまたがり事例発表を聞くお客様も多く、GIS技術の応用性に対する、関心の高まりを感じました。
テクニカルセッション、プレフォーラム・セミナー
テクニカルセッションでは、ArcGIS for Desktop や ArcGIS for Server の次期バージョンである 10.2 の最新情報に加えて、地理情報をクラウド上で管理・利用できる ArcGIS Online や、3D でリアリティある都市景観を作成できる Esri CityEngine、ビジネスデータの可視化を支援する ロケーション アナリティクス製品に関するセッションなど、計 38 のセッションが開催されました。 特にプレフォーラム・セミナーでは昨年を大きく上回る数のお客様にご来場いただきました。よくご質問をいただく製品の活用事例だけでなく、製品自体の機能や便利な使い方にもこれまで以上に高い関心が集まっていることを感じることができました。
ArcGISの今と未来がわかるセッション
本セッションでは、ArcGISの今と未来をデモンストレーションを交えてご紹介しました。 ArcGIS の「今」として、ArcGIS が現在提供しているクラウドを中心とした GIS の新しい利用形態と各製品の位置づけを「出店候補地選定」という1つのシナリオに沿ってご紹介しました。 また、ArcGIS の「未来」として、「リアルタイム」「ポータル」「開発ツール」「ロケーション アナリティクス」「3D」といったテーマを実現するための新製品・次期バージョンの最新情報についてご紹介し、多くのお客様にご参加いただきました。
ArcGIS Developerセッション
開発者が一堂に集まるセッションを初めて開催し、約 90 名の方にご参加いただきました。ArcGIS を使って開発を始めるための具体的な方法をデモンストレーションで行ったり、実際のソリューション パッケージの開発事例として日本アイ・ビー・エム様にご講演いただくなど、いままで ArcGIS を使って開発を行ったことのない方でも参考になる幅広いトピックを紹介しました。 本セッションの同時刻に基調講演があったのにも関わらず多くの方にご参加いただき、ArcGIS の開発者コミュニティの存在を実感するとともに、来年はさらに充実したセッションにできるように決意を新たにしました。
防災ソリューションセッション(災害復興)
東日本大震災からの復興や除染の業務におけるGISの活用事例発表が福島県相馬市様、パシフィックコンサルタンツ様からありました。2つの発表では、住民とのコミュニケーションにおける地図の重要性、様々な意思決定に必要な情報提供がGISで迅速に行えた点、災害前からの蓄積(業務フロー、整備データ、GIS利用スキル)が災害後の業務で要求されたスピード、柔軟性に直結した点などが示されました。またESRIジャパンからは、業務を支援できるかどうかがGISに問われている事として、事例発表で紹介されたような成果物を実際に作り出すデモが実演されました。
防災ソリューションセッション(被災者支援)
今年の防災ソリューションセッションでは、災害被災者の生活再建支援業務にフォーカスし、新潟大学危機管理室の田村教授の司会のもと、産官学それぞれの視点からディスカッションが行われました。京都大学防災研究所の林教授は、災害対策基本法の改正について触れ、罹災証明の迅速な発行が自治体に義務化され、被災者生活再建支援業務が今後ますます重要視されてくる中で、平時の準備が重要になる事を指摘されました。新潟大学復興科学研究所の井ノ口助教は、東日本大震災後の岩手県における研究成果をまじえ、被災者台帳の重要性を解説されました。その後、システム紹介として、NTT東日本が中心に販売される被災者生活再建支援システムのデモンストレーションなどが行われ、支援業務をシステム化することのメリットなどが紹介されました。東京都総合防災部の新井係長からは、都内の区市町村がシステム化を推進する上で都道府県がいかにサポートできるか、について事例を紹介されました。宇治市の北尾主幹は、昨年の京都府南部豪雨災害において活用された被災者生活再建支援システムの運用事例を利用者の目線で紹介されました。
第10回防衛プレナリーセッション
本セッションでは、米国Esri社から防衛・インテリジェンス 部門のディレクターのJohn Day(ジョン・デイ)氏、テクニカルアドバイザーとしてCraig Pitman(クレッグ・ピットマン)氏を招き、「Defence & Intelligence Geospatial Enterprise」と題して防衛・インテリジェンス分野でのGISの有用性を活用事例や今後の展望など、デモンストレーションを交えて紹介しました。
※発表内容は、Defense Showcaseページにて公開しています(閲覧には事前にユーザ登録が必要です)。
GIS教育セッション
第2回目となるGIS教育セッションでは兵庫県立大学 浦川准教授を招き【GIS教育教材作成、共有に関する新たな取り組みの提案】と題して講演とワークショップを行いました。ワークショップでは、数人の学生に協力いただき以下2つの地図(主題図)の作成方法を学び試しました。
1. 地震などの災害に強い街、安全・安心を守るために必要な主題図
2. 省エネルギー等環境負荷の少ない街を実現するために必要な主題図
ワークショップでは、最初は躊躇しながら取り組んでいた学生も中盤から積極的に意見を交換し合い、「地震に強い街づくり」と「太陽光などの自然エネルギーを設置する街づくり」を作成しグループの代表者に発表してもらいました。
生物多様性・コンサベーションGISセッション
今年も昨年に引き続き多くのお客様にご参加いただきました。 今回は米国Esri社から コンサベーションプログラムコーディネーターのサーシャ・ユーマカエフ氏をお招きし、コンサベーションGISが行っている 世界の自然保護活動の最新情報をご紹介しました。 日本国内からは国・社団/財団法人・民間企業による生物多様性保全への提言や市民レベルで活用されるGISの事例、生物多様性関連データの活用方法などについて発表していただきました。本セッションでは議論の幅をGISだけに限ることなく、“人と自然環境が共生する為の多面的アプローチ”を追及する議論の場として非常に盛り上がりました。 またセッションが終了した後には引き続き、有志による事例勉強会が開かれました。事例勉強会では国立環境研究所様、国際航業株式会社様、NPO法人バードリサーチ様にArcGISを使った事例発表を行っていただき、自然環境保全活動における活動計画、計画実行方策、将来へのビジョンをそれぞれの立場からご発表いただきました。 来年はさらに多くの方にご参加いただけるよう願っております。
森林GISセッション
今年で3回目となる森林GISセッションでは、昨年に引き続き、森林総合研究所の鹿又様のコーディネートにより、様々な組織で森林に関する課題にGISを有効に活用しているユーザ様と情報を共有することができました。パネルディスカッションでの質疑応答では、会場よりパネラーの皆様に向けて予想以上に多くのご質問が寄せられ、この分野でのGISへの関心の高さがうかがえました。
ビッグデータ活用ソリューションセッション
ビッグデータ活用ソリューションセッションは、近年話題の「ビッグデータ」にフォーカスして、今回初めて開催しました。会場は満席で、「ビッグデータ」に対する関心の高さが伺えました。 本田技研工業様からは、ビッグデータを活用した安全で快適なモビリティー社会の実現に向けた取り組みについて発表されました。 コロプラおでかけ研究所様は、国内最大級の位置情報データベースを活用した地方自治体向け観光動態調査の事例を、日本アイ・ビー・エム様は、ビッグデータ要件に応えるITインフラを実現する手法と最新テクノロジーについてご説明されました。 最後にESRIジャパンより、Esri製品のビッグデータに対する取り組みの方向性について発表しました。参加された皆様の多くがメモを取られ、真剣な眼差しで聴講されていました。
各種展示、懇親会、体験セミナー
スポンサー展示
全29社による様々なGISソリューション、GISコンテンツ及び周辺機器の紹介が行われました。参加者はそれぞれ興味のあるブースでの情報収集を行っておられました。
ESRIジャパン 製品展示
製品展示ブースでは、デスクトップやサーバ、モバイルと幅広いラインナップを持つ ArcGIS 製品をご案内し、多くのお客様から製品に関するご相談やご質問をいただきました。 その中でも、新たな広がりを見せる Esri のクラウド サービスである ArcGIS Online や Operations Dashboard for ArcGIS をはじめとしたリアルタイム データ利用のための新製品を中心とした最新情報に関心をお持ちのお客様が目立ち、ArcGIS の進化に対する期待の高さを感じました。
ESRIジャパン ソリューション展示
農業、自治体、教育、防衛、ビジネス、データ、ロケーションアナリティクスの各分野・業種に特化したソリューションと最新テクノロジを紹介する展示が行われました。各ブースとも参加者が熱心に説明を聞いたり、活発な質疑応答が終日行われました。
学校・研究機関・NPO展示
全11団体による、ESRIジャパン製品を利用した研究成果や活動内容の紹介が行われ、各ブースで終日、参加者との活発な意見交換が行われました。
マップギャラリー
今年のマップギャラリーでは、ユーザ様作成のマップ 30 作品を展示し、コミュニティフォーラムを鮮やかに彩りました。今回は防災、環境、文化を題材としたマップの他、ソーシャルメディアの情報を活用したマップ、日本の商業活動を取り上げたマップなど、バラエティ豊かな作品が集まりました。GISの多彩な表現方法を楽しめる、見応えのある展示になりました。
懇親会
東京工業大学 齋藤 元也 先生からご挨拶と乾杯のご発声を頂き、賑やかに懇親会が始まりました。参加者は200人を超え、各展示コーナーでは人の輪ができました。和んだ雰囲気の中、GIS利活用の在り方など白熱した議論もあちらこちらで交わされ、GISコミュニティの着実な広がりを感じた瞬間でした。恒例のマップギャラリーでは上位5位までの発表と表彰式も行われ、大きな拍手とともに受賞者の喜びの声もお聞きすることができました。マップギャラリー受賞結果は、第9回GISコミュニティフォーラムトップページをご覧ください。
体験セミナー(ArcGIS Online)
今回の体験セミナーは、ArcGIS Online を利用して『外国人観光客向けの観光マップを作成しよう』というテーマで実施しました。 体験内容は、まず Excel ファイル内の観光案内所住所についてジオコーディングを実行して地図化をおこない、Web アプリケーション テンプレートを利用して写真と地図が連動した動きのある「日本の世界遺産のマップツアーの Web アプリケーション」を作成しました。 GIS 初心者の方からは“参考になりました“とのコメントがあり、セミナー後に“ArcGIS Online 組織向けプランの 30 日間トライアル版を申し込んで試してみたい“との声も複数聞かれ、参加者の皆様にとって有意義なセミナーになったと思います。 どの回も定員を超える参加者があり、参加者の約3分の1は ArcGIS ユーザでした。