ビジネスにおける地図の活用事例集
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ORIONの段階的な発展はどのように行われたのだろうか。氏によると、アルゴリズムの構築とテストにも、周辺のシステムの構築にも相当な年月がかかったが、システムの展開はシステム構築の2倍くらい大変だったという。5万人のドライバーが扱えるようにする必要があったからだ。氏は導入期を振り返り、こう語る。「我々が学んだことは、システムを導入しても、すぐに結果がついて来ると思ってはいけない、ということでした。システムを導入していくうちに、多分ドライバーたちは成長するでしょう。しかし、導入完了後にもドライバー達の朝の会話が以前と全く変わっていないとしたら問題です。彼らの意識が変わっていないということだからです」どのようにしてドライバー達の意識を変えたのだろうか。氏によると、コミュニケーション、トップダウンのサポート、さらには指標の変更を通じてそれを行ったという。ドライバーは、節約した金額で評価されるのではなく、マップを整備したか、システムをオーバーライドしているか、ソリューションをフォローしているかなど、自分たちでコントロールできるもので評価される。かつてUPS社のドライバーやマネジャーは、ルート配送の効率が1%向上すれば上等だと考えていたが、現在では時おり10%の効率向上も視野に入っているという。それにより会話が変わり始め、その変化は伝染し、他の誰もが「自分にだってできる」と言い出す。それにより各自の行動が変わり、上からのコミュニケーションとサポートも変わるというのだ。荷物の正確な配達場所の把握と効率的な移動ルート作成は、ORIONのコアスキルの一部であり、GISはそうしたスキル形成に役立つ。しかしGISはUPSのルート配送の時間配分計画にも役立ち、これも同様に重要だ。時間の影響についてリーバイス氏に尋ねた。氏によると、地図を見るときの問題の1つは、2次元で見ることができても、3つ目の次元を見るのは難しいということだという。3つめの次元というのは時間で、最適化を行うには時間を考慮する必要がある。場所だけでなく、そこへの到着時間も考慮しなければいけないのだ。ORIONは時間を考慮にいれて動くため、人間の直感とは全く相いれない判断を行うという。数か所へ配達したすぐ後、ORIONは追加で一か所配達するように指示する場合がある。ドライバーはそれを嫌うが、ORIONは一日単位で考えており、午後に渋滞などで配送の遅延が発生する可能性を考え、いま追加で配送を行う必要があると判断するのだ。このシステムは、その場では非効率的に見えても、後により良い結果をもたらすため動く。人間にはそこまで考えることができないのだ。最後に、毎年数百万ドルを節約できるシステムを欲しがる企業経営者達へのアドバイスを尋ねると、氏はこう答えた。「最も重要な意思決定に焦点を当てること。それだけです。耳あたりの良い言葉を聞くのをやめましょう。私はバズワードが嫌いです。『ビッグデータを使用して意思決定を実行したい』と人々は口にします。しかし、貴社に必要な決定事項は何でしょう?そして、ビッグデータがその決定事項の解決策だと、なぜ思われるのでしょう?もしかすると、貴社に必要なのはただのシンプルなExcelスプレッドシートかもしれません。意思決定の『何』に焦点を当てれば、『どのように』はおのずから表面化するものなのです」本記事は、米国Esriが公開した記事「Buzzwords, Hidden Dimensions, and Innovation: A UPS Story」を翻訳したものです。Digital Supply Chain Management分野■「ORION」導入期を振り返って■GISと時間の融合が課題解決のキーに活用事例

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