ビジネスにおける地図の活用事例集
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今後3年間の収益を予測したマップ。オレンジ:収益見込めず、モスグリーン:高収益が見込める。バンク・オブ・アメリカの副社長で小売流通部門の執行役員であるジョン・ボールヒーズ氏は、銀行特有のビジネス課題と日々向かい合っている。その課題とは、どこに新規支店やATMを開設するか、どの支店を移転または閉鎖するかというものだ。バンク・オブ・アメリカでは、様々なデータを収集し、支店やATMの収益と利用状況、顧客の分布やニーズなどを地図上で可視化することで、迅速かつ効果的な意思決定を実現している。支店やATMに関する物理的なネットワークを見直すことで、年間8億ドルの支出削減に成功した。バンク・オブ・アメリカはかつて経営拡大を進め、2005年からの3年間に510支店を新規開設し、2008年には6,150支店、ATM設置5,800拠点にまで増やしていた。しかし、その後の景気後退を境に歳入が200億ドルまで落ち込み、追い打ちをかけるように、投資から派生した支出は急速に膨らんでいった。同行は、迅速なコスト削減とともに経営戦略の見直しを余儀なくされた。バンク・オブ・アメリカは、顧客への貢献をより強化するために組織のスリム化と業務効率化に取り組み始めた。主な戦略として、既存顧客の重視、支店やATMの運営費削減、効果的な出店用地の選定、来店を促すための支店やATMの配置といった物理的ネットワークの見直し、専門知識を持つ行員の適正な配置などによる支店の機能強化を掲げる。既存顧客の流出を最小限に抑えコスト削減を実行するために、バンク・オブ・アメリカではITを活用した綿密なデータ収集と分析を行っている。まず、過去60ヶ月分の取引に関する情報、主に顧客、場所、時間、取引方法をデータとして保存する。これらは20テラバイト以上の容量に相当する。保存したデータはArcGISを用いて地図上に可視化し、顧客の行動や取引状況の把握に利用している。顧客の行動と取引を観察することで、各支店やATMの混雑する時間帯の把握、支店の総収益や年間の販売額、新規顧客に対する初年度の営業収益、立地コスト、ATMや支店の廃止計画に伴う顧客の動きを掴むことができる。これらの情報を分析し、その後の意思決定に反映させている。また、分析プロセスに関するいくつかの特許を取得することで、他行にはない情報収集・分析・活用戦略を実現している。収集したデータはボールヒーズ氏が率いるチームにより地図上に可視化され、様々な意思決定の場で利用されている。例えば、ある支店の空調システムに不具合が生じたとする。かつては、即新しいものに入れ替えていたが、今では支店の価値、取引状況といったデータと地図を活用して意思決定が行われる。1年以内に閉店する支店の空調を新調する必要はないからだ。また、支店やATMの出店・移転といった意思決定にも地図による分析が有効的だ。サウスパームスプリングス地域の顧客分布と支店・ATMの利用状況を分析したところ、半数もしくは全ての取■はじめに■背景■導入手法■導入効果データと地図の活用で支店・ATMの配置を最適化米国大手銀行 地図を活用した意思決定で年間8億ドルの支出を削減バンク・オブ・アメリカ

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