ArcGIS 事例集 Vol.19
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23過去2ヶ年の衛星画像を用いた排水不良地点の抽出航空レーザー測量DEM5A(国土地理院)を加工して作成表面水温(左)と表層クロロフィルa濃度(右)提供:しきさい観測画像(JAXA)丸太集積所の適地選定エゾシカ囲いわなの全景ルート解析による津波からの避難行動の推定ArcGISは、社会的意義の大きい研究で活用されている。ここではその一例を紹介する。≪農業研究本部≫中央農業試験場の巽氏は、衛星画像から、水はけが悪い水田エリアの抽出を行っている。表層土壌水分と相関が高い波長の反射率から排水不良の傾向があるエリアを抽出した。ArcGISを活用して衛星画像や標高データを加工し、可視化することで排水不良水田や水が溜まりやすい窪地を把握し、地域の排水対策のための参考情報として活用している(道庁や酪農学園大学と共同)。≪水産研究本部≫中央水産試験場の有馬氏は、漁業資源の変動や漁場形成要因の調査の一環として、動物プランクトンの動態を研究している。それに関わる水温や水深、植物プランクトン量の指標となるクロロフィルa濃度の把握は重要である。これまでは、日本海洋データセンターなどが公開している水深データをプログラム処理で画像化していた。同じ作業をArcGISで行った際はジオプロセシングツールでの変換はもちろん、他レイヤーとの重畳も手軽に行うことができ、作業が効率化された。≪森林研究本部≫林業試験場の津田氏は、持続可能な森林経営体制の構築について研究している。そのひとつに、気象や地層などの環境条件による森林成長量のモデル化がある。モデル化することで広域での成長量分布傾向の把握が可能になる。また、気候条件との関係から地球温暖化の影響の推定に繋がる。また、関係者協議の際に必要な根拠として、丸太の最適な輸送ルートや集積場所の計算もArcGISのネットワーク解析で行っている。≪産業技術環境研究本部≫エネルギー・環境・地質研究所では、多くの職員が研究データの収集、解析、そして公表する作業にArcGISを活用している。たとえばエゾシカの捕獲数や目撃数をWebマップで一般公開することで、捕獲従事者が効果的かつ効率的に捕獲適地を選定することに寄与している。また、地すべりのリスク評価でもArcGISを活用している。地すべりは道路の寸断や河川の堰き止めを引き起こす。地すべりによって孤立する恐れのあるエリアを把握するため空間解析やネットワーク解析を行い、同様に解析成果をWebマップで一般公開している。≪建築研究本部≫北方建築総合研究所の川村氏は、発生が切迫しているとされる日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定にArcGISを活用している。具体的には、津波からの避難行動の推定のために道路ネットワークデータを使用したルート解析を実施しているほか、津波時刻歴データを用いたシミュレーション動画の作成なども行っている。研究結果は自治体の防災計画や災害対策の根拠となっている。そのほかにも、同研究所の阿部氏は、地域のエネルギー需要の把握や可視化にArcGISを用いている。建物の分布をもとにエネルギー消費量を推計し、ゼロカーボン推進などの文脈で自治体におけるエネルギー政策の基礎資料としている。推計自体はExcel上で実施した推計結果をArcGISにプロットし、メッシュ化することで迅速な認識の共有を可能にしている。非営利研究機関向けArcGISサイトライセンスを活用した結果、幅広い分野でArcGISの活用が進んでいる。組織全体で地理空間情報を研究に取り入れる意識が高まり、より膨大なデータを扱う傾向が強まった。現状は、データの収集や可視化、分析、解析機能の活用がメインであるため、今後はArcGIS OnlineのWeb公開機能の仕組みを積極的に利用していきたい意向である。研究成果を適用できる地域の可視化・公開をすることで、広く一般に役立ててもらうことができると考えている。また、他組織と共同で研究する機会も多いことから、組織間のデータ共有がスムーズになることで、これまで以上の相乗効果が生まれることを期待している。> 人材育成 > 地域政策■各研究本部での活用例と効果■今後の展望活用事例多種多様な研究に地理空間情報のパワーを全職員が気兼ねなく使えることで

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