Profile矢野 桂司 (やの けいじ)1961年、兵庫県生まれ。東京都立大学大学院理学研究科博士課程中途 退学。現在、立命館大学文学部教授。博士(理学)。日本学術会議会員、人文地理学会会長、日本地理学会理事、地理情報システム学会元会長。地理情報システムを活用した人文地理学と学術的な地理情報科学を専門としている。 矢野教授が取り組んでいるGISによる平安京の大内裏の再現Analysis, LCGSA)があげられます。後者の研究所から開発されたSYMAPやODYSSEYは、後にESRIのARC/INFO [1] に大きな影響を与えることになりました。詳細は以下の文献を参照してください。矢野桂司(2017)ハーバード大学の地理学とGIS の盛衰と展開、理論地理学ノート 19 55-70。[2] 1970年代に入ると、地理学では計量地理学への批判や、行動地理学、人文主義地理学、マルクス主義地理学など、さまざまな認識論に基づく混とんとした時代を経験しました。そして1980年代後半に、GIS革命が起こりました。この背景には、地図描画に適したグラフィック機能を搭載したパーソナルコンピュータの出現などの新たな技術革新と、社会と学問の関わりが大きく変化した社会的要因があると考えられます。具体的には、アカデミックが教育・研究だけではなく、学問の域を超えて社会への貢献や、経済的な効果をもたらすイノベーションが求められるようになったことが挙げられます。GISはこのような変化の中で、アカデミックな領域だけでなく、地図作成業界や公共事業(道路、ガス、電気、水道、通信など)におけるAM/FM [3] として活用されることによって、GIS産業を創出しました。[1] 米国Esri社が1981年にリリースした世界初の商用GISソフトウェア[2] 参考文献矢野桂司(2017)ハーバード大学の地理学とGIS の盛衰と展開、理論地理学ノート 19 55-70。https://tokyo-metro-u.repo.nii.ac.jp/record/6298/files/20023-019-004.pdf[3] Automated Mapping/Facilities Management(自動マッピング/施設管理)の略語 欧米では、米国NSFによって1988年に設立されたNational Center for Geographic Information and Analysisや、英国ESRCによって1987年に設立されたRegional Research Laboratoryなどを中心に、米国 や英国の主要大学に産官学を展開するGISセンターが設置されました。こうしたGISセンターでは、1970・80年代に理論 ・計量地理学の分野で活躍したMike Goodchild(立地・配分モデル)、Mike Batty(都市モ デル)、Stan Openshaw(可変単位地区問題)、A. Stewart Fotheringham(競合着地型空間的相互作用モデル)などの計量地理学者によってGIS研究・教育が推進されました。筆者は、インターネットのない1980年代前半に都立大学の学部・大学院時代に理論・計量 地理学を学び、彼らの研究をフォローし、1980年代後半の都立大学助手時代にGIS革命を身をもって体験しま した。その後の展開については別の機会に詳しく触れることにします。 GIS革命は、1990年代前半にGISのSをSystemsからScienceに変えて、現在に至るまで進化してきました。しかし、計量革命からちょうど30年後に起きたGIS革命 から、30年を迎えた2010年代後半には、新たな革命が 起こりつつあるように感じます。Thomas Kuhn(トーマス・クーン)の科学革命の構造のように、通常科学から変則 事例が現れるプロセスであるかもしれませんが、現状とは異なる新たなビッグデータの出現や、フォトグラメトリ、 ドローン、AIなどの技術革新が、世代交代と組み合わさって確実に起こっています。これは、空間データサイエンス革命と呼ばれるかもしれません。海外では、GeoAIやMapAIといった言葉も使われ始めています。オープン サイエンス、市民サイエンス、デジタル・ヒューマニティーズから空間ヒューマニティーズの展開などとも関連しGISの重要性はますます高まっています。 時空間が個人の動きから宇宙空間まで拡大することで多種多様な地理空間情報が出現しさまざまな分野で活用されています。防災や医療、紛争、地球温暖化対策など、人間社会の幸福に向けた、あらゆる空間に関係する意思決定において、GISは不可欠なツールとなっています。 また、2022年度からスタートした高校の地理歴史科における、時空間的なものの見方・考え方を教示する歴史 総合と地理総合の必履修化は、時宜を得たものです。 ArcGISユーザー会としても、国内外の最新情報をユーザーの皆様と共有し、GIS研究・教育、GIS産業をさらに発展させていきたいと思います。
元のページ ../index.html#5