ArcConnect No.1
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 地図の歴史は文字よりも古く、現存する最古の地図は、イタリア 北部、カモニカ渓谷の岩絵群として描かれたもので、紀元前1500年頃に作成されたといわれています。岩盤・革・紙など、手で触れられるキャンバスに描かれた地図は、データそのものともいえます。人は地図上に描かれた図形を見て、直感的に、あるいは凡例を頼りに地物の情報を分類し、認識してきました。アナログ地図は、地図に描かれた情報が地理空間情報そのものといえます(図3)。 歴史の長さから考えると、地図はつい最近まで手書きのアナログ地図のみを指す用語でしたが、1950年代以降、デジタル地図の 登場によって地図の意味する範囲が広がりました。 アナログ地図からデジタル地図の時代に移り、大きく変わったのが、データと表現の分離です。GISでデータが作成されるようになると、データと表現は分離され、分けて考えられるようになります。地物が持つ固有の情報は、データの中に文字や数値として記録され、レイヤーは、固有の情報ごとにルールに基づいて表現されます(図4)。この、文字や数字で示される固有の情報は属性と呼ばれています。図3:アナログ地図 従来のデスクトップGIS製品は、ファイルやリレーショナル データベースに格納されたGISデータをマップに表示・作成する、というものでしたが、Web GISの時代では、ネットワーク上に存在しているレイヤーをWeb マップ上で重ね合わせ、マップを作るようになりました。 Web GISアプリケーションで利用するマップを、特にWebマップと呼び、Webマップに追加するレイヤーをWebレイヤーと呼びます。WebマップやWebレイヤーは、クラウドGISサービスのArcGIS Onlineや、サーバーGIS製品のArcGIS Enterpriseに代表される、GISポータル上に保存されます。もちろん、ArcGIS ProのようなデスクトップGIS製品から、直接WebマップやWebレイヤーを利用することもできます。 Web GISは共有(シェア)することが大きな特徴です。ゼロからデータを編集してマップを作成するのではなく、自身や他者に よって共有されたレイヤーを重ね合わせてマップを作成するとい うものです。 また、背景地図をゼロから作成するのは大変なので、あらかじめ用意された多彩な基本図から、目的にあったものを選択します。 これがベースマップ(レイヤー)です。Web GISのユーザーは、 ベースマップを選択し、自身や他者が共有した操作レイヤーを重ね GISは、レイヤーとデータを分けて捉えられると理解が深まります。ArcGISにおけるレイヤーとは、データの表現方法と、データ の保存場所(パス)が記されている情報にすぎず、データそのもの ではありません。 ArcGIS Proの[マップ]タブに  ボタンがあります。この ボタンを押す操作のことを、よく「レイヤーを追加する」と言われますが、レイヤーはマップに追加されてはじめて存在できるので、 正しくは「データを追加する」、あるいは「レイヤーとして追加する」といいます。そのため、  アイコンのボタンには[データの追加] という名前がつけられています。 同じ点・線・面のデータを、[データの追加]ボタンを押して繰り返しマップに追加すると、追加するたびにランダムな色が割り当て られます。このことからも、データ自体には決まった色や表現 (シンボル)が定義されていないことがわかります。 レイヤーが参照しているデータは、共通の情報を持つ地物(フィーチャ)の集合(クラス)です。これが、つまりフィーチャクラスなのです。合わせてWebマップを完成させるのです(図5)。 Webレイヤーも、システムの内部ではGISデータと分離して存在しますが、Web GISの利用者は、GISデータ(フィーチャクラス)の所在を意識する必要はなく、「データとレイヤーが分離している」ことも考える必要がなくなりました。これは、GISがより誰でも簡単 に扱えるツールに向かっている潮流に乗ったものといえるでしょう。図5:ArcGISにおけるWebマップとWebレイヤーの構成羽田 康祐(@kohsuke_hada)2005年、ESRIジャパン株式会社に入社し、現在はテクニカルサポート業務に従事。GIS上級技術者、Esri認定インストラクター。どうすれば地図やGISがわかりやすく理解してもらえるかを考えることがライフワークになっている。好きな地図投影法はパース・クインカンシャル図法とマクブライド・トーマス平極四次曲線図法。データ=表現データ図4:デジタル地図操作レイヤー操作レイヤー操作レイヤーベースマップ( レイヤー )分離ArcConnect 創刊号 2024.5Webマップ29デジタル地図は「レイヤー = データ」ではないWeb GIS時代のマップとレイヤー

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