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2 億ドルの GIS 投資に対し 7 億7,600 万ドルの投資収益額

 

GIS 導入の価値を示す根拠が経済専門家チームによる調査で明らかに

Microsoft、Amazon.com、スターバックスの本社があるアメリカ ワシントン州キング郡は、シアトル市を中心とした人口約 200 万人の都市だ。キング郡では、市民への行政サービスの提供に GIS がとても大きな役割を果たしている。 GIS データやアプリケーションを利用する42 行政機関の約 1,000 人の職員とその日常業務をサポートしている。

 

キング郡の「通勤マップ」は市民に最新の道路情報を提供している

先頃、ワシントン大学のエコノミストが、キング郡における過去 20 年間の統合型 GIS の運用に関する投資収益率の調査と評価を行った。調査の結果、 GIS への投資額が 18 年間で約 2 億ドルなのに対し、7 億 7,600 万ドルから 17 億ドルの便益を上げていることが明らかになった。

キング郡の GIS アプリケーションは、天然資源や公園管理、住民サービスの提供など、幅広い部門の職員の業務効率化に貢献している。通行止めや渋滞情報を提供する「通勤マップ」を通して市民にも GIS 利用が浸透しており、キング郡の空間情報(GIS データと画像)の閲覧が可能な iMap は、サイト訪問数15万に対し約 1,500 万ヒット/月のアクセスがあると推測されている。

従来の GIS アプリケーションの利用に加え、郡は公平な行政サービスの提供にも GIS を活用している。例えば、十分な数の公園が整備されているか、すべての住民に公平に行政サービスが提供されているか、特定のゴミ集積施設だけに負担がかかっていないかなど、 公平性の確保と保持に役立てられている。キング郡の GIS を監督している情報技術サービス マネージャのゲリー・ホッキング氏は、「ごみ集積場や災害廃棄物処理に関する計画は重要だ」と述べ、GISを日々活用している。

このようにGIS利用が進む中、郡の GIS センターのファイナンス マーケティング マネージャであるグレッグ・バブンスキー氏は、職員、郡政府、市民にとって GIS が価値あるものであると認識し、さらに、その価値を具体的な数字で知りたいと考えていた。

GIS の価値を探る

バビンスキー氏は 2008 年頃から都市地域情報システム学会の委員仲間でオレゴン地理情報役員であるサイ・スミス氏とともに、経済専門家によるキング郡の GIS プログラムが生み出した投資収益率を査定することを考え始めた。この構想をきっかけに、費用対効果の研究で有名な経済学者で、エバンズ公共政策大学院 費用対効果センター所長であるワシントン大学 リチャード・ザーブ教授と出会った。

ザーブ教授は、郡のGIS導入による投資収益率の調査実施に同意した。調査は GIS が導入された1992 年から 2010 年までの 18 年間を対象に行われ、バンスキー氏もプロジェクトマネージャとしてこの調査に参加した。調査資金は、キング郡とオレゴン州から出資を受けた。統合型 GIS 導入で生じた投資収益率を査定するこのような大規模な文献調査は、今まで実施されたことがなかった。

便益を算出した手法

調査のはじめに、ザーブ教授のチームは郡職員 30名に聞取り調査を行った。様々な部署における GIS の役割を正しく理解し、 GIS で効率化されている業務を把握することが目的であった。教授らは職員に調査票を送付し、 GIS 導入前と導入後の生産性の度合を調査した。  GIS プロフェッショナルと職員の内、175名がこの調査に応じた。

GIS の導入で生じた時間と労力の節減量は、 GIS テクノロジを使用してGIS 導入前の生産高を再現した場合と、 GIS を使用せずにGIS 導入後の生産高を再現した場合に行政が負担する費用の変化を考察し、給与額とフルタイムの職員の統計値を基準に収益化された。

例えば、 2010 年は GIS にかかった経費が 1,460 万ドルで、純利益が 1 億 8,000 万ドルであったことが明らかになった。リチャード・ザーブ教授らによる研究では、「利用した場合 VS 利用しなかった場合」の研究手法が用いられた。年度ごとの経費に関する資料が簡単に入手できる一方、 18 年間に渡る便益の算出は困難を伴った。機会費用(※)の算出には、結果として生じる投資収益率に対する実質的な効果が用いられた。加えて、便益は GIS を利用した方が量的にも質的にも優れていることが生産高から測定された。算出された生産高をドルに換算することは難しいが、1992 年から 2010 年の間の便益は3 通りの見積りで表された。まず控え目な見積もりで約 7 億 7,600 万ドルの便益、次に多少強気の見積もりだと 17 億 6,000 万ドル、もっとも大きく見積もって 50 億ドルという結果である。

GIS 利用による便益 vs 2010年の GIS 費用を示した表。2010年単年でみると、GIS の費用は 1,460 万ドルであるのに対し、便益は約1億8,000万ドルであった。キング郡では、1,000 名程の職員が GIS データとアプリケーションを日常業務で利用している。

GIS の価値を示す根拠に

「今日、行政機関が便益を立証し、費用便益の分析を示すことは重要である」とホッキング氏は述べる。「これまでもGISの価値に関する事例的証拠はあったが、今回その価値について確かな根拠を手にすることができた」

キング郡の情報責任者であるビル・キーオ氏は 郡におけるIT 基盤サービスの第一人者として GIS 導入に賛同している。「私たちが提供する GIS サービス は、投資により多くの顧客に利便性を提供し、高いパフォーマンスを誇る IT サービスの一例である。GIS における成功は、キング郡のすべての IT サービスが目指してほしいモデルケースだ」

投資収益率の調査は、キング郡の GIS への投資の正当性を立証しただけではない。どの行政機関であっても、 GIS の導入により行政業務が効率化され、多くの利益がもたらされることを示す強力な証拠となるであろう。

※機会費用とは、ある行動を選択したために、結果として諦めることになった別の行動から得られたはずの利益のうち、最大のもの。


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掲載日

  • 2012年12月19日