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樹木を育て、会社を育てる ~Esri社社長 Jack Dangermondインタビュー~

 

樹木を育て、会社を育てる

Esri社社長 Jack Dangermond インタビュー

Jack Dangermond氏は、カリフォルニア州レッドランズ市にあるGISの会社、Esri社の創設者であり社長である。彼が言うには、庭であろうが会社であろうが、「人は生まれながらに何かの世話をする責任があるんですよ」との事だ。 Angel Franco/The New York Times

Q. 初めて誰かに指示する立場に立ったのはいつか覚えていらっしゃいますか?

A. 私が10代の頃です。両親が種苗園芸店を経営していたのです。私たち兄弟は植物を植えて、育てて、販売して成長したんですよ。私は造園技師の管理も任されていました。

Q. 管理を任された時は何歳でしたか?

A. 16歳でした。

Q. 大変ではありませんでしたか?

A. いいえ。あのような家族経営の中で成長できて、とても幸せでした。種苗園芸店を始めた時、両親は学歴の無いオランダからの移民だったので、家族全員でチームになって働きましたよ。そこで成長しながら、ビジネススクールで教えるすべてのことを学んだと私は思っています。キャッシュフローや顧客サービス、経営拡大の方法などね。

両親は裕福ではありませんでしたが強い信念を持っており、私もそれを受けついでいます。絶対に負債を抱えるな、お金を人に借りるな、借入金で投機などもってのほか、支払いは期日通りにすること、契約事項は守ること、良品を適正な価格で売る事、従業員を公正に扱い商品を育てること。

Q. 16歳にして従業員の管理を任されていたというと、皆さん年上だったのではないかと思いますが。

A. そうです。我々は一つのチームとして働いていました。今日の私の経営スタイルの一部は、エリート主義者にならず、実際に働いている人々に関わるという事です。造園チームでは私は他の人から沢山の事を学びました。お互いを対等に扱い、一緒に熱心に働きました。ある時、父と園芸場を歩いていた所、植物の中の1本が萎れていました。父は言いました。「何か気づかなかったか?」

私は目線を下にやり、萎れた植物に気づきました。父は言いました。「植物が萎れているのを放っておくな。今すぐ水遣りをしなさい」と。この出来事が私にはしみついているんですよ。人には生まれながらに何かの世話をする責任があるんです。園芸店で植物の世話をしないと、利益があっというまに減少します。雑草を抜かなくてはいけない。水遣りをしなくてはいけない。肥料を遣らなくてはいけない。それだけではなく、従業員も同じように気遣わなければいけない。

Q. 種苗園芸店では他になにを学びましたか?

A. 基本方針の一つとして、顧客を大切にするという事です。お客様が必要としないものは売ってはいけない。だからただ単純に顧客の声を聞き、一緒に考え、代替案を示し、イメージ図を描いて、個々の庭に最適なデザインを施したのです。このような見せかけではない信頼関係を築いた結果、沢山の方に贔屓にしていただきました。お客様は店に来て、ただ品物を目の前に突き出すのではない、一人ひとりを大事にした対応を喜んでくれました。

Q. これらの教訓をEsri社ではどのように生かされていますか?

A. 私には4つの優先事項があります。1つは顧客に何が必要で何を欲しているかに注目すること。2つめには、我が社の労働環境を高めること。そして人材を採用する際には、ここで働くのがライフワークだと思ってもらえるくらい社の風土に合う人を探したいと思っています。

3つめは、最初の2つを支える強力な経営力を維持することです。株式公開企業だと、まず何よりも重要なのは株主を大事にすることで、その次が従業員、それから、まあほどほどに、お客様、という感じになってしまいます。私は個人会社としてこの会社を起業し、維持することが出来ていてとても幸運だと思っています。それから4つめの重要事項は、20年来進めてきたビジネスパートナー企業との連携です。我々は、現在全世界で約2,000にもなるパートナー企業との関係をとても重要視しています。

Q. 雇用について何かお話いただけますか?

A. 我が社の人事部は、まず応募者がその職種にふさわしい人かどうかを選別します。その後に行う面接では、その人が採用されれば関わることになる10人の社員と話すことになります。募集した業務内容に対する熱意を判断するには、同僚となる人からの評価が必要だと思っています。我々は情熱を持って仕事に取り組んでいます。十分なスキルがあり、応募動機が納得できるものであり、チームで働くことができ、人柄が良い人かどうか確認したいのです。

Q. 面接中の会話の内容をもう少し教えていただけますか?ご自身は何を質問なさるのでしょうか?

A. その人の人となりを短時間で把握するため、挑発的な質問をいくつかします。たとえば「今までに起こった最悪の出来事は何でしたか?」などと聞きます。職業人としての話では、解雇宣告をしなければならなかった、などという話が頻繁に上がります。そこで私は株式公開企業での浮き沈みについて、そこで他人を傷つける仕事をせざるをえなかった状況について逐一聞きます。彼らの価値観について、そのような状況でどのように判断したか、たくさん学んでいます。私は彼らがどんな人物か理解しようと努めているのです。

Q. 他にはどのような質問をなさるんですか?

A. 「何をするのが好きですか?」ですね。制約のない、自由に答えられる質問です。多くの人は「スキーに行くのが好きです」「旅行に行くのが好きです」と始めます。それもまあいいんですが、私が興味があるのは、これから就くかもしれない仕事に対して熱意を持っているかどうかなんですよ。

私は大学に入って、一生涯の仕事となるものを見つけました。その晩は、興奮してなかなか眠れなかった事を覚えています。だから私は、仕事に対して同じ価値観を持つ人たちに惹かれます。仕事をすることを楽しみたいという人たちです。私はそのポジションで求められる仕事を本当にしたい人、何をすべきか私が指示する必要がない人を探しています。そうすればとてもいい仲間を得ることができるのです。

私の為に働く人ではなく、いい同僚、チームメイトとなる人材を探しています。率直に言うと、私はトップダウンの意思決定ができるほどの技術力は持ち合わせていません。共に働いてくれる「職人」を探し、その人にその分野の責任者となって運営してもらう方を好みます。

何やら私の経営哲学の話になってしまいましたね。私は顧客と会話をし、彼らが必要とするソリューションを探し出すのが好きです。また従業員については、その人が一生の仕事として目指すものと我々のビジネスの目標が一致した、責任感のある人を雇用したいと思っています。

Q. 他には何を求めますか?

A. 文章力は重要です。これについても常に質問します。「1から10で言うと、あなたの文章力はどれくらいですか?」と。 他にもスキルに関する質問はたくさんします。例えば「ご自分ではソフトウェアの開発能力がどれくらいあると思いますか?」とか「プレゼンテーションスキルはどれくらいありますか?」などですね。

これらの自己評価はとても興味深いものです。時々「10です」と言いきる人がいるでしょう。そこでこちらは判断する必要があります。この人はうぬぼれているのか、仕事が欲しくて必死なのか?あるいは本当に自分の仕事に自信があってそう言っているのか?と。私は文章力と技術力には特に興味を持っています。

Q. 先ほどの、お父様と萎れた植物の話ですが…。今の従業員の中で「萎れた植物」のようになってしまった人がいた場合、どのようにケアされますか?

A. 「萎れた植物」を見つけた時は、私の価値観を示します。解決しない問題があれば飛びこみます。敷地内を歩いている時にゴミがあれば拾います。そこにエリート主義は存在しません。どんな問題も些細なことではないのです。かつての造園技師のチームを、私は先頭に立って働く事によって管理していました。決して、「よし、君たちはあれをやっておけ、私はここで座って見ているよ」といった様な管理方法ではありませんでした。そんな方法は性に合わないんです。私が若いころに種苗園芸店で一緒に仕事をした職人たちには、現在でも働いてもらっています。彼らには我々の会社の敷地の景観管理をまかせています。私は今でも、土曜日には新しい植栽プロジェクトに参加することがあるんですよ。

Q. そうなんですか?

A. 彼らと一緒に働くのが好きなんです。木を植えたり、岩を動かしたり、色々とします。好きなんですよ、誰も監督していないような感じが。一人ひとりがスキルをもっていて手を出す。音楽の一部のような、ジャズのような感じです。互いに競い合う。この種類の管理方法を例えるのにジャズはぴったりです。お互いを信頼することが重要ということです。当然摩擦が起こることもありますが、しかしグループやチームで解決することが大事なのです。

Q. 何かで読んだのですが、御社では営業マンに成功報酬制を採用していないとか?

A. そのとおり。ボーナス制度や歩合制は人間の尊厳を奪うと思います。それが私の考えです。

Q. なぜでしょうか?

A. お金の為だけに動いて、それがお客様のためにならない事だったとしたら、その人は顧客から全幅の信頼を得ることはできません。それは居心地が良くないものですよ。私は、従業員がお客様に商品を売りつけるのではなく、それぞれの状況下で必要なもの、欲しいものを見つけ出すお手伝いをするのを嬉しく思います。もちろん、営業は営業です。彼らの仕事は物を売ることですし、米国内だけでも約500人の営業マンがいます。しかし、成功報酬のために物を売ろうとする、という考えは好きになれません。彼らにはそれよりも、本当に必要とされているものを見つけ出し、必要でないものは売らないで欲しいのです。そうすればすべてがもっと楽しくなります。今ではこのやり方に名前がついていて、「コンサルティング販売」というんですよ。

我々は種苗園芸店の時代からコンサルティング販売を行ってきました。今とまったく違いはありません。近ごろ思い返すにつれ、種苗園芸店での経験はとても貴重なものだったと思うのです。すべてが良い結果につながったのですから。品質本位の家族経営店で、人々からの評判は上々でした。そこでのビジネスのやり方や価値観は、そのまま年商数十億ドルの企業にも利用できたのです。

Q. 今や大企業に成長した会社の中で、あなたの役割はどのように変わりましたか?

A. CEOとして基本的にすべきことは3つあります。まず、仕事を取るためのサポートをするべきです。これはつまりセールスであり、マーケティングです。次に、仕事の遂行をサポートするべきです。仕事の品質、意義の問題です。そして3つめには、社の財政が健全かどうか、あるいは「給料がちゃんと払えるか」を確認することです。つまり、受注、社内環境の整備、財政管理、の3点。会社が10人規模か1万人規模か、などというのは関係ありません。できるCEOはこの3つのポイントをしっかり見ていますよ。

初期の頃、私はこの3点を常にしっかりと見ていました。今でも同じくしっかりとやっています。だから根本的には何も変わっていないんですよ、もっとも現在はこの3つの仕事を一緒にしてくれる人が大勢いますが。私は彼らに気を配り、問題なくやっているかどうかを見ているのです。


※本記事は、The New York Timesのインタビューコーナー「Corner Office」*掲載記事を、ニューヨーク・タイムズ社の許諾を得て翻訳したものです。
Adam Bryant. 2011. “Cultivating His Plants, and His Company.” The New York Times. (2011年7月15日)

*Corner Office: 毎週日曜日にNew York Timesの編集者Adam Bryant氏が経営トップと話をするコーナー。

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掲載種別

掲載日

  • 2011年7月27日