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事例

大規模災害に備える為のオンラインマップシステムをArcGISで実現

鹿島建設株式会社

 

ArcGIS Explorer DesktopとArcGIS Onlineのコンテンツを活用し、コストを抑えて全社員で共有できる「オンラインハザードマップ」システムを実現

概要

鹿島建設株式会社は、大規模災害時に国や顧客の要請等に迅速に応じることが出来るよう、事前に災害による被害の予測や対策を練る事が重要と考えている。 このことから、毎年、全国の支店、事業所、現場で震災訓練を行っているが、避難計画等にハザードマップを使う場合にはArcGIS for Desktopで作成したものを印刷し、それを配布していた。 その後、作成したハザードマップをデジタルのままArcGIS Explorer Desktopに読み込ませるシステムを検討したが、マップ表示時のハンドリングの悪さなどの理由で実現しなかった。 東日本大震災以降、ArcGIS Online上には今まで以上に災害情報が共有されるようになった。今回はこれらの情報をArcGIS Explorer Desktopに読み込み、社内データと重ね合わせて使用することにより、「オンラインハザードマップ」の実現が可能となった。これにより、社員は日頃から大規模災害に備えることができるようになった。そして、2015年の震災訓練で初めてこの「オンラインハザードマップ」が使用された。

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南海トラフ巨大地震の震度分布と拠点情報の重ね合わせ表示例

背景

大規模災害が起こると、国の要請に応じて道路、トンネルや橋などを緊急点検するとともに、顧客の事業復旧・継続のために多数の施工物件について安全確認等を迅速に済ませる必要がある。この際に使用する重機・機材やオペレーターを確保するためには、あらかじめ事業所や現場の被害可能性を把握し、対策を講じておくことが重要になる。また、被災地に支援物資を運ぶルートの検討などについても事前に計画しておくのが望ましい。 内閣府中央防災会議による災害情報がデータとして公開されているが、当初、これを震災訓練の避難計画等に活用できないかという動きから、災害情報データをArcGIS for Desktopに読み込んでハザードマップを作成し、それを紙ベースで配布して、支店、事業所、現場で使用するという試みが行われた。 その後、ArcGIS Explorer Desktopを用いて各社員がハザードマップを閲覧すれば、より効率的に情報共有が可能になるのではないかと考え、中央防災会議のデータでハザードマップを作成し、社内で試行した。しかし結果として、データがタイル形式ではなかったため、必要な精度でマップを作成すると高性能マシンでは問題ないが、全国の社員が使用する標準的な性能のマシンでは表示に時間がかかり効率的ではなく、関係者内のみの試行に留まった。

ArcGIS採用の理由

全国の支店、事業所、現場へ新たにシステムを導入するには、莫大な費用がかかる。ArcGISを採用した一番の理由は、やはりArcGIS Explorer Desktopが無償であることだ。 東日本大震災以降、ArcGIS Online上にはArcGIS Explorer Desktopで使用可能な災害情報のコンテンツが豊富に公開されている。ハイスペックではないPCでも特に大きなストレスなく閲覧可能で、データ加工等が必要な場合は既に導入しているArcGIS for Desktopで対応可能であったため、新たな投資が一切かからなかった点が理由として挙げられる。

導入手法

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南海トラフ巨大地震の震度分布と拠点情報の重ね合わせ表示例

社内では主に、中央防災会議が評価した首都直下地震および南海トラフ巨大地震の震度・液状化・津波浸水深のマップを各地の震災訓練用に使用した。ただし、ArcGIS Online上に公開されている南海トラフ巨大地震の津波浸水深のマップはそのまま使用すると表示に時間がかかるため、支店ごとにファイルを分け、その地域で浸水深が最大となるものを表示するようにした。その他に土砂災害等のマップもArcGIS Online上で公開されているものを活用した。なお、首都直下地震や南海トラフ巨大地震による影響が小さい支店については、防災科学技術研究所によるJ-SHIS(地震ハザードステーション)から対象エリアで影響の大きい地震を選択し、その震度分布をArcGIS for Desktopでマップ化した。その後、ArcGIS Online上にアップロードして使用した。 これらの災害ハザード情報と、社内拠点情報をArcGIS Explorer Desktop上で重ね合わせることで、「オンラインハザードマップ」となった。

導入効果

今までは支店や事業所ごとに自治体の地域防災計画やハザードマップを個別に確認して避難計画等を立てていたが、今回のシステムを導入することによって、社員が自席で災害情報を確認できるようになり、それを全国で共有できるようになった。また、1つのシステムで、地震、津波、液状化、土砂災害といった複数の災害マップを重ね合わせることもでき、汎用性が高まった。 現場で働く社員は、担当現場が竣工すると次の現場へ異動するため、避難計画等の策定をする際は、その都度その地域の災害ハザード情報を調べなければならなかった。しかし、今回のシステムでは全国を網羅しているため、社員が災害ハザード情報を把握して備えることが容易に出来るようになった。また、土地勘がない場所でも、災害ハザード情報を地図上に可視化することで分かりやすくなり、地図の重要性を改めて実感できた。 今回の震災訓練を機に、全国の社員がこのシステムを使用して、地震等の自然災害時に管下の拠点・現場など各所でどのような被害が想定されるかを認識するとともに、避難計画等の見直しの一助に出来たのは心強い。

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津波浸水深分布と拠点情報の重ね合わせ表示例

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液状化分布と拠点情報の重ね合わせ表示例

今後の展望

今後、「オンラインハザードマップ」をより高度に活用できるように整備していきたいと考えている。具体的には、ブラウザーベースのArcGIS Onlineを用いることで実現できると考えている。今回のシステムでは社員がそれぞれArcGIS Explorer Desktopをインストールしなければならず、対応にかなり時間がかかったが、ArcGIS Onlineであればその手間はかからない。特に現場ではタブレットの普及が進んでいるので、スマートフォンやタブレット端末で使用できるArcGIS Onlineの方が役に立つはずだ。また、閲覧のみのArcGIS Explorer Desktopに比べて、ArcGIS Onlineでは目的地までの最短経路案内などの解析もブラウザーベースで可能となる。さらに、ArcGIS for ServerとArcGIS Onlineを組み合わせることで、過去に施工した建物情報等、外部には出せない内部データも取り扱うことができる。また、災害ハザード情報の公開は今後一層進むと思われるため、地震や土砂災害以外に台風などのデータも使用する予定である。

プロフィール

総務・人事本部 杉山 哲朗 氏( 左)、

総務・人事本部 杉山 哲朗 氏( 左)、 技術研究所 鳥澤 一晃 氏( 右)



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資料

掲載日

  • 2016年7月15日