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事例

GISを使って作成した立体都市模型と津波浸水想定深度の体験型展示の開発

徳島大学 総合科学部

 

作成した地図データをパソコンで閲覧、印刷するといった伝達手段を超え、3Dプリンターやプロジェクターなどを使った新しい体験型展示を開発

概要

徳島大学総合科学部は、文系・理系の枠を越えた学際的な教員組織による地域の実践的な課題をテーマに据えた教育・研究を行っている。GIS技術を習得するためのカリキュラムが用意され、ArcGIS for DesktopがインストールされたGIS共同利用室がある。
こうした教育・研究環境を背景に、ここでは、徳島の喫緊の課題である津波防災の活動に貢献すべく、GISとメディアアートとの連携によって開発された、災害情報を仮想的に体験することができる展示装置を紹介する。
体験展示装置の中心には、徳島市街域のGISデータを3Dプリンターから出力した立体都市模型があり、そこには津波浸水想定深度がプロジェクションマッピングされている。さらに、USBマイクロスコープを通して浸水想定深度が反映された都市模型の任意の地点をみると、スクリーンに浸水深度と自身の影が投影されるといった、想定される浸水の深度を仮想的に体験することができるようにしている。

背景

この取組みは、2013年度に塚本氏が徳島大学に赴任したことから始まる。徳島県は、津波の浸水深度が20m近くに及ぶ地域を持つ。塚本准教授は以前より、津波浸水想定ハザードマップ上で、2mや3mの値が優しい色で表現されることが多く、直感的に危機感を伝えることが難しいと感じていた。実際にその高さの浸水が起きた場合、確実に避難しなければならないのにもどかしかった。このような数値データをどのように表現したらよいのか、マップだけでは伝えられない情報を何か別の手段でより実感できないかを考えていた。
そうしたなか、当時、ビルや駅など様々なものに映像を投影するプロジェクションマッピングという表現方法が注目を集めていた。また、メディアアートが専門で、3D表現に関心を持つ同学部の河原崎准教授と共通の興味・関心から意気投合した。その年、総合科学部の新任教員のために設けられた学内の研究助成である創生研究プロジェクト「GISと3次元都市モデルデータを援用した津波被災想定地域のシミュレーション」が採択され、塚本准教授と河原崎准教授との共同研究が始まった。まさに学部の特性を生かした分野を横断した共同研究がスタートしたのである。

導入手法

まず、基盤地図情報の建物形状データ(ポリゴンデータ)に、航空レーザー測量(国土地理院所有)による建物高の情報を加え、ArcGIS for DesktopとArcGIS 3D Analystを使って3次元都市モデルを作成する。

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3次元データの作成
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3次元データと津波浸水想定ハザードマップとの重ね合わせ

次に、作成したGISデータを3Dプリンターに対応したデータ形式に変換・調整し、3DプリンターでA3サイズの大きさの立体都市模型として粉末積層方式で出力する。そして、出力された立体都市模型に色面化した津波浸水想定のハザードマップ(徳島県所有)をプロジェクションマッピングすることで、津波浸水深度を直感的に認識することができるようになる。

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3Dプリンターで作成した立体都市模型

このままでは、津波浸水深度が投影された単純な立体都市模型であるが、ここからさらに、この立体都市模型を中心とした津波浸水想定深度を体験できる展示装置へと発展させる。高い天井の展示スペースと、2つの巨大なスクリーン(あるいは白い壁面)を設置する。一方のスクリーン(1とする)にはUSBマイクロスコープを使用して模型の任意の場所を映し出し、もう一方のスクリーン(2とする)には、津波浸水想定ハザードマップの色域がマッピングされた模型の映像を解析して捉えた任意の場所の津波浸水想定深度の映像を実際の水面の高さで投影する。
スクリーン1で映し出された場所の津波の浸水深度の映像が投影されるスクリーン2には、USBマイクロスコープの操作者の影が同時に映し出されるため、自身の影と浸水深度を動的に比較しながら、仮想的に深度を体験できるようになっている。

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立体都市模型に津波浸水想定ハザードマップを投影


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立体都市模型をUSBマイクロスコープで捉えた映像が前方のスクリーンに映し出される(スクリーン1)

こうした立体模型を媒介として、鑑賞者の操作によってスクリーンが変化するといった、展示空間の壁と有機的な関係を持つような立体作品を設置する展示方法を「インスタレーション」と言い、アートの表現手法の一つである。インスタレーションは、空間に考えをインストールし、その時その場でないと表現できない唯一無二のもので、鑑賞者が作品に対して、何かアクションを起こした時にしか経験できない状況までを含めて、展示作品として表現するものである。

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浸水深度が自身の影を超えている(スクリーン2)


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浸水深度より自身の影が少し高い(スクリーン2)

導入効果

津波浸水想定深度の体験型展示は、防災教育のツールとして大学内の授業や関連するイベントなどで随時利用されている。この表現方法は、PCや紙地図のような2次元の地図のみならず、そこに描かれている情報を自身で体験することができるという点が非常に新しい。
これまで本展示装置を体験してもらった参加者からのアンケートでは、体験展示の方が紙地図に比べ「地域の危険個所や安全面についての認識が深まると思う」「わかりやすく提示していると思う」といった項目で大きな効果の違いを見せる結果になった。また、四国GISシンポジウムや日本映像学会、行政主催の協議会などで発表するだけでなく、NHKや徳島新聞などのメディアから取材を受け、専門分野以外からもその反響が出てきている。

今後の展望

アンケート結果からもわかるように、一般の人に防災情報を伝達する手段の一つとして分かりやすく津波浸水想定深度を体験することができるといった点では完成形に近い。今後の展開について、河原崎准教授は「何か表現を伝えようとしたときに、時間軸をどのように表現するか、その表現方法を模索していきたい」と述べ、インタラクティブなAR避難誘導シミュレーションへの可能性に関心を向けている。今後も、アートの表現力とGISの空間情報を編集・分析する能力とを連携させた取組みを進めていく予定である。

プロフィール


塚本章宏 准教授(左から3番目)
河原崎貴光准教授(左から2番目)
と研究室 の皆さん



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資料

掲載日

  • 2016年3月18日