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事例

市民協働による松枯れ被害対策としてスマートフォンを利用した仕組みを構築

糸島市 農林土木課

 

ArcGIS Onlineとスマートフォンを利用した枯れ松通報システム

課題

導入効果

 

枯れて赤く染まった防風林(松)

イントロダクション

糸島市は、九州大学と連携し、GISの導入及び運用を行っている。 その一環として、GISの高度利用を図ることを目的とし、スマートフォンを利用して住民から枯れ松の位置情報と写真の提供を受け付ける『枯れ松通報システム』を構築し、スマートフォンを利用した住民からの情報の受付に係る実証実験を行った。

背景

(社)日本の松の緑を守る会が選定している白砂青松100選に選ばれている福岡県糸島市志摩芥屋から志摩野北の海岸線にある『幣の松原』。平成24年11月、この幣の松原の松の葉が真っ赤に染まった。ここにある松は黒松と言われる松で常緑針葉樹のため、紅葉しているのではなく、マツ材線虫病(マツノザイセンチュウとマツノマダラカミキリの共生関係によって引き起こされるマツ枯病)によって引き起こされており、この病気に対する絶対的な防除法は確立されていない。このため、薬剤の散布等によるマツノマダラカミキリの成虫や新入してきたマツノザイセンチュウを殺して感染を防ぐ予防と被害木の伐倒駆除による被害木の中にいるマツノマダラカミキリの幼虫や蛹を殺して、翌年の被害を防ぐ駆除による『防除』を半永久的に継続していかなければならない。

松枯れが進行する仕組み
松枯れが進行する仕組み

このため、糸島市では森林病害虫等防除法等に基づき松林として保全する区域として高度公益機能森林及び地区保全森林として位置づけている松林において、地上散布と伐倒駆除の防除を実施している。 しかしながら、平成22年度より松枯れ被害が拡大し、平成24年度は被害が爆発的に拡大し、この3年間で国が管理する松林と糸島市が防除を実施する松林の松のうち約45,000本(全体の約23%)が枯死してしまい幣の松原は大変な危機に瀕しており、松枯れ被害対策が急務となった。

松枯れ通報システム誕生

直径2センチメートル以上あればマツノマダラカミキリは羽化できるため、松の枝拾いといった林内清掃も重要であると言われている。幣の松原が大変な危機に瀕したことを受け、幣の松原がある糸島市志摩芥屋の住民たちが、枝拾いなどの林内清掃をボランティアで実施する市民団体『里浜 つなぎ隊』を発足させた。マツノマダラカミキリの一回の飛行距離 は、普通数百メートル、最大2キロメートル程度と言われており、国が管理する松林と糸島市が防除を実施する松林以外の松もマツ材線虫病に罹患すると松枯れの感染源となるため、松枯れ被害を抑制させるためには、これらの松がマツ材線虫病に罹患した場合は伐倒駆除を行わなければならい。しかし、これらの松を糸島市だけで把握することは困難を極めるため、住民から情報の提供を受ける試みとして、スマートフォンを利用した『枯れ松通報システム』を構築し、里浜つなぎ隊のメンバーの協力を得て、実証実験を行った。

システム構成

枯れ松通報システムの仕組み
枯れ松通報システムの仕組み

枯れ松通報システムは、情報提供者各自が所有するスマートフォンにESRI社が無償で提供しているスマートフォン用アプリケーション『ArcGIS』をインストー ルし、そのアプリケーションを利用して情報を送信してもらい、提供を受ける情報は後にArcGIS for Desktopで利用するため、九州大学のサーバーに送信されるようにし、糸島市はArcGIS Onlineで提供を受けた情報を閲覧、提供を受けて作成されたデータをArcGIS for Desktopで字図と重ね合わせて松の所有者を把握し、松の所有者に伐倒を依頼するといった仕組みである。送信してもらう情報は、情報提供者の煩わしさを軽減するためにスマートフォンのGPS機能を利用した位置情報と枯れた松を撮影した写真のみとした。

導入結果

平成25年3月23日(土)から平成25年4月30日(火)までを運用期間として運用を行った。 通報者は、里浜つなぎ隊メンバーが3名、里浜つなぎ隊が実施する枝拾い活動に参加された市民ボランティア2名、糸島市農林土木課職員4名の合計9名。余談ではあるが最高齢者は里浜つなぎ隊メン バーの72歳の方であった。 通報件数は、17件(国有林6件、民有林11件)あり、里浜つなぎ隊メンバー10件、市民ボランティア2件、糸島市農林土木課職員5件であった。通報本数は、50本(国有林10本、民有林40本)であり、実際に伐倒された本数は37本(国有林10本、民有林27本)であった。

検証

実際に通報してもらった方からは、口頭では伝えにくい場所の枯れ松の位置情報を容易に伝えることができたとの声があり、糸島市が防除を実施する松林以外の松を把握することができた。通報を受けた枯れ松の一部ではあるが、通報がなければ放置され続けていたと思われる松が伐倒されたことによって、感染源を除去することができ、松枯れ被害の抜本的な抑制には至っていないが、抑制の一役を担い、非常に有効な方法であったと考えている。しかし、本格的に実施するためには、アプ リケーションを起動してから情報を送信するまでの操作が複雑であったため、操作がわからず送信を断念しというケースがあったことから、アプリケーションの操作性が課題であると考えている。

応用

糸島市では、この枯れ松通報システムの仕組みを応用して、糸島市が防除を実施する松林の枯れた松の数量と位置を調査する際にスマートフォンを利用し始めた。これまでの調査は、集計表と地図を所持して現地に入り、枯れた松の胸高直径と高さを集計表に記入し、枯れた松の位置を地図に記入し、現地調査後に枯れた松の材積を算出するシステムに胸高直径と高さを入力していた。スマートフォンを利用し、現地で胸高直径と高さを入力することによって、現地調査後の入力が不要となった。また、松林内は目標物がないため、枯れた松の正確な位置を特定することが難しかったが、スマートフォンのGPS機能を利用することによって、ほぼ正確な位置を特定することができるようになった。

まとめ

実証実験の結果、位置情報を有する情報の提供を受け付ける場合にスマートフォンを利用することは非常に有効な方法であり、多くの業務に利用できると考えている。しかし、アプリケーションの操作がわからなければ、非常に有効な方法であっても利用されないと考えるため、『起動 → 情報の入力 → 送信』といったアプリケーションの操作の簡略化が必要不可欠であると考えている。

プロフィール

福岡県糸島市

芥屋の大門(けやのおおと)



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資料

掲載日

  • 2014年6月24日