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事例

都市部で将来発生する廃棄物を推定

名古屋大学 環境社会システム工学研究室(谷川 寛樹 研究室)

 

都市において、「いつ」、「どこで」、「どのくらい」の廃棄物が発生するかを把握するために構築した“4d-GIS”により、将来の潜在的な廃棄物の推計が可能に

課題

導入効果

イントロダクション

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名古屋市中区錦二丁目を対象とした建築物4d-GISの構築例

名古屋大学 環境社会システム工学研究室(谷川 寛樹 研究室)では、都市の建築物やインフラといった社会基盤となる構造物を対象とし、都市の重量(ストック量)や都市における物質やエネルギーの流れの量(マテリアルフロー量)を計測することをテーマとしている。この計測手法として“4d-GIS” が構築された。“4d“ とは高さ情報を含む空間データに時系列データを加えたGIS という意味である。建築物は構造種別や延べ床面積から重量を計算し、道路も種別や総延長から重量を推定する。これらを異なる年代ごとに計算することでマテリアルフロー量の推計が可能となり、過去からの傾向を把握し、将来の潜在的な廃棄物の推計が可能となった。さらにこの手法を応用することで東日本大震災による失った物質(ストック)量の推計を行うなど、災害への活用も見えてきた。今後は、土砂の採掘量の推定や、日本だけでなくグローバルに都市重量を計測することにも挑戦する。

背景

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日本における物質フロー(平成21年度)
出典)平成24年度環境・循環型社会・生物多様性白書

谷川教授の研究テーマは「都市の重量を測る」ことである。都市においてどのくらいの物質やエネルギーが投入されたかといった“マテリアルフロー量”と、生活や産業活動を行う上で利用している物質の量を示す“ストック量”が、都市活動を表す基本的かつ重要な指標となる。

本研究室が扱う都市の重量(マテリアルストック量)とは、建築物やインフラといった社会の基盤となる構造物を対象としている。都市重量は、人口や経済、産業構造の規模や変化を如実に反映しており、人間の身長に対して適正な体重を求めるように一律に適正な重量を決めることは極めて困難である。しかし、低炭素かつ持続可能で豊かな社会を構築する上では、既存のストックをうまく利用し、社会が必要とするサービスに対して都市重量や代謝量を考慮する必要がある。

また、循環型社会の形成にむけて、資源の採取・消費・廃棄量を知る必要がある。社会に蓄積された物質はいずれ廃棄物になることから、特に都市には大量の潜在的な廃棄物が存在していることになる。そこで、いつ(社会インフラの耐用年数)、どこで(空間的な分布)、どのくらい(ストックされている量)の廃棄物が発生するかを把握するために、“4d-GIS”を構築した。“4d”とは、高さ情報を含む空間データに時系列データを加えたGISという意味である。

解析手法

マテリアルストックの対象は、主に建築物及び各種インフラである。これらの建設資材量を求めることで都市の重さを推定する。建築物は住宅地図のポリゴンデータに属性値として階数、構造種別、延床面積などを付加。構造種別(木造やRC造など)ごとに単位面積当たりの建設資材(木材、コンクリート、鉄など)の重量を推定し、延床面積を掛け合わせることで建築物の重量を計算する。基礎として打ち込む杭の本数も岩盤を考慮して計算している。

道路のストック量の推定には総延長や幅員の他、道路種別(市道、県道、国道など)による規格の違いも考慮に入れている。このような推定を異なる年代ごとに行うことにより年代間で変化のあった建築物等を抽出でき、マテリアルフローの推計が可能になる。年代によって建築基準が異なるため、それも考慮している。都市においてマテリアルストック量は増加傾向にあり、コンクリートがその大半を占める。増加傾向の主な原因は、建築物の高層化、構造種別の変化(木造→RC造など)だ。

結果

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東日本大震災における失ったストック量の推計

谷川教授らはこれらの手法を用いて東日本大震災における失ったストック量の推計を行い、震災後に速報値として環境省に提出した。推計結果を表した下図からは、仙台市沿岸部、石巻市などで失ったストック量が顕著に多いことが一目でわかる。2013年は、この分析手法を用いた研究成果をポスター発表した複数の学会において、優秀賞を受賞している。現在のストック量や過去からの推移などの分析を行うことで、将来発生するであろう廃棄物の推定を行い、処理・管理に役立てることができる。また、自治体にとっては災害時のがれき推定量をあらかじめ知ることができる。

まとめ

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Esri CityEngineによる視覚化

今後の研究テーマの1つとして、土砂の採掘量の推定がある。標高データの経年変化をTINの解析から求め、全国規模の土砂の採掘量の推定に挑戦するとのことだ。その他、名古屋、東京、大阪の地下鉄網の4d-GISにも取り組んでいる。EsriCityEngineによる研究対象都市の3次元視覚化にも取り組んでいる。都市の重さを測る対象は日本国内にとどまらず海外へも広げる予定である。さらに土砂の採掘量の推定もグローバルに行う。谷川教授は、「人間が自然環境へ及ぼした影響を、重量計測を通じて経年でグローバルに測りたい。」と今後の意気込みを語った。

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掲載日

  • 2014年4月15日