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事例

国立公園の利用者管理へむけたGISの活用

横浜国立大学 ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー

 

自然公園の生態系を守るため、利用実態の把握・管理にGIS を有効活用

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「GISを活用した自然公園の利用者管理支援システム」により、利用情報を適切に管理し、生態系を破壊しない適正利用のための計画・管理の実現を探る。

横浜国立大学VBL(ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー)加藤プロジェクトでは、国立公園等の自然公園利用による環境破壊の発生メカニズムを解明し、適正な利用に導くための方策をシミュレーションできるプログラムの作成に取り組んでいる。

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2003年4月1日より施行となった改正自然公園法では、これまでの自然地域の利用が原則自由であったものから、一定のルールを設ける利用調整地区の導入に方向転換された。これを受け、自然環境と利用状況について正確な情報把握と利用の適切な管理が求められるようになった。

加藤プロジェクトが開発中の「GIS(地理情報システム)を活用した自然公園における利用者管理支援システム」は、植生分布、地形、気象といった一般的な空間情報に加え、公園利用者の利用実態に関する動的な情報を組込んだ、よりきめ細かい管理システムの構築を特徴としている。

ケーススタディ:至仏山保全事業

至仏山(日光国立公園)は、首都圏に近いため、登山者数が多く一日千人を超える日もあり、かねてから過剰利用(オーバーユース)による植生破壊が懸念されている。「生態系保護・保全」と「利用体験の充実」を両立するための調査・情報収集、管理手法の確立と実施が課題となっている。

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平成14年度に、国や県、土地所有者などの関係機関は、至仏山保全緊急対策会議を設置し、至仏山の保全対策について検討した。その結果は「至仏山保全対策基本方針」としてとりまとめられた。この方針に基づき、平成14~16年度にかけて、群馬県によって至仏山環境共生推進計画調査事業が行われており、GISが活用されている。

当事業では、(財)日本自然保護協会(NACS-J)が事務局となり、成果統合チーム、植生調査チーム、地質調査チーム、利用動態チームで構成され、調査が行われている。NACS-Jが、各チームからの調査結果をレイヤ化し、統合的な調査結果を導くための「至仏山調査基盤システム」を作成中である。

利用動態調査

加藤プロジェクトは、利用動態調査チームの一員として、利用者動態及び登山道等利用施設に関する調査を担当している。至仏山登山状況の可視化、特に時間軸を組み込んだ利用状況の把握および利用状況モデルを作成している。

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GPSで登山道の情報を収集
している様子(至仏山頂上)。

現地調査では、登山口(鳩待峠、山の鼻)にて、15分間隔で登山者数をカウントし、また、GPSで登山道データ(位置、状態、時間、歩行速度など)を収集した。

これらの現地調査データをGISに取り込むことで、登山道の位置と状態、利用の実態、トイレ情報といった登山道情報の地図化とともに登山者利用の動態的な可視化が可能になった。

特に、登山利用の動態については、ArcGIS Tracking Analystのプレイバック機能により、任意の時点における登山者の位置を画面に表示することで、時間軸上での実態把握が可能となった。

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植物群落の分布図と登山道を
重ね合わせたところ。登山道
データと植生の特徴との関係
を検討することができる。

例えば、「いつ、どの地点で混雑状況が生じるか」を示すことが技術的に可能となり、過剰利用による植生破壊のメカニズム解明に対して、検討材料を提供することができるようになった。

また、シミュレーション分析も可能になった。
シナリオA:15 分間あたりの入山者数を30 名以内に制限
シナリオB:崩壊の激しい東面登山道の「下り」を禁止といった様々なシナリオを設定し、シミュレートすることにより、コースの変更や入山制限による登山者の集中度を事前予測し、 ①入山者数の管理をいつどこで行うか、②設備等の整備強化箇所の検討ができるようになった。

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まとめ

エコツーリズムに代表される自然地域のレクリエーション利用活動は、現在でもすでに大きな経済的意味を持っており、国内的にも国際的にも、今後一層、その人気と重要性を増すことは明らかである。そのエコツーリズムを、自然資源の賢明な利用という面において、真に「持続可能」なものとしていくためには、保護と利用の関係を明確にする自然地域の管理指針が不可欠である。加藤プロジェクトの研究成果はその管理手法としてGIS が有効な手段になることを示している。

プロフィール


プロジェクト・リーダー
大学院国際社会科学研究科
加藤 峰夫 教授



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資料

掲載日

  • 2005年1月1日