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業務・政策支援に向けた独自のGIS研修プログラム

横浜市 政策局 政策課

 

業務・政策支援に向けた独自のGIS研修プログラム

WebGIS と GIS との役割分担を明確化、実務対応の GIS 研修を実践する横浜市の取り組み

 

横浜市におけるGISの取り組み

横浜市のGISの取り組み経緯
表1:横浜市のGISの取り組み経緯

横浜市は、市町村としては日本で最大の人口約 370 万人を擁する都市で、GIS の取り組みのルーツは 1983 年にまで遡り、GIS 利用の先進自治体としても知られる。一貫してボトムアップ方式で取り組んで(表 1)おり、早い時期からデジタルマッピング(DM)データを GIS の共通基盤情報として位置付け、業務支援を中心とした自立・分散型の利用環境を整備した。現在は次の展開として WebGIS による行政内部情報共有・共用や地域連携等コミュニケーションツールとしての自律・協働型の GIS 利用環境の整備を中心にした取り組みを意欲的に進めている。

 

横浜市のGIS研修

政策課では、WebGIS「よこはまっぷ」を基にした GIS の利用が徐々に拡がりを見せてきた(2012 年末で、公開・非公開を合わせ 200 以上のマップが作成されている)ことから、従来個別的な要請に応じて行なってきた GIS 研修を、庁内での GIS の普及・啓発、人材育成を目的とした実務研修として実施することとした。研修は、単なる操作研修ではなく、実際の業務への活用を目指しており、研修で利用するGISデータも、関係部署が作成した職員にとって馴染みのある横浜の GIS データを使用している。


研修モデル

横浜市の GIS 研修モデル
図1:横浜市の GIS 研修モデル

横浜市では WebGIS と個別 GIS との役割分担を明確化している。GIS 研修も、GIS の基礎知識と WebGIS「よこはまっぷ」を使った様々なマップづくりを習得する基礎レベル研修( 図1のA)と、次のステップでは「課題解決型研修」(図1の B-1)で、ArcGIS を利用して行政課題解決に向けた集計・分析に進んで行くという研修モデルを設定している。

2012 年の受講者は、 基礎レベルの「WebGIS 研修」は半日単位で 9 回計 238 名、初級レベルの「課題解決型研修」は 1 日単位で 3 回計 69 名である。

 

課題解決型 GIS 研修

課題解決型 GIS 研修テーマ
表2:課題解決型 GIS 研修テーマ

課題解決型研修は 2009 年から開催し、現在は横浜市政策局政策部政策課、横浜市立大学後藤寛准教授ゼミ、ESRIジャパンのスタッフが協働で、実践的な研修体制を築いている。参加は公募制で、応募者全員が参加できるように調整している。参加職員も多岐にわたり、街づくり、市街地整備、環境、緑地保全、農業、福祉、保育・学童支援、高齢・障害支援、生活衛生、道路・上下水道・河川、交通、消防、危機管理等、様々な業務を所管する区・局が受講している。

研修効果を高めるため、応募の際に事前に設定した実習テーマからテーマを選択してもらっている。選択したテーマ毎に、4~5人のグループに分け研修を実施した。

課題解決型 GIS 研修スケジュール
表3:課題解決型 GIS 研修スケジュール

午前中に、これまでの横浜市のGIS活用事例と学際的な GIS の活用事例の紹介、ArcGIS が持つ基本的な機能を説明する操作実習を行った。午後は、グループに分かれて、テーマ別の行政課題について問題点の抽出や解決のツールとして GIS の利用について討議を行い、各々提示した課題からグループとしての検討課題の絞り込みを行った。その後、市が保有するデータを使い、各グループで集計・分析を行い課題マップを作成した。GIS の操作は ESRIジャパンのスタッフが中心になり技術サポートを行った。最後に、成果発表・講評を行い、様々な視点や処理方法、アイディアを共有した。

 

研修成果

戸塚区における高齢化の状況と住環境評価(平成 24 年度成果)
図2:戸塚区における高齢化の状況と
住環境評価(平成 24 年度成果)

図 2 および図 3 は、実習で作成された成果マップの例である。図 2 は、戸塚区における高齢化の状況と住環境評価を表しており、駅や病院、交番データに 65 歳以上の人口比率データを重ねて作成した。その結果、高齢者の多い地域に病院や交番がないエリアがあることがわかった。図 3 は、横浜の中心市街地を抱える中区の商業施設の立地状況を示しており、鉄道駅からの 500 m のバッファーを重ね、その中の店舗数及び床面積を計測した。「建物データや土地利用データを取り入れるとより細かい分析ができそう」と業務につながるイメージが描かれた。また、研修後のアンケートには、研修内容について以下のようなコメントが寄せられた。

「基本的な活用方法を学んだ後に試行錯誤しながらグループでデータを作れたため、知識・実践共に充実した研修になったと思います。」(病院経営局)

「グループワークでの話し合いがもっと活発にできると、GIS を通して情報の共有や連携ができるようになると思いました。ほかのグループの発表を聞いていて、いろんな視点があり、面白かった。」(高齢・障害支援課)

基礎レベルから初級レベルへの研修の流れが確立できた一方で、ArcGIS を利用した集計・分析等について、利用継続が難しいという参加者からの問題提起に対して、「自治体 GIS 利用支援プログラム」を活用して、継続的に利用検討できる環境を整えている。

中区における商業施設立地状況(平成 23 年度)
図3:中区における商業施設立地状況(平成 23 年度)

庁内では GIS の利活用が、集計・分析等にも広がりつつあり、待機児童対策担当が GIS を活用したことに刺激を受けた放課後児童対策担当が ArcGIS を取り入れた例もあるという。

GIS を組織横断的に活用していくためには、土台となる基盤データの整備が不可欠であり、横浜市は、GIS 導入当初からこの点を重視してきた。「この共通基盤データの整備こそが、横浜市での現在の組織横断的な GIS 利用展開を可能にした」と石黒氏は語る。

 

今後

今年で 4 年目を迎えた課題解決型 GIS 研修は大きな効果を上げており、受講者数も年々増加している。本研修を定期的に続けるとともに、成果発表会を開催し、より多くの職員と GIS の活用方法を共有化し、今後は、さらに中級レベル(図1 B-2)の研修も実施したいと考えている。

加えて、庁内での GIS 利用の増加に対応して、横浜市の各部署が作成し、庁内で共有・共用可能なGISデータについて、その内容・利用条件等を一覧できるポータルサイト「GIS プラットフォーム」を、2013 年にイントラネット上に開設する予定である。

課題解決型 GIS 研修の様子
課題解決型 GIS 研修の様子

政策課では「今後、さらに GIS は市民生活のなかで、必要不可欠なインフラストラクチャーの 1 つとして展開していくだろう。その方向性を踏まえつつ、GIS を行政の中に定着させていくため、現在実施している実務対応の GIS 研修を、さらに充実・強化していくことが重要」としている。

 

プロフィール


担当係長 米満 東一郎 氏(左)、石黒 徹 氏(右)



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掲載日

  • 2013年10月21日