事例 > ホノルル市の未来を 3D 都市景観モデリングで可視化

事例

ホノルル市の未来を 3D 都市景観モデリングで可視化

ホノルル市

 

高架鉄道建設でホノルル市はどう変わるのか

2013_ホノルル_1
ホノルル市の未来を表した3D都市景観モデル

米国ハワイ州ホノルル市は世界各国から観光客が訪れる人気の都市だ。しかし、市の交通機関の利便性は、全米都市の中でワースト10に入るといわれている。原因は多岐に渡るが、手頃な物件を求め郊外に住宅地が広がることでスプロール現象(※)が起こり、通勤などで都市部へ向かう交通機関が不足していることが主な原因だ。

このスプロール現象について、交通ニーズ増加のみならず、環境汚染、動植物の生息地の減少、農作地の損失、さらに住民の健康にも悪影響を及ぼしているとホノルル市では分析している。

 

公共交通指向型開発の導入

2013_ホノルル_3

交通渋滞の緩和を図るためホノルル市とホノルル郡は、イースト・カポレイとアラモアナセンターを結ぶ高架鉄道システムの建設計画を始動させた。公共交通指向型開発として進める新たな鉄道システムの導入は、ホノルル市内の交通手段を改善するだけでなく、地域開発の方向性の見直しも迫るものであった。

公共交通指向型開発とは一般的なソリューションで、人口増加への対応、スプロール現象の抑制、居住密度の調整などにより、交通機関への需要を抑える効果があるとされる。

中・高層ビルと高架鉄道を中心とした都市計画である公共交通指向型開発へのパラダイムシフトは、一部の住民からの反対にあった。建設計画の推進には、市民に対する情報提供と地域にもたらされるメリット・デメリットの説明が必要となる。ホノルル市では、出資者や市民への計画の説明と合意形成に、高機能のビジュアライゼーションツールである GIS の利用を決定した。

 

3D都市景観モデルの構築

ホノルル市の GIS 担当チームは、開発シナリオ作成に地理的ナレッジを盛り込んだジオデザインの概念を応用した。開発周辺地域の効果的な分析、比較、可視化を行い、市民との情報共有、該当地域の開発後の景観の検討、開発が地域にもたらすメリット、スプロール現象抑制といった課題に取り組んだ。

はじめに、公共交通指向型開発に必要な 3つのコアモデルである、徒歩圏、都市の発展、密集化モデルを定義し、分析に必要なデータリソースとその入手方法、構築手順を決定した。道路、建築規制、建物といった主要なデータは、ホノルル市が構築してきた豊富なジオデータベースを使用した。ジオデザインの要であるビジュアライゼーションは開発計画説明のための強力なツールと位置付けられ、ダウンタウン地区の 3D ジオメトリによる実景観の 3D モデルの構築が進められた。 

ところが、完成した都市モデルには空き地や反映されていない建物が 3,000 棟以上あるなど、精度の向上が必要だった。GIS 担当チームは Esri CityEngine を導入し、3D ジオメトリの作成と一連のルールを基礎としたテクスチャの応用によりモデルの向上を図った。実際の景観と街の様子をシミュレーションするため、建物の外観の写真の収集が進められた。集まったテクスチャはルールに沿って配置され、写真のない建物には色づけが施された。さらに、このルールは 3D ジオメトリ作成にも用いられ、単純な建物のテクスチャから複雑な構造への変換にも使われた。都市モデルの構築の最後に、3D モデルとして既に準備されていた高架鉄道が加えられた。

 

開発の利点を分析・可視化

3D ホログラフィーで作成された3D景観

ジオデザインの次のステップは、公共交通指向型開発の有効性を分析し、特定の地域向けに公共交通指向型開発がもたらす利益を示す新たなシナリオを作成することだ。ArcGIS 3D AnalystArcGIS Spatial Analyst エクステンション、モデルビルダーを使い、徒歩圏、都市の発展、密集化モデルが構築された。公共交通指向型開発で重要となるのは、駅までの移動距離だ。徒歩圏内モデルは、Spatial Analyst のジオプロセッシングツールを使い、家や職場からの駅までの移動距離が測定された。

分析の結果は、新たな交通機関導入の有用性を示す材料となる。地域における公共交通指向型開発への同意は、住民の鉄道利用の有無に関わらず、開発が市にもたらす利益を明確に市民に示すことで成立する。GIS 担当チームは、公共交通指向型開発を行った場合、行わなかった場合に予測されるシナリオを作成した。各駅のシナリオ作成には、ArcGIS Spatial AnalystArcGIS 3D Analyst で算出した密集化モデルが使用された。

Esri CityEngine を使用し、3D ジオメトリとテクスチャ作成のルールを用いた分析と、公共交通指向型開発計画による新たな景観モデルの作成が行われた。その結果、駅周辺都市における低・中程密度のビル群の発展と十分な未開発地域が 3Dモデルとして示された。同じモデルは、公共交通指向型開発を行わない場合の既存のゾーニングに対しても適用され、多くの家々が乱立し、スプロール現象が拡大した未来のホノルル市の景観を映し出した。

このように、ジオデザインの利用が有効なのは、分析と結果に基づき、出資者や市民に対して公共交通指向型開発のメリットを効果的に説明できるからだ。

※ 都市が無秩序に拡大してゆく現象


関連リンク

関連業種

関連製品

掲載日

  • 2013年7月5日