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事例

リモートセンシングとGISを駆使して津波被災地の浸水域と建物被害の把握

東北大学 大学院 工学研究科 災害制御研究センター

 

建物被害地図の作成と復旧・復興に向けての活動

東北地方太平洋沖地震津波災害

2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震による大津波が発生し、12都道県で死者・行方不明者19,867人(死者:15,781人、行方不明者:4,086人、震災から6ヶ月時点の警察庁の報告)にのぼる被害をもたらした。宮城県の仙台平野では、海岸線から5km以上内陸まで津波が浸水し、家屋だけでなく、鉄道や仙台空港などの重要なインフラにも甚大な被害をもたらした。また、宮城・岩手両県の内湾部では、既往最大外力を計画高とした高さ10m以上の防波堤・防潮堤をはるかに上回る規模の津波が来襲し、背後の集落が壊滅的な被害を受けた。
震災発生直後から、越村氏は研究室の仲間とともに、津波被災地における被害状況を把握するための活動を行ってきた。未曾有の広域地震津波災害であり、被災地の状況を現地調査のみによって把握することは不可能である。そこで、衛星リモートセンシングによる浸水域の抽出、浸水域内家屋棟数の推計、航空写真の判読による建物被害の把握を行い、GISによりそれらの情報を統合して、建物被害地図を作成した。

  

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図1 左:現地調査による津波浸水範囲の測定点、右:ALOS AVNIR-2画像のフィルタ処理により得られた浸水域(水色部分)。ArcGIS Spatial Analystのバンド演算機能を用いて計算した。

  

津波浸水域の把握

まず、広域におよぶ津波浸水域をどのようにして把握するかが最初の課題となった。現地調査ではとても無理である。そこで、2011年3月14日に撮影されたALOS AVNIR2画像を用いて浸水域の把握を行った。AVNIR2画像はRGBの可視光のバンドと近赤外のバンドからなり、ここでは可視のBlueのバンドと近赤外のバンド演算(ArcGIS SpatialAnalystのラスタ演算機能)からNDWIという指標を計算して画像フィルタを作成し、陸上の淡水域を抽出した。また同時に、現地調査を実施してキャリブレーションも行っている。
現地調査では、津波被災地において、漂流物の漂着地点を把握、または現地における聞き取り調査により、津波の浸水限界点の緯度・経度・標高値の高精度GPS測位を実施した。調査は3月26日から開始し、7月初旬の時点で岩手県・宮城県において計1,000地点における浸水限界点の測定を行った。GPS測位は、まず調査地域内に私設基準点を設置し、スタティック測位後に遠方の電子基準点を用いて基線解析を実施し、私設基準点の正確な座標を得た。その後調査者が移動局を持って浸水限界点のスタティック測位を行い、私設基準点のデータを利用して解析・補正した。結果は本研究グループの情報共有プラットフォーム (http://www.tohoku-tsunami.jp/) で公開している。

  

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図2 建物被害地図の表示例。(http://www.tsunami.civil.tohoku.ac.jp/hokusai3/)
国土交通省国土地理院が公開してる航空写真を判読し、
建物shapeファイルの属性フィールドに被害状況を付記して作成した。

  

家屋被害地図の作成

次に、津波浸水域内の家屋の流失状況を把握した。国土地理院が公開している航空写真(直下視・斜め視)を用いて建物の屋根の有無に着目して流失状況の判読を行った。建物データは、東京大学空間情報科学研究センターとの共同研究の一環として、ZmapTownIIシリーズ (提供機関:(株)ゼンリン)を利用し、建物被害に関する新たな属性フィールドを付加してマッピングした。この結果は研究室のウェブページで公開中である。

復興地図の作成にむけて

この結果をこれからの東北の再生・復興まちづくりにむけて社会全体で共有していきたいとの想いから、建物被害地図を作成し、それを発信してきた。津波浸水域内の家屋の流失状況を俯瞰して見ることはきわめて重要である。建物被害状況と、防波堤・防潮堤等の海岸施設の被害状況と関連づけることで、海岸施設がどの程度被害軽減に寄与したかなど、これまでの津波防災対策の検証を行う必要がある。また、海岸の地形,標高や土地利用などの様々な地理的条件や現地調査・シミュレーションによって得られる津波の流体力学的な諸量(浸水深や流速等)と関連づけて考えることで、地域がもつ津波に対する脆弱性が分かる。復興計画の策定とその実行にあたり、津波被害の実態や地域の脆弱性をきちんと理解し、それらを教訓としてまちづくりに反映させていく必要がある。また、災害の被害の記憶を地域に残し、次代に教訓を語り継いでいかなければならない。
地域の防災・減災機能を高め、東北がより魅力的な地域へと再生していくための準備として、建物被害地図を作成した。今後は、被災地の復興過程における土地利用変化や建物の再建、まちづくりの状況など、様々な地域の空間情報を可視化し、東北の再生を見守る復興地図として発展させていく予定である。

  

謝辞
浸水範囲の現地調査については、東北大学、千葉工業大学、防衛大学校、関西大学、大阪市立大学等からの計20名の研究者による研究グループにより実施された。研究の遂行にあたり、NEDO産業技術研究助成事業(08E52010a,代表:越村俊一)、科学研究費補助金(22681025,代表:越村俊一)、および東北大学運営交付金(特別) 東北太平洋沿岸における緊急津波実態調査(代表:今村文彦)の補助を受けて実施した。

プロフィール


越村 俊一 氏



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掲載日

  • 2012年1月1日