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事例

希少動物の保護にGISを活用。分断された生息地同士をコリドーでつなぐプロジェクト

CorridorDesign

 

アリゾナ州山間部のコリドー作成プロジェクトにGISを活用

道路開発により減少する生息地。分断された生息地同士をつなぐコリドーを作成し、希少動物と人類の共生の道を探る。

イントロダクション

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アリゾナ州フアラパイ山とピーコック山間の
エリアをつなぎ多様な生物の交流を図る。

生息地の減少は、生物多様性にとって最大の脅威である。人口の増加や都市化に伴い、野生生物の生息地は減少の一途をたどり分断化され続けている。分断化や孤立化により、植物や野生生物の個体数は、遺伝子多様性の喪失から絶滅までにおよぶ劇的な影響を受ける可能性がある。

生息地の復旧や現在残る生息地の保護、そして分断化された生息エリア同士の連結が、多様な動植物の存続のために非常に重要になりつつある。野生生物コリドー(回廊の意:生息地同士をつなぐ連続性のある森林や草原など)は、分断された個体同士の交流を助け、交配を促進し、気候変動の際には活動エリアを変えることも可能にする。野生生物コリドー作成の計画・設計・実施はたやすい事ではないが、GISの技術がそのプロセスの簡略化に一役買っているのである。

 

希少生物を絶滅から救うには

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カリフォルニア州オレンジカウンティにある
キャスパー荒野公園内のクーガー母子。
この写真は自動撮影カメラで撮影された。
(Donna Krucki撮影)

北アリゾナ大学森林学部の教授、Paul Beierは、野生生物コリドーの重要性にいち早く気付いていた。1988年から1992年までカリフォルニア州のサンタ・アナ連山でクーガーの生息数を調査するうちに、Beierは生息地の分断化がこの種にとって最大の問題だということに気付いた。連山の生息地をつなぐコリドーを作らなければ、カリフォルニア州南部のクーガーは絶滅してしまうだろう。「私は、個体数の統計学的観点から見てクーガーには個体間の交流が必要不可欠だということを文書にして訴えました。またその移動習性から見て、移動手段が与えられればそれを利用するであろうということも。」とBeierは語る。「クーガーはかろうじて残っている非常に状態の悪いコリドーを利用し移動していたのです。だからこそ私は、意図的にコリドーを作成すればクーガーが利用してくれるに違いないと思いとても興奮しました。これはすごい事だと思いませんか?」

コリドーモデル作成へ

数年後、北アリゾナ大学では、Dan MajkaがBeinerに加わって活動を始めた。MajkaはArcGISを利用し、Beinerと生息地の機能的な繋がりの確保のために活動するNPO、「South Coast Wildlands」が共同で確立した方法論をもとにコリドーモデルを作り出した。ワークフローと分析のスピードアップのため、MajkaはNPOのツールを能率化し、強化して、CorridorDesignerというツールセットにした。これは北アリゾナ大学がEsriと締結した大学サイトライセンスを用いて開発された。
CorridorDesignerは、生息地とコリドーのモデルを作成するArcGIS専用のツールセットである。ユーザフレンドリーで、3ステップで複数の重要な生物のための最少コストモデルが作成できる。中心となるインプット情報は、生息地適合性モデルで、研究エリア内の生息地やモデルとなるコリドーの質を評価し、適していない生息地をマスクアウトすることができるのだ。
GISの生息地適合性モデルは、適合度を土地利用や標高、地形、人為的干渉(道路からの距離、道路密度、家屋密度など)などのラスタデータのレイヤーと関連づける。ユーザはこれらデータと生息地の繁殖地としての適性度がランク付けされた閾(しきい)値を使ってある種の生物用のコリドーを作り、そして他の生物用にこの手順を繰り返す。次に、ユーザは特定の種の生物コリドーモデル同士を繋げ、仮の結合デザインを作成することができる。こういったコリドーの結合は、対象となる種のすべての個体を確保できる最も確実な方法なのである。
CorridorDesignerツールは2つの大きな生息地ブロック間を、野生生物が最もアクセスしやすい生息地でつなぐ。その地域を保護することが出来れば問題は解決するが、残念ながら様々な理由により、最適とされる場所はたいていコリドー用には残されていない。そこでこのモデルは代替候補地を比較するために最も多く使われる。国際侵入種プログラム(Global Invasive Species Programme: GISP)のGISコンサルタントであるJeff Jennessは、本プロジェクトに参加し、自身の専門知識を活用してCorridorDesigner専用のArcGISエクステンションを開発した。そのエクステンションは、理想的ではあるが現実には利用できないコリドーを評価し、それをより現実的な代替地と比較するツールを提供するものだった。これらのツールには個々の生息地間の距離計測やボトルネック分析、サイズ荷重通常統計、サイズ荷重ヒストグラム統計、サイズ荷重クロス計算統計、そして累積表面ツールが含まれた。これらの統計ツールにより、土地管理者や保護活動出資者は、保護するべき対象を知識を基に決定することが出来るようになった。自然保護活動家が日々直面する現実を計算に入れることにより、利用可能な土地の中から最適なコリドーを作成することを可能にしたのである。

プロジェクトメンバーたちはその後、自分たちが得た知識の全てを他の地域でのコリドー作成に活用してもらうため、「コリドーデザイン」という非営利団体を立ち上げ、ホームページ上でCorridorDesignerを公開した。

環境と交通の問題

野生生物コリドーは、ただ単に繋がりを保つものではない。人と野生生物双方にとって高速道路を安全なものにする方法をも提供する。CorridorDesignerツールは、様々な野生生物が主要道路や高速道路を横切るための架け橋を作成する理想的なロケーションの選定に有用だ。こういった架け橋を作ることにより、野生動物と車の事故数を減らし、それにより高速道路で無数に起きているロードキルの減少につながるだけでなく、ドライバーの安全も図ることができる。「一つの地域での生息密度が低く成長するまで何年もかかるクーガーのような大型哺乳動物は、1頭を失うことが雪だるま式に地域の生息数を減らすことに繋がってしまうのです。」アリゾナ・ミッシングリンク・プロジェクトの野生生物学者兼GISアナリストであり、CorridorDesignerツールを日々利用して活動するEmily Gardingは言う。「私たちの活動が、野生生物に優しい交通インフラを促進し、安定した生息数の維持に貢献できるという事を、とても嬉しく思っています。」

おわりに

野生生物コリドーの重要性は明らかだ。「コリドーは重要です。変わりゆく世界においても種と生息地を結びつけることができるのですから。」Majkaは言う。「コリドーによって、増大する問題に対処する道がひらけます。それが都市化であれ生息地の断片化であれ、あるいは交通量の増加、気候の変化であっても。」

GISベースのツールは、コリドー作成の計画から実施までのプロセスを著しく簡素化した。これらツールを使う人々の途切れることのないサポートと熱意によって、野生生物もまた持続的な、途切れることのない将来を期待できるのだろう。

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掲載日

  • 2012年1月1日