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GIS 基礎解説

レイヤーとマップ

 

レイヤーとは

レイヤーとは、現実世界に存在する地物(例:建物、道路、河川など)や事象(人口分布、天気、渋滞情報など)を GIS で管理・表現するために、主題ごとに分類したそれぞれの「層」を指します。主題を別々のレイヤーとして管理することによって、ある特定の主題のみに着目することができたり、複数のレイヤーを組み合わせて分析することによって、新しい情報を生み出したりすることができます。

ArcGIS においては、レイヤー自体は概念的なものであり、実際にファイルとしてあるいはデータベース内のデータとして物理的に存在する GIS のデータ ソースが格納されているわけではありません。レイヤーはデータ ソースを参照するための仮想的な器のようなものです。器の中に入れる中身、つまりデータ ソースは別途設定する必要があります。このようにレイヤーには参照先のデータ ソースの場所が設定されているだけなので、任意に別のデータ ソースに切り替えることができます。逆にいえば、1 つのデータ ソース(例:行政界データ)から複数のレイヤーを作成してそれぞれ異なる主題表現(単色での表現、人口密度での色分け表現、65歳以上の人口での色分け表現)を行うこともできます。 ArcGIS では、シェープファイルジオデータベースラスターArcGIS EnterpriseArcGIS Online といった Web サービスなどのデータを GIS 上に追加すると、個々のレイヤーとして扱うことができます。

レイヤーに対してできること

ArcGIS で扱うレイヤーにはさまざまな設定を行うことができます。たとえば、表示/非表示を切り替えたり、シンボルを設定したり、注記表現(ラベリング)を行ったり、表示される縮尺の範囲を設定(例:5 万分の 1 より拡大したときに表示する)したりすることができます。またレイヤーが参照するデータ ソースの属性情報を見たり、図形および属性の編集を行ったりすることもできます。 レイヤーは層状に重なっているために、上にあるレイヤーが下のレイヤーの情報を隠してしまうことがあります。たとえば、建物を示すポリゴン レイヤーの上に街区を示すポリゴン レイヤーが重なっていると、街区が建物を覆い隠してしまうため建物が表示されません。そのような場合はレイヤーの順序を入れ替えることによって適切な表現を行うことができます。

レイヤーの共有

レイヤーが参照するデータ ソースや、シンボルおよびラベルの色などの設定を保持したまま第三者に提供したい場合は、レイヤー ファイル(拡張子:lyr)あるいはレイヤー パッケージ(拡張子:lpk)といったファイル形式で保存します。レイヤー ファイルで保存した場合は、そのファイルとともに参照先データも併せて配布する必要があります。一方のレイヤー パッケージで保存した場合は、レイヤー ファイルと参照先データを 1 つのファイルに圧縮形式で保存しますので配布が容易です。

マップとは

マップは「地図」そのものであり、GIS ではもっとも重要なものです。マップを介して、GIS データの作成、編集、分析などを行うことができます。
マップは画面を通して見ると 1 枚の絵のように見えますが、実際にはさまざまな要素から成り立っており、その 1 つが上述のレイヤーです。レイヤーは主題ごとに複数に分けられており、マップ上に層状に重ねていきます。

少し別のものに置き換えて説明します。

最近は見かけることが少なくなりましたが、PC によるプレゼンテーションが普及するまでは、主に OHP(オーバー ヘッド プロジェクター)が使用されていました。OHP は光を当てた平面台の上に透明な OHP シートを載せてスクリーンに投影するという仕組みですが、いわば平面台が白紙のマップで、その上に載せる OHP シートがレイヤーで、スクリーンに投影された結果がマップという位置づけです。プレゼンテーションの場合は基本的に 1 枚の OHP シートしか載せませんが、GIS の場合は OHP シートに該当する主題ごとのレイヤーを複数枚重ね合わせて 1 つのマップを作り上げていきます。
ちなみに ArcGIS では 2D で表す地図をマップ、3D で表す地図をシーンと呼んでいます。

マップに対してできること

レイヤーと同様、ArcGIS のマップに対してもさまざまな設定が行えます。たとえば、表示範囲を制限したり、回転の角度を設定したり、座標系を定義したりすることができます。この中でも特に重要な設定が座標系であり、マップに座標系が定義されていないとレイヤーが正しい位置に重なって表示されません。しかし ArcGIS では、マップ上に追加されているすべてのレイヤーが異なる座標系を持っていたとしても、マップに座標系が定義されていればその設定にしたがって動的に投影変換され、正しく重なって表示されます。

マップの共有

レイヤーの共有と同様、作成したマップを第三者に提供したい場合は、マップ パッケージ(拡張子:mpk)と呼ばれるファイル形式で保存するか、Web サービスの形式で Web 上に公開することができます。マップ パッケージで保存した場合は、マップのすべての情報を保持したマップ ドキュメント ファイルと GIS データを 1 つのファイルにパッケージ化することができます。マップ パッケージがファイル形式であるのに対し、Web サービスで Web 上に公開することによって Web ブラウザーやスマートフォン・タブレットなど、さまざまな場所からマップを参照することができるようになります。

このようにレイヤーとマップは GIS の最も基本的な要素であり、レイヤーとマップを介して GIS のあらゆる業務(データの作成・更新、情報の検索・分析、データの共有)が行えます。